ここ数年、メジャーで流行っているものといえば、守備シフトだ。典型的なのは、パワーのある左打者が打席に立った時、打球を引っ張ることを前提に、遊撃手や三塁手を一二塁間に配置するシフトだろう。■マドン監督が守備シフトを捨て、高い守備率をマーク!?…

ここ数年、メジャーで流行っているものといえば、守備シフトだ。典型的なのは、パワーのある左打者が打席に立った時、打球を引っ張ることを前提に、遊撃手や三塁手を一二塁間に配置するシフトだろう。

■マドン監督が守備シフトを捨て、高い守備率をマーク!?

 ここ数年、メジャーで流行っているものといえば、守備シフトだ。典型的なのは、パワーのある左打者が打席に立った時、打球を引っ張ることを前提に、遊撃手や三塁手を一二塁間に配置するシフトだろう。遙か昔も守備シフトが採用されていた記述もあるそうだが、現代における守備シフトの“父”と呼ばれるのが、カブスを率いるジョー・マドン監督だ。

 現在では、メジャー30球団ほぼすべてが何らかの形で取り入れているほど人気の守備シフトだが、今年ちょっとした異変が起きているという。マドン監督のカブスがほとんど守備シフトを使わずに高い守備率を誇る、というのだ。米スポーツ専門誌「Sports Illustrated」電子版が伝えている。

 現在では、当たり前のように使われている守備シフト。かつての奇策を世に認知させたのは、他でもないカブスのマドン監督だった。1998年、当時エンゼルスの監督だったテリー・コリンズ氏(現メッツ監督)の元でベンチコーチを務めた際、データを解析した結果、同地区マリナーズのパワー系左打者ケン・グリフィーJr.がほとんど三塁方向に打球を打たない法則を見つけた。そこから生まれたのが、先にも述べたような守備シフトだったという。2006年にレイズの監督に就任以降も、デービッド・オルティスやジム・トーミら左の強打者の時は、外野守備を4人にするなど奇抜なアイディアを考え、実行してきた。

 だが、記事によると、今年のカブスはほとんど守備シフトを使わず、「唯一カブスより少ない守備シフトを敷くのはマーリンズだけ」だとか。それでも、カブスは今季どのチームよりも打球をアウトにする確率が高いそうだ。そもそも高確率でアウトを取るために採用された守備シフトだが、ほぼ使わずに通常の守備隊形をとるチームの方が守備力が高いという“ねじれ”現象が生じている。

■制球力の高い投手陣に守備シフトは不要

 では、なぜカブスはシフトを敷かず、通常の守備隊形を採用しているのか。記事では、その大きな要因の一つとして、カブスの先発ローテが制球力の高いベテランで構成されている事実を上げている。今季すでに12勝のアリエッタ、世界一経験を持つ左腕レスターをはじめ、右腕ハメル、ラッキーを含めた4人は、いずれも30歳を越えたベテランで、制球よく打たせて取る投手として知られている。彼らはタイミングをずらしたり、バットの芯を外して「球足の弱い打球」を打たせることを得意としているが、守備シフトは「思い切り振りきった打球」をアウトにするために考え出されたもので、基本のコンセプトが合わないという。だから、シフトを採用するのではなく、通常の守備隊形の方がアウトを取りやすい、というわけだ。

 さらに、記事ではカブスのセオ・エプスタイン球団社長の興味深い見解も紹介している。「シフトは、上手くハマらなかった時、普通の打者を実力以上の巧打者にしてしまうリスクがある。(シフトは)守備に大きな穴を開けて、いい打者にフィールドを広く使うように勧めているようなもの」とし、打者にシフトを出し抜く頭脳的な打撃を開眼させる危険性があるとしたそうだ。

 通常の守備隊形を敷くカブスは、今季非常に高い守備力を披露。記事によれば、7月4日現在、カブスはインプレーになったボールの72.5パーセントをアウトに仕留めている。これは、1975年のドジャース以来となる高数値だそうだ。インプレーになったボールの被打率は.261で、これは1982年パドレスに次ぐ低さだというデータも紹介している。
 
 時代に逆行しているのか。あるいは時代を先取りしているのか。守備シフトの“父”自らシフト採用回数を減らし、守備力の高いチームを作り上げている事実は興味深い。