名古屋グランパスが、J1残留のための高いハードルをひとつ越えた。 台風の影響によって順延された第28節(11月6日)のセレッソ大阪戦で、名古屋は1-0と勝利。内容的に完敗を喫した第31節(11月3日)のヴィッセル神戸戦から中2日という…
名古屋グランパスが、J1残留のための高いハードルをひとつ越えた。
台風の影響によって順延された第28節(11月6日)のセレッソ大阪戦で、名古屋は1-0と勝利。内容的に完敗を喫した第31節(11月3日)のヴィッセル神戸戦から中2日という厳しい状況のなか、大きな勝ち点3を手にした。
「本当に厳しい試合だった。前の試合が終わったあと、次の試合は自分たち次第、(自分たちが)走り切れば絶対に勝ち点3を取ることができると思っていました。今日は疲れているなか、チーム全体で走り切って、難しい状況を乗り越えることができて、すごく満足しています」
FWジョーは、笑みを浮かべてそう言った。
この勝利で、名古屋は勝ち点を37に伸ばした。順位も15位に上がり、J2降格枠(17位、18位)およびJ1参入プレーオフ出場圏内(16位)から脱出。16位のサガン鳥栖(勝ち点36)を勝ち点1上回って、自力でのJ1残留を可能にした。
中2日のハードスケジュールで迎えたセレッソ戦は、神戸戦からスタメンを4名変更した。負けられないプレッシャーもあったのだろうが、試合開始から選手たちの動きは硬く、試合運びはスムーズではなかった。
ジョーも、「神戸戦からあまり休む時間がなくて、チーム(の動き)は重かった」と、その辺のことは自覚してプレーしていたという。
試合が動いたのは、後半8分だった。FW前田直輝から左サイドのDF秋山陽介に展開。秋山はそのままボールを持ち上がって、中央にクロスを入れた。ボールはセレッソのGKキム・ジンヒョンが弾くも、そのクリアボールをFW相馬勇紀がヘディングで決めた。
相馬はこの試合がJリーグ初スタメン。Jリーグ初ゴールが貴重な決勝点になったのである。
体力的に厳しいなか、名古屋はこの1点を守り切った。相馬をはじめ、選手たちはフィールド内を走り回り、勝利への意欲をプレーで見せた。
そのなかで、ゴールを狙うばかりではなく、前線から守備のスイッチを入れるなど、攻守にわたって積極的に動いていたのが、ジョーだ。
攻守に存在感を示していたジョー
ゴールシーンでは、重要なおとりの役割を果たした。
秋山が左サイドからボックス内に侵入し、クロスを上げる際、ジョーは相手DFを引き連れてニアサイドに走り込んだ。その結果、中央にスペースができあがり、GKのクリアしたボールを、相馬は難なく押し込むことができた。
「最近のゲームでは(自らに対して)相手が守備を厳しくしてくるので、このときも『自分の動きで何人か相手選手を引っ張ることができれば、他の選手にスペースを与えられるかもしれない』と思いながら、ニアへ走りました」
ジョーの狙いが、ピタリとハマッたのだ。
確かにこの試合でも、セレッソのDFマテイ・ヨニッチがジョーを厳しくマーク。最近はどこのチームもジョーに対するマークを徹底し、ガチガチのハードマークで、ファールも厭わないという激しい当たりでアプローチしてくる。そのため、ジョーは生傷が絶えず、目の下や横などに傷を負い、両足には打撲の跡があるという。
W杯による中断が明けた夏場、ベガルタ仙台戦から7連勝を飾ったときに、6試合で12ゴールと大暴れ。現在21ゴールで、得点ランキングのトップに立つ選手ゆえ、相手が警戒するのは当然だ。そのため、各チームは「ジョー封じ」を徹底してきた。
ゴール前で、ジョーに入るボールはできるだけ遮断し、たとえボールが入っても、ポストプレーを含めて簡単にやらせないように厳しく当たっている。その策はまさに功を奏しており、ジョーのチャンスも、ゴール数も減少。名古屋は複数得点を挙げられなくなり、打ち勝つことができなくなった。
実際、第26節のV・ファーレン長崎戦でジョーが2ゴールを挙げながら打ち負けて(3-4)以降、第27節の川崎フロンターレ戦から前節の神戸戦までの5試合でジョーのゴールはわずか1。チームも1勝4敗と振るわなかった。”名古屋の失速”はさまざまな要因があるが、各チームの”ジョー封じ”がその主因になっていたことは間違いない。
シーズン前半、首位を快走していたサンフレッチェ広島が、相手チームのFWパトリックに対するマークが厳しくなって以降、失速していった形とよく似ている。
ゴール量産にブレーキがかかった理由について、ジョー本人はこう語った。
「自分に対する守備がすごく厳しくなりました。ただ、自分へのクロスなどのボールが減ったとは感じていません。チームはいろんなパターンの攻撃を作れますが、うまくいっていないときは負けてしまいます。
それに今、自分はいろんな動きを入れながら、チームを”助ける”という仕事をしているので、ゴールから離れてしまう動きが多くなり、チャンスに決められない場面が増えているんだと思います」
ただ、ジョーは最近、自分が点を取れなくてもいい、と割り切っている感がある。自らがおとりになって味方にスペースを作ったり、ポストプレーでも簡単に味方にボールを預けたりして、ゴールのひとつ前のプレーで効果的な働きを見せていた。そこには「オレが、オレが」といったエゴや、強引なプレーは見られない。
「自分が点を取らなくても、いろんなシーンでチームを助けることができればいいですし、それでチームが勝てれば、満足です。自分は、ひとりでサッカーをやっているわけではないですから」
ジョーは少し誇らし気にそう言った。
一時に比べてゴール数は伸びていないものの、ジョーの献身的かつ脇役的なプレーが、他の選手のよさを引き出すことにつながり、チームへの貢献度は再び高まり始めている。
ジョーがゴールを決めて勝てばチームは盛り上がるが、この日のセレッソ戦のような”隠れアシスト”が増えてもチームの勝利につながり、チーム内は活気づく。
残り3試合、ここに来て勝ちパターンをさらに加えられたことは、J1残留を争う名古屋にとって大きなアドバンテージになる。