大阪・ITC靱テニスセンターで開催されている「三菱 全日本テニス選手権」は、8日目に女子シングルス決勝戦が行なわれた。第1シードの清水綾乃と、今大会を最後に第一線を退くことを示唆する澤柳璃子。その両者で競われた決勝戦は、第2セットの途中まで…

大阪・ITC靱テニスセンターで開催されている「三菱 全日本テニス選手権」は、8日目に女子シングルス決勝戦が行なわれた。

第1シードの清水綾乃と、今大会を最後に第一線を退くことを示唆する澤柳璃子。その両者で競われた決勝戦は、第2セットの途中まで、清水が強打で澤柳を圧倒する。しかし第2セットのセットカウント5-2、40-0と3連続マッチポイントを握ったところから、清水にミスが増え始めた。その機を逃さず追い上げた澤柳が、4ゲーム連取で追いつき第2セットはタイブレークへ。タイブレークも一進一退の激しい攻防となるが、最後は澤柳のバックがラインを割り、第1シードが初戴冠した。

表彰式のスピーチで、準優勝者の澤柳は「泣く予定じゃなかったんですが、悔しいと涙が出ます」と、大粒の涙をこぼす。果たして、その涙は悔しさだけから出たものか――会見でのその問いに、澤柳はしばらく考え黙した後に、「はい、悔しさだけです」と涙混じりの笑みで応じた。

起死回生のウィナーを決めても、あるいは歓喜の勝利を手にしても滅多に声を上げぬ清水が、「カモン!」と鋭く叫んだ。

「自分でも、あんなに大きな声が出るなんて思わなくて」と、試合後に照れ笑いを浮かべるほどの気迫が、この試合を象徴していただろう。第1セットは6-0で圧倒し、第2セットも大きくリードし手にした3連続マッチポイント。だが勝利を意識したこのゲームで、攻め急ぎ6本の勝機を逃した。そこからは悔いが身体を縛り、相手の猛攻を自ら呼び込んでしまう。もつれ込んだタイブレークでは、自分の硬さも相手の勢いも認めた上で、「取り敢えずコートにボールを入れて、あとは走る」ことを決意。

そのように我慢のプレーを続ける中で、飛び出したのが6-6の場面で叩き込んだ、バックのダウン・ザ・ラインへのウィナーだ。そうして続く打ち合いで、相手のショットがラインを割る。その時の清水は、声を上げることも派手なガッツポーズを掲げることもなく、安堵の笑みを静かにこぼすのみだった。

当面の目標をグランドスラムやWTAツアーに定める清水にとり、全日本の優勝はあくまで通過点。第1シードの重圧の中で手にしたタイトルを自信とし、来週には再び世界へと旅立つ。(リポート=内田暁 ©スマッシュ)

※写真は大会の様子

(©スマッシュ)