Tリーグへ参戦するとともに以前から日本リーグにも参戦している琉球アスティーダ。同チーム内でTリーグへと「内部昇格」したのが小澤吉大だ。丹羽孝希や村松雄斗など沖縄とはゆかりのないメンバーがいる中で、小澤は琉球に籍を置いてすでに3年目、自らの大…

Tリーグへ参戦するとともに以前から日本リーグにも参戦している琉球アスティーダ。同チーム内でTリーグへと「内部昇格」したのが小澤吉大だ。丹羽孝希や村松雄斗など沖縄とはゆかりのないメンバーがいる中で、小澤は琉球に籍を置いてすでに3年目、自らの大抜擢に対して「僕が出ていいのかって思うくらい選手のレベルが高い。早川さん(周作・琉球アスティーダ球団社長)に “僕が入るんですか?”って聞き返したほどで」と苦笑する。

松島輝空のコーチを務める

小澤の言葉の通り、「自分の試合の直前まで自分のための練習はしません」と語る。現在は地元京都で“第二の張本”との呼び声も高い松島輝空(11歳・木下所属)のコーチを務めているのだ。

「今の僕はコーチですよ」と言うが、侮れない。実力は折り紙付きだ。ダブルスに定評があり、2018年には吉村和弘、木造勇人組(愛知工業大学)をダブルスで下し、日本リーグ前期リーグで優勝した有延大夢・鹿屋良平組(リコー)など格上相手に勝利ももぎ取ったこともある。「まともに打ち合ったら僕に勝ち目はない。だからいつも自分なりの戦い方を考えるんです」。小澤が明かす“弱者の兵法”とは。

現在の小澤にとって、Tリーグは“夢の舞台”だった。「日本リーグで練習してると、横で協和発酵キリンの選手が練習してて。“すごいなぁ”って思っていたんです。この上の世界レベルの選手が集まるTリーグってどんな感じなんだろう」。見上げていた舞台に今度は自分が選手として立つ。無策で臨むわけにはいかない。

「チカラのある選手と真正面から戦わずに、いかに逃げつつ戦うかが課題です。早いラリーに対応してたら負ける。トリッキーなプレーで日本リーグでもずっと戦ってきた。テクニシャンとしての部分を見てほしい。こんな技術もあるのか、と。一般常識にないような技術を見せていければと思っている」



陽気な性格と堪能な英語で海外生活を乗り越えてきた小澤は、海外選手の多い琉球アスティーダの中でもチームのコミュニケーションの要を担う

ドイツ仕込みの弱者の戦法

こうした考え方に至ったのは、ドイツでのこと。17歳から足掛け5年間、ドイツ・ブンデスリーガの3球団で戦い抜いた経験をもつ。「ドイツを始めヨーロッパの選手は力のある選手ばっかりで」。アポロニア(T.T彩たま)や岸川聖也(T.T彩たま)フレイタス、ピッチフォードなど、世界トップクラスの実力者たちに揉まれ、試行錯誤が始まった。1、2年目は負け越しに終わった。負ければ容赦ない罵声を浴びせられた。「ドイツは厳しくて。日本なら“負けても次頑張れよ”だけど、ドイツだと“もうお前の顔は見たくない”とか言われる。野球で言えば阪神ファンみたいな感じですよ(笑)」。関西出身の小澤が阪神ファンと形容するのだからさぞかしシビアな環境だったのだろう。

「どうやったら勝てるんやろ…」。小澤が目をつけたのがテクニックを磨くことだ。3年目にしてようやく勝ち越した。現在のプレースタイルをこう分析する。「チキータで先手を取るとかはできなくて。自然とトリッキーなプレーになったのかもしれません」。トリッキーなプレイとは一体どういうものだろうか。その答えの一端を教えてくれた。「例えばカットブロックとかですね。丹羽選手がよくやっていますが。すごい急にラリーになった場面でカットブロックして崩したり、とかね」。そうやって笑った顔には自信が垣間見える。

「試合に勝つこともそうだけど、何事も一戦一戦やること。一球一球粘り強く。知名度でも力で劣っている僕にとって、簡単に捨てるプレーはない。しのいでしのいでそこから巻き返したい。最後まで粘り倒すしかないっすね」

パワーに欠ける小澤はドイツで “弱者の兵法”を編み出した。その戦いぶりはTでも通じるか。この男、一筋縄ではいかなそうだ。

取材・文・写真:ラリーズ編集部