グランプリ(GP)シリーズ・フィンランド大会開幕を翌日に控えた現地時間11月1日午後、男子の公式練習で、羽生結弦はまだ全開という感じではなかった。「ちょっとフラフラしていましたけど、それはたぶん飛行機での移動の影響だと思うので、しっか…

 グランプリ(GP)シリーズ・フィンランド大会開幕を翌日に控えた現地時間11月1日午後、男子の公式練習で、羽生結弦はまだ全開という感じではなかった。

「ちょっとフラフラしていましたけど、それはたぶん飛行機での移動の影響だと思うので、しっかりコンディションを合わせていきたいと思います」



今シーズンのGPシリーズ初戦に臨む羽生結弦

 羽生自身はこう話していたが、それでも4回転サルコウや4回転トーループ+トリプルアクセル、4回転トーループ+3回転トーループなどは力みのないジャンプで軽く決めた。同時に、ジャンプの合間には、指先をくるくる回してイメージトレーニングを繰り返している姿も度々見せていた。

 羽生は「ちょっと空回りしていたかなと思いますね。でも、しっかり地に足を付けて今日やるべきこと、今感じるべきことは感じられたと思うので、いい練習ができたと思います」と振り返った。

 曲かけは、ショートプログラム(SP)の『秋によせて』だった。静かな曲の流れの中で4回転サルコウとトリプルアクセルを軽やかに決める。だが、オータムクラシックの時より少し後ろにずらして後半にした4回転トーループ+3回転トーループは最初のジャンプが2回転になって着氷を乱し、やや強引に3回転トーループを付けた。

 その後のフライングキャメルスピンはスキップして、チェンジフットシットスピンから演技を再開すると、空間を大きく使ったステップを情熱的に滑り、最後はチェンジフットコンビネーションスピンで締めた。

「ショートの4回転トーループ+3回転トーループを後半にしたのは、オータムクラシックでも言っていたように勝たなきゃいけないからです。ただ、自分がこの曲で表現したいことは絶対に譲れないなと思って……。大変ではあったけど、4回転トーループからの連続ジャンプを少しずらして後半に入れ、そのうえでジャンプ以外の要素も後半にすべて入れるという構成にしました」

 ジョニー・ウイアの演技を見て印象が強かったもののひとつに、彼のジャンプの「流れるようなランディングの美しさがあった」と羽生は以前話していた。だからこそ、このプログラムでは曲調が緩やかな前半のうちに力みのない、柔らかな流れのあるジャンプを決めて、後半の曲が盛り上がるところをスピンとステップで自分の感情を表現したいという意図がある。

 羽生は「やっぱりジャンプが終わると自分も気持ちをより入れることができますし、ある意味解放されるところはある。そうやって自分の気持ちを解放して、スピンやステップをやりたいという意識がすごくあります」と説明する。この日の練習でも意識していたのが、力みのない軽やかで美しいジャンプだったのだろう。

 さらに羽生は、フリーのジャンプ構成の変更についても口にした。オータムクラシックでは4回転ループの後に4回転トーループを入れ、後半最初の4回転サルコウに3回転トーループを付ける連続ジャンプにしていたが、今大会のプログラムプランは、ふたつ目のジャンプを単発の4回転サルコウにして、後半に入って最初のジャンプを単発の4回転トーループにしている。

 そして、最後3回のジャンプには、4回転トーループ+トリプルアクセルと3回転フリップ+3回転トーループ、トリプルアクセル+1Eu+3回転サルコウと連続ジャンプを並べてきた。これもやはり勝つための戦略であるとともに、自分が今できる最高の構成にしたいという気持ちの表れだ。

「やっぱり、2回転を一本も跳ばなくてもよくなったというところは大きかったですね。もちろん練習の段階でたいへんなところは何カ所もあったけど、そこはしっかりクリアできたので不安なくできると思います。3回転フリップ+3回転トーループはジュニア以来だと思います。ルッツはまだ足にかかる負担がちょっと大きいのでそれを考慮してフリップにして、最後の3本のジャンプの中に4回転を入れつつ、3回転+3回転も入れました。なおかつトリプルアクセルを2回入れたいという欲張りな考えもあったので……。だったら、4回転トーループの後にトリプルアクセルを入れるしかないなと思ったんです」

 オータムクラシック後、技術的にも安定してきたのでプログラムの通し練習をしっかりやってきたという羽生。また、レベルを落としてしまったスピンやステップも、「構成を変えて、かなり練習をしてきましたし、変えたプログラム構成に見合う体力作りもしてきました」とGPシリーズ初戦に意気込む。

 納得のいかない演技だったからこそ、より難度の高いプログラム構成にして自分のモチベーションも高める。それはこれまで何度も見せてきた、羽生結弦らしさでもある。この大会でまた、彼の新たな意地を見られそうだ。