青学大の完勝に終わった11月4日の全日本大学駅伝。王者と競り合ったのは東海大だけで、3強のひとつに挙げられていた東洋大は”勝負のステージ”にさえ立つことができないまま3位に終わった。全日本大学駅伝を3位で終えた…

 青学大の完勝に終わった11月4日の全日本大学駅伝。王者と競り合ったのは東海大だけで、3強のひとつに挙げられていた東洋大は”勝負のステージ”にさえ立つことができないまま3位に終わった。



全日本大学駅伝を3位で終えた東洋大

 レース前日、東洋大・酒井俊幸監督は、「6区終了時で2分差ならチャンスはある」と話していた。自信にあふれた言葉のように感じたが、今思うとチームの苦悩が隠されていた。7区、8区に出場するエースに対しての期待感と、チームを鼓舞するための言葉選び。裏を返せば、「6区までを2分差で食い止めたい」という弱気な気持ちの表れとも言えた。

 区間エントリーは、1区・田上建(2年)、2区・西山和弥(2年)、3区・今西駿介(3年)、4区・浅井崚雅(2年)、5区・渡邉奏太(3年)、6区・鈴木宗孝(1年)、7区・吉川洋次(2年)、8区・相澤晃(3年)。補員の小笹椋(4年)と山本修二(4年)が、レース当日の選手変更(3人以内)でどの区間に入るかが注目された。

 過去のキャリアからすれば、1区、4区、6区が交代の候補かと思われたが、ふたりの4年生が入ったのは別の区間だった。小笹が5区で山本が7区。前年の全日本2区で区間2位と好走した渡邉が夏に故障し、今年の出雲駅伝6区で区間賞を獲得した吉川もシンスプリント(すねの内側の痛み)が気になるということで出場が回避された。ふたりの1万m28分台ランナーが外れたことで、青学大と対峙するには明らかに駒不足だった。

 迎えたレース本番では、2年生エースが失速した。1区の田上は青学大と15秒差だったものの、2区の西山がまさかの区間14位。青学大に急接近したいところで、早々と優勝争いから脱落した。

 それでも、3区の今西と5区の小笹が青学大勢と互角の走りを見せて順位を押し上げると、7区の山本で3位に浮上。8区の相澤は区間賞を奪い、鉄紺のタスキが意地を見せた。優勝した青学大とは2分46秒差。ほぼベストメンバーを組むことができた青学大に対して、東洋大は”2枚落ち”の状況。さらに西山の不発もタイム差に表れた。

「西山は設定タイムが31分30秒だったので、1分40秒ほど悪かった。序盤で流れていければ、終盤は並走できたと思うんですけど……。4区浅井も設定より50秒くらい悪いですし、前半はパンチ力がなかったですね。相澤も後半がよくありませんでした。57分30~40秒では走らせたかったので」と酒井監督。西山だけでなく、相澤も設定タイムより50秒ほどよくなかったという。

 相澤の場合は青学大の背中がまったく見えず、心理面がパフォーマンスに影響したのだろうが、気になるのは西山だ。出雲は2区で区間6位と振るわず、全日本はさらに悪かった。練習では、4年時に全日本と箱根駅伝の1区で区間賞に輝いた服部弾馬(現・トーエネック)がこなしていたレベルのメニューができているだけに、「不振の理由がわからない」という。前回の箱根は1区で区間賞。今年の日本選手権1万mで学生最上位の4位に入るなど、爆発力のある西山の完全復活が鉄紺軍団には不可欠だ。

「出雲と全日本は青学大の前を一度も走っていないので、箱根では青学大の近くでレースができるように仕上げていきたいです。簡単に3冠をさせたくない。東洋大らしい粘りの走りで、勝負できるようにしたい」

 そんな酒井監督の思いを実現させるには、スタートダッシュがカギになる。前回の箱根は3年生以下のオーダーで往路Vを勝ち取っているが、青学大と比べると5区と6区の”山”の戦力は劣る。箱根で青学大に勝つことを考えると、先制攻撃を仕掛けて4区終了時までに大量リードを奪う戦略しかない。全日本を回避した渡邉と吉川も箱根には十分間に合うだろうが、ロケットダッシュができるかどうかに鉄紺軍団の命運はかかっている。

 不完全燃焼に終わった東洋大に対し、4位の駒澤大と5位の帝京大は箱根に向けていいステップになった。駒澤大は箱根駅伝の予選会(10月13日)を史上最速のタイムで走破。今回の伊勢路でも3週間前の疲労を感じさせなかった。2区の片西景(4年)が7位から3位に順位を押し上げ、8区の山下一貴(3年)が区間2位と好走するなど、主軸が期待通りに活躍。前回の箱根は1区を片西、2区を山下とつなぎ、2区終了時で11位と出遅れたが、今回もふたりが1区、2区を走ることになれば序盤で好位置につけることができそうだ。

 また、帝京大は10月の出雲で過去最高の5位に食い込み、全日本でも過去最高順位(8位)を大きく上回る5位に入った。1区の竹下凱(4年)がトップで切り込み、その後は安定感のあるレース運びを見せている。さらに國學院大も、過去最高順位(9位)を大幅に上回る6位にジャンプアップ。1区18位から地力で順位を上げており、箱根駅伝では過去最高順位(10位)を上回るだけの戦力が整いつつある。

 一方で、箱根予選会2位の順天堂大と同3位の神奈川大は、予選会のダメージがあったせいかチグハグなレースになった。順天堂大はエース塩尻和也(4年)が4区で圧倒的な区間トップ。9人抜きで4位に急上昇するも、チームは13位に終わった。

 神奈川大はエース山藤篤司(4年)を1区に起用したが、8位と苦戦。4区終了時で13位まで転落したものの、アンカー越川堅太(3年)が奮起して、10位でゴールした。両校は予選会でしっかり結果を残しているだけに、箱根本戦にはきっちり仕上げてくるだろう。

 心配なのが、出雲で6位に食い込んだ中央学院大と、名門・早稲田大だ。共に主力に故障者が出たことでチームの足並みが揃っていない。中央学院大は1区の髙橋翔也(2年)が5位と好発進するも、ズルズルと順位を落とし、2013年以降の学生三大駅伝ではワーストタイとなる14位。早稲田大はルーキー中谷雄飛が3区で7人抜きを見せたが、チームは15位。永山博基(4年)、太田智樹(3年)ら主力が間に合わず、今回は1年生を4人も起用している。

 正月の箱根決戦まで約2カ月。伊勢路の戦いから有力校はどう変わっていくのか。日々の気温が下がっていく中で、学生ランナーたちの熱気はさらに高まっていく。