第17戦・オーストラリアGPで、マーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)が2年越しのヤマハ連敗記録にようやく歯止めをかけた。 この勝利により、昨年の第8戦・オランダGPの優勝(バレンティーノ・ロッシ)を最後に続い…

 第17戦・オーストラリアGPで、マーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)が2年越しのヤマハ連敗記録にようやく歯止めをかけた。

 この勝利により、昨年の第8戦・オランダGPの優勝(バレンティーノ・ロッシ)を最後に続いてきた不名誉な「優勝日照り」は、26戦目にしてようやくピリオドが打たれた。



昨年のフランスGP以来となる優勝を挙げたマーベリック・ビニャーレス

 ビニャーレスは金曜午前のフリープラクティス1回目からトップタイムを記録し、土曜午後の予選ではポールポジションと僅差の2番グリッドを獲得。日曜の決勝レースでは、スタート直後こそトップグループ後方に沈みかけたものの、8周目に先頭に立つと、その後は後続をぐいぐいと引き離して独走モードに持ち込み、トップでゴールラインを通過した。

「タイヤのことは考えず、とにかく攻め続けた。後ろと3秒差があるとわかってから、少しタイヤを温存しにかかった」と、ビニャーレスはこの日のレース展開を振り返り、「今日の優勝は、ル・マン(125ccクラスで世界選手権初優勝を達成した2011年のフランスGP)や、シルバーストーン(スズキで最高峰へ昇格した際に初勝利を挙げた2016年のイギリスGP)と同じくらいうれしい」と、心からの喜びを素直にあらわした。

 スズキからヤマハへの移籍後、初レースとなった2017年開幕戦のカタールGPでいきなり優勝を飾り、続くアルゼンチンGPで連勝。相性のいい第5戦・フランスGPで3勝目を挙げたが、以後はヤマハYZR-M1の不調もあり、優勝からは遠ざかる日々が続いた。表彰台の頂点に立つのは、今回が実に1年5カ月ぶりである。

 その間には、さまざまなことがあった。全幅の信頼を置いていたはずのチーフメカニック、ラモン・フォルカーダとの不仲説が伝えられ、我々との日々の取材では「モチベーションの維持が難しい」と漏らすことが一再ならずあった。バイクの不調は彼をますます不機嫌にして言葉数も減ってゆき、やがて「今日はどのコーナーでも転倒してやろうと思って全力で走った」と、自暴自棄気味なコメントを述べることもあった。

 その悪循環が変わってきたのは、アジア環太平洋を転戦する「フライアウェイ」の緒戦、第15戦・タイGPからだ。

 このレースウィークにバイクの前後バランスを大きく見直したことで、一気にフィーリングが向上し、3位表彰台を獲得。次戦の日本GPが行なわれるツインリンクもてぎは、典型的なストップ&ゴータイプのレイアウトで特性が大きく異なるため、セットアップを変更して臨み、結果は7位。ヤマハが抱える根本的な問題は何も解決していないことがあらためて浮き彫りになるようなレース結果となった。

 そこから間を置かず、2週連戦の今回を戦うフィリップ・アイランド・サーキットは、もてぎと対照的に、むしろ流れるようなリズムで走ることが必要なレイアウトだ。長い直線があるわけではなく、ハードブレーキングが要求されることもない。バイクの性能差もライダーの技倆である程度なんとかなってしまう、という言い方もできなくはないだろう。

 ビニャーレスはマシンバランスをタイの状態に戻し、初日から快調な走りを披露したが、この日の走行後には、この週末用にとくに何か新しいものが入っているわけではない、とも述べていた。前戦の日本GPではヤマハのテストチームから中須賀克行が参戦していたが、その際には「ファクトリーの彼らが、電子制御とエンジン由来の問題と指摘する部分は、自分も同じように感じることがある。とはいえ、セットアップで対応していける部分もまだ残っていると思う」と中須賀は話していた。

 今回の優勝は、彼のその言葉を裏づけるリザルトともいえるだろう。とはいえ、YZR-M1の抱える根本的な課題が解決しているわけではないのだろうから、ヤマハ陣営はこの勝利で安堵するわけにはいかない。

 次のレースは3週間連戦の3戦目、マレーシアのセパン・サーキット。2本の長いロングストレートと、低速から高速まで多彩なコーナーが配置されたレイアウトだ。トップスピード、ハードブレーキングのスタビリティ、低速からの素早い立ち上がり加速、流れるようなリズムの切り返しと、あらゆる要素が必要で、エンジン・車体・電子制御の三要素が高レベルでバランスしていなければ、トップレベルの戦闘力を発揮することは難しい。

 ヤマハ陣営にとっては、ドゥカティやホンダ勢に押され、またしても厳しいレースウィークになる可能性が高い。そこをどうやって乗り切っていくか。そこが、来年に向けて士気を高めていくための重要な要素になるだろう。