東海大・駅伝戦記 第35回全日本大学駅伝(後編)前編はこちら>> 東海大は4区、西田壮志(たけし/2年)がトップを維持し、5区の鬼塚翔太(3年)につないだ。 ここまでは両角速(もろずみ・はやし)監督の狙い通りに進んでいた。 1区の西川雄…

東海大・駅伝戦記 第35回

全日本大学駅伝(後編)

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 東海大は4区、西田壮志(たけし/2年)がトップを維持し、5区の鬼塚翔太(3年)につないだ。

 ここまでは両角速(もろずみ・はやし)監督の狙い通りに進んでいた。

 1区の西川雄一朗(3年)がトップ集団に付き、2区の關颯人(せき・はやと/3年)、3区の館澤亨次(たてざわ・りょうじ/3年)で相手を突き離す。青学大の4区は今年1月の箱根駅伝7区で区間新を出した林奎介(4年)だか、ここは西田が抜かれず我慢した。そして、5区の鬼塚がタイム差をさらに広げる。ロング区間の7区、8区につなげるまで、できれば1分以上の差をつける。ラスト2区間、青学大はエースの森田歩希(ほまれ/4年)と梶谷瑠哉(りゅうや/4年)という力のある選手が控えており、東海大が勝つには、そのプランしかなかった。



全日本大学駅伝を2位でゴールした東海大アンカーの湯澤舜

 その意味で5区の鬼塚にかかる期待は非常に大きかった。

 青学大は吉田祐也(3年)で、彼は初駅伝である。吉田と鬼塚との力関係を考えれば、ここで一気に差を広げていけると東海大の選手たちは考えていたし、鬼塚自身もその気持ちでいた。

 両角監督も「鬼塚はゲームチェンジャー」と相手との差を広げるか、あるいは差を縮める快走を期待していた。レース前、両角監督は勝負のポイントを7区に挙げていたが、隠れ勝負ポイントはこの5区だったのである。

 ところが、鬼塚が思うように差を広げることができない。

 今シーズンは調子が上がらず、8月末には右足首を痛め、今回はひざ痛を抱えていた。躍動感ある走りがみられず、表情は苦しそうだ。5区途中で鬼塚の走りを見ると両角監督は「うーん、もうちょっとペースが上がらないと後半厳しいなぁ」と顔をしかめた。

 監督の願いむなしく、鬼塚は最後までペースアップすることができなかった。いい時の鬼塚の走りを知るだけに、なんとも歯痒い感じがする。鬼塚は吉田に区間賞を奪われ、差を広げるどころか、逆に2秒ほど差を詰められ、青学大との差は24秒になった。

 6区、郡司陽大(あきひろ/3年)は真面目な性格で、淡々と自分のペースで押していくタイプ。湯澤舜(4年)と同じように粘り強さが持ち味で故障がないのが強みだ。出雲駅伝でデビューし、「走って駅伝についてわかったような気がします」と、自信をつけた。

 青学大はこの区間、吉田圭太(2年)を投入してきた。出雲駅伝でデビューし、今、森田とともに一番調子に乗っている選手。その調子のよさを見せつけるように序盤から突っ込んで走り、郡司との距離をアッという間に詰めてきた。

「東海大さんとは7区、森田の時点で1分以内の差であれば勝てる」

 レース前、青学大の原晋監督は、そう断言していたが、その狙いとおりになるべく、差が詰まり出した。

 9キロ地点で6秒差になり、10.5キロ付近では3秒差まで迫った。

「並ばれてからが勝負だぞ!」

 両角監督の檄が飛ぶ。

 郡司は沿道からの声を聞き、背後から何かしらの気を感じたのだろう。ラストスパートでスピードを上げ、詰められた差を逆に引き離しにかかった。最終的に11秒差で7区、主将の湊谷春紀(4年)にトップで襷を渡した。

 青学大は同じくキャプテンでエースの森田が待ち受けていた。

 昨年のレースがフラッシュバックする。

 8区のスタートまで首位を維持し、アンカーの川端千都(かずと)が出雲につづき2冠を達成すべく最後の19.7キロを走り出した。だが、神奈川大のエースの鈴木健吾に3キロ地点で並ばれ、そこから一気にかわされ、最終的に2位に終わった。

 今回も7区途中までは首位だった。そこからは昨年のレースの再現のようになった。

 森田と並走している時の湊谷はいつもどおりのように見えた。だが、地力に勝る森田は湊谷の顔をうかがい、スパートのタイミングを計っていたという。

 森田が9キロから前に出ると、アッという間に湊谷との差を広げた。10キロ地点で20秒差になった。

「なんとかアンカーまで20秒差でついていってほしい」

 両角監督は7区途中のポイントでそう言ったが、7キロ以上も残して20秒差がつき、早くも限界の秒差を越えた。森田は時折、通り沿いにある店のガラスで自分のフォームを確認しながらスピードを上げていく。自信に満ちた余裕の走りを見せ、湊谷の姿がどんどん小さくなっていく。15キロ地点では1分24秒もの差がついた。湊谷は、わずか5キロで1分以上もの差をつけられてしまった。

 レースは、ここで決した。

 レース後、湊谷は悔し泣きにくれた。

「1番で襷をもらったので、そのまま1番で渡したかったんですけど、(相手が)見えない状態にしてしまって……本当にそこは悔しいですし、申し訳ない気持ちです。2年生、3年生が頑張ってくれているなか、箱根で勝つためには自分たち4年生の出直しが必要かなと思っています」

 結果的には湊谷の区間で青学大に逆転されたが、この敗戦の要因は湊谷個人ではなく、ロング区間が苦手という東海大に潜む弱点にある。

 両角監督も「最後の2区間でうちの弱さが出た」と、厳しい表情でそう言った。

「チーム的に長い距離が苦手で、うちは森田くんとか青学さんの突出した力に最後、対抗できなかった。7区まで11秒差ありましたけど、こうなってみるとセーフティリードにはならず、逆に2分以上の差をつけられてしまった。結果は2位ですけど、完全に力負けです」

 これで3大駅伝のうち出雲に続き、全日本も失った。青学大に3冠達成の王手を掛けられたわけだが、むしろ箱根駅伝は楽しみが増えた。

 出雲では青学の影さえ踏めず、優勝争いにまったく絡めなかったが今回は7区途中までトップを維持し、優勝争いを演じた。それは、ひとえに選手の力が出雲の時よりも向上してきたからである。とくに前半3区間を走った西川、關、館澤は調子が上がっている。

 また、駅伝デビューの西田も物怖じせずに走り、箱根で走れる目処がついた。「山の神になりたい」と西田自身が言うように5区が有力視されている。

 さらに鬼塚は今後コンディションがよくなっていくだろうし、ケガから回復しつつある阪口竜平(3年)は箱根には戻って来れそうだ。三上嵩斗(しゅうと/4年)は間に合うか微妙だが、箱根に向けて強くなる要素がまだいくつも残っている。

「箱根は、ここまで成長している選手もいますし、そういう意味ではチームの底上げは出来ていると思います。ここに故障した主力が戻ってくれば、箱根はもう少し面白い戦いができると思います」

 両角監督は、手応えを感じている。出雲、全日本で敗れた借りは、箱根で返す。ここから東海大の底力が試されることになる。