11月3日、ラグビー日本代表(世界ランキング11位)は東京・味の素スタジアムで「オールブラックス」ことニュージーランド代表と対戦する。オールブラックスと言えば、2009年から世界ランキング1位を維持し、2011年と2015年のラグビー…

 11月3日、ラグビー日本代表(世界ランキング11位)は東京・味の素スタジアムで「オールブラックス」ことニュージーランド代表と対戦する。オールブラックスと言えば、2009年から世界ランキング1位を維持し、2011年と2015年のラグビーワールドカップで史上初の連覇を達成した、押しも押されもせぬ世界的強豪だ。



世界選抜戦でもテンポのいいパスで攻撃を牽引した田中史朗

 日本代表はその世界王者と過去5度対戦し、一度も勝ったことはない。31年前には0-74、4-106と連敗し、1995年のワールドカップでは17-145と歴史的黒星を喫し、2011年のワールドカップでも7-83と敗戦。前回は2013年に日本で対戦し、6-54で敗れている。

 今回のオールブラックスには、キャプテンのNo.8(ナンバーエイト)キアラン・リードや、2年連続で世界最優秀賞に輝いたSO(スタンドオフ)ボーデン・バレットなど、主力19名が11月10日のイングランド代表戦に備えてすでに渡英している。日本代表と戦うメンバーは若手が多い。

 ただ、実績のある選手がいないわけではない。

 ケガから復帰した56キャップを誇るHO(フッカー)デイン・コールズ、キャプテンにはリーダーシップに長けたNo.8ルーク・ホワイトロック、2年連続でクルセイダーズをスーパーラグビー優勝に導いたSOリッチー・モウンガ、決定力のあるWTB(ウイング)ワイサケ・ナホロ、スピードスターWTBネヘ・ミルナースカッダー、SOボーデンの弟で21歳の若きFB(フルバック)ジョーディー・バレット……などなど。

 世界王者のプライドにかけて、彼らが日本代表に正面から向かってくることは間違いない。

 対する日本代表は、パナソニック ワイルドナイツに所属するチーム最年長、33歳のベテランSH(スクラムハーフ)田中史朗が10月26日の世界選抜戦に続いて控えから出場する予定だ。日本人初のスーパーラグビープレーヤーの田中は、2013年から2016年までニュージーランドの強豪ハイランダーズにも所属し、2015年にはスーパーラグビー初優勝にも貢献した。

 つまり、現在の日本代表において、もっともニュージーランド代表やその選手たちに対して見識のある選手と言えよう。そんな田中に、オールブラックス戦への意気込みや戦い方を聞いた。

 田中は2013年以来、2度目の「オールブラックス挑戦」となる。2011年ラグビーワールドカップでは当時のジョン・カーワン・ヘッドコーチ(HC)が田中ら主力数名を温存したため、対戦することができなかったからだ。

「ワクワクしています! 対戦すること自体が楽しみ。誰が出ても日本代表として戦うことは変わらない。自分たちのやることを100%理解して、全力でぶつかっていきたい。最高のジャパンを見せて勝ちたい!」

 5年ぶりとなるオールブラックスとの対戦に、田中は心を躍らせている。

 今回のオールブラックスには、ハイランダーズ時代のチームメイトであるWTBナホロなど、スーパーラグビーで戦った面々が顔を揃えている。ただ、「誰を警戒すればいいか」の問いに対し、田中は「オールブラックスだから全員能力があるので、特に誰とか……は言えません」と、対戦する全員を警戒している。

「ミスがないですし、やることのレベルが高いですし、チームとして、本当にひとつの方向を向いている。ひとりひとり、やることをわかっているのが彼らの強みです」

 オールブラックスの強さについて聞くと、このように答えた。

 田中がスーパーラグビーに初挑戦して初めて帰国した際、日本とニュージーランドの違いを聞いたことがある。すると、田中はこう答えた。「ニュージーランドの選手は(FWのスクラムを組む)PR(プロップ)の選手でもゲーム理解力が高い」。オールブラックスになるような選手は、小さいころから楕円球に親しみ、どんなポジションの選手でもラグビーIQが高いというわけだ。

 それでは、どうすれば日本代表は勝機を見出せるのか。

 キックを蹴ってそのままボールをキャッチしたり、相手のボールを奪ってからの速攻が、今の日本代表の武器となっている。ハイランダーズ時代からジェイミー・ジョセフHCとともに戦っている田中もそれを十分に理解しており、「ディフェンスで我慢して粘り強さを出し、ボールをターンオーバーしてから、しっかりトライを獲っていく形を出して勝負したい」と気合いを入れた。

 9月の和歌山合宿、そして10月の宮崎合宿と、日本代表は両合宿で大いに走り抜いた。とくに宮崎合宿では第1週目に4部練習を敢行し、午後は45分~50分ほとんど休憩もなく「アタック&ディフェンス」を行なった。

「1日だと別府でやったサンウルブズの合宿がしんどかったですし、長期ならエディー(・ジョーンズHC)時代ですが、1週間だったらラグビー人生のなかで今回が一番大変でした!」

 田中は今回の合宿の過酷さを、過去の思い出を振り返りながら比較した。

 ジョセフHCがそこまでハードな練習を課した狙いは、今回のオールブラックス戦のためだけではない。11月17日に対戦するイングランド代表といった世界的強豪と今後戦っていくためには、メンタル面の強さを身につけること、そして心拍数が上がったつらい状態でも正確な判断をし、一貫性のあるプレーをすることにある。

「強いチームほど、相手の穴(隙)は小さい。ただ、フィットネスを上げることによって、その穴が空いている時間が長くなる。だから、もっとフィットネスを高めていけば(勝てる)可能性が広がる」(田中)

 10月26日に行なわれた世界選抜との試合では、後半序盤で7-31と24点差をつけられたものの、その後は3トライを重ねて28-31まで追い上げた。「テンポを上げようと意識した」という田中は後半途中から出場し、日本代表のアタックを老獪にリード。密集周辺でのFWの使い方や咄嗟の判断力は、いまだ世界トップレベルであることを示した。

 最後に、オールブラックスと戦う意義について、田中に聞いた。

「世界一のチームと対戦することで、日本代表の現在地が確認できる。勝つ可能性は低いと思うが、ゼロではない。『日本代表はこれくらいできるんだ』と、オールブラックスを通じて世界に僕たちのすごさを見てもらいたい。そして、全力でチャレンジする姿を日本のみなさんにも見てもらいたい」

 前半から粘り強いディフェンスで接戦を演じ、「ブレイブブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」は流れを呼び込むことができるか。オールブラックスを誰よりも知る田中の判断力とパスが、日本ラグビー界に新たな歴史を作るカギとなる。