「世界一のステップ」でファンを魅了してきた髙橋大輔が、競技会仕様のステップを少しずつ取り戻している。その片鱗を西日本選手権のフリー『ペール・グリーン・ゴースト』(ブノワ・リショー振付)で見せ、若手選手を圧倒する存在感を示した。

 4年ぶりに現役復帰した髙橋。まだ全盛期のような滑りや演技は戻っていないが、西日本選手権ではショートプログラム(SP)、フリーともに1位となり、合計244.67点で完全優勝を飾った。これで12月に大阪で行なわれる全日本選手権への出場を決め、同選手権の「フリー最終グループで滑る」という目標の、第一関門を突破した。



現役復帰2戦目となる西日本選手権で優勝した髙橋大輔

 本格的に練習を開始してから7カ月余り。この間、肉離れなどのケガにも見舞われながらも、復帰2戦目にして意欲的な姿が見て取れた。表彰式を終え、報道陣の前に現れた髙橋は照れ笑いを浮かべながら語った。

「とりあえず大きなミスなく終われたことは非常によかったと思いますけど、全体的にスピンやステップの質がよくなかったので、そういった部分は課題になったと思います。あと、トリプルアクセルを2本プログラムに入れられたことは、自分にとって非常に自信になったのでよかったと思います。近畿ブロック(選手権)では応援にお返しできる演技ができなかったですけど、今回はたくさんの応援に演技で恩返しができたと思います」

 3日のSP『ザ・シェルタリング・スカイ』(デヴィット・ウイルソン振付)は、6分間練習のときから異様な盛り上がりで、「大ちゃん!ガンバ!」のコールがあちこちで飛びかった。3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプでステップアウトのミスを出したが、まずまずの出来でまとめ、2位の友野一希に0.29点差の83.56点で首位発進した。

 ただしその演技は、プログラムの振り付けや曲調のせいかもしれないが、滑り自体に髙橋らしさがなく、”とんがった”演技ではなかったのが少々残念だった。

 髙橋本人も「目指すところからすると、40点くらいの演技かな。100点になることはないと思いますけど(笑)、感覚としてはそんな感じです」と、振り返っていた。

 4日のフリーでは、プログラム序盤に組み込んだトリプルアクセル+3回転トーループを完璧に跳んでみせ、出来栄え点(GOE)で2.56点の加点をもらう。さらに演技後半に跳んだ単発のトリプルアクセルでも鮮やかに跳んでGOE加点で2.72点をマークした。

 会場がくぎ付けになったのが、上半身と下半身を複雑に動かしながらの独創的で美しい振り付けのステップシークエンスとコレオシークエンスだった。音をしっかりと捉えながら、髙橋ならではの表現力を遺憾なく発揮し、ほれぼれする滑りを見せてくれた。ステップではレベル4と判定されてGOEも1.56点の加点をもらい、コレオでも1.70点のGOE加点がついた。

 演技後、苦しそうに顔をしかめて辛そうだった髙橋だが、スタンディングオベーションを浴び、会場は大歓声と大きな拍手で包まれた。

 やはり4年間のブランクは実力者である髙橋でさえも簡単には埋められないのだろう。とくにコンディションづくりには細心の注意を払わなければならないという。

「予想以上に全然できていないですね。もうちょっと楽に戻せるかなと思ったんですけど、全然楽ではなくて……。メンタルの部分では高くて、いい状態で過ごせているので、それに体がついてきていない状況です。(この時期に)もう4回転1本くらい跳べているつもりだったんですけど、まったくそんなところまで行っていなかったりとか、追い込んでやってしまうとケガをしてしまったりとか。4年のブランクで、実績だったり、積み上げがないというのは、これだけ影響するんだなと感じています」

 以前から髙橋とタッグを組んで、今回の現役復帰後もサポートすることになった渡部文緒トレーナーはこう語っている。

「とにかく本人に”できるんだ”と感じてもらうことが大テーマなので、まずそこから始めました。(故障していた右ひざの)再建というか、彼らしい動きが戻ってくるにはまだちょっと時間がかかります。いまの段階では5割くらいの状態だと思います」
 
 一方で、4年前と違うのは気持ちの部分だという。渡部トレーナーは「取り組む姿勢はだいぶ変わりましたね。自分で決めてやってくれるのですごく楽です(笑)。前はこちらが(やる気を)持ち上げていかないといけなかったですが、いまは体のことも会話しやすくなっていますし、自分から進んで取り組んでいます」と言う。
 
 最大の理解者である長光歌子コーチもまた、現役復帰後の髙橋のフィギュアスケートに対する取り組む姿勢に目を細める。

「とにかくモチベーションが非常に高いところに感心します。毎日すごく練習をしていますし、生き生きとしてやってくれるので、見ていて楽しいですね。(本来であれば)4年間に詰めておかなければならなかったことが、この復帰を決めてから、今日までの短い間にすべて押し寄せてきて、『ちゃんとこれを経験しておかなければダメだったね』と、よくふたりで言うんですけれども、自分のモチベーションがあるのに練習できなかったり、思うようにジャンプが跳べなかったり、いろいろスケーティングができない日もありましたけれども、常にそれでもきちんと前向きにいるなと感心していました。

 足を故障するまでの夏などは、すばらしい滑りを見せていましたので、全日本までには何とかいい状態にして、1回でもいいのでいい滑りをみなさんに見ていただきたいと思っています」

 ルール改正で厳しく採点されるようになったスピンは、まだまだ改善の余地がある。フリーを滑りきるだけの体力と持久力もつけなければならないだろう。課題はいくつも出てきたが、それらをひとつひとつ克服していくことが、いまの髙橋にとっては「楽しみ」なのだという。長光コーチも渡部トレーナーも、髙橋が喜々として練習に励んでいると話してくれた。
 
 全日本選手権まで約1カ月ちょっと。大きな目標を達成できるかどうかは、残された時間でどこまで納得のいく練習をして演技を仕上げられるかにかかっている。髙橋本人もそれは十分に承知していた。

「羽生選手や宇野選手らたくさん実力者がくると思うので、今回の演技では上にはいけないと思いますので、少しでも上げられる部分は上げていって、目標であるフリー最終グループに入って、その先にもしメダルが見えるのであれば、そういったところも目標に置いて挑んでいきたいなと思います。

(「世界が見えてきたか?」と問われて)まったく世界は見えていません! すみません(笑)。世界では通用しないと、今の段階では思っているので。本当は、通用できるくらいになっていたらいいなと思ってスタートしたんですけど、やっぱり甘くないですね。まずは4回転を跳んでからですね。でもジャンプだけじゃなくて、スピンも日本でもトップに入れないと思うので、他の部分のレベルアップも大事だなと思います」

 その言葉からは、少しずつ自信をつけながら、復帰シーズンを楽しんでいることがうかがえた。そんな気持ちの表れなのだろう。報道陣の質問に答え終わった髙橋は、「イエー、勝った~! とりあえず1位だ」と、スキップをするように跳ねながら、小走りに引き上げていった。