プロ野球のドラフト会議が25日に行なわれ、支配下ドラフトで83人、育成ドラフトで21人の計104人が指名を受けた。…

 プロ野球のドラフト会議が25日に行なわれ、支配下ドラフトで83人、育成ドラフトで21人の計104人が指名を受けた。

 4球団の指名が重複した根尾昂(大阪桐蔭/投手・野手/右投左打)は中日、同じく4球団競合の小園海斗(報徳学園/内野手/右投左打)は広島、3球団競合の藤原恭大(大阪桐蔭/外野手/左投左打)はロッテがそれぞれ交渉権を獲得。この夏、甲子園を沸かせた吉田輝星(金足農/投手/右投右打)は外れ1位で日本ハムが単独指名。大学生では西武が松本航(日本体育大/投手/右投右投)の一本釣りに成功。また、楽天は外れ1位で4球団競合の末に辰己涼介(立命館大/外野手/右投左打)の交渉権を獲得した。

 果たして、今回のドラフトで思いどおりの指名ができた球団はどこなのか。アマチュア球界やドラフト事情に造詣が深い安倍昌彦氏に振り返ってもらった。



注目の根尾昂は4球団による競合の末、中日が交渉権を得た

 西武をのぞく11球団が高校生野手を1位で指名するなど、これまでにない異例のドラフトになりました。そうした状況で、根尾を引き当てた中日、小園の広島、藤原のロッテは成功と言えるのではないでしょうか。

 なかでも中日は、2位で梅津晃大(東洋大)を指名。ケガの影響で、本格的に投げたのは今年の秋のリーグ戦から。”リーグ戦0勝”が話題になっていますが、ポテンシャルはチームメイトでDeNAから1位指名を受けた上茶谷大河(投手/右投右打)やソフトバンク1位の甲斐野央(投手/右投左打)よりも上だと思っています。それぐらい将来性が楽しみな選手。言ってみれば、1位の選手をふたり獲ったようなものです。

 さらに中日は、4位で石橋康太(関東第一/捕手/右投右打)、5位で垣越建伸(山梨学院/投手/左投左打)の高校生を指名。石橋は強肩強打の捕手で、頭がよく、リードもいい。キャプテンシーのある選手で、3年後には正捕手になっている可能性があります。

 垣越は、山本昌さんそっくり(笑)。体も大きく、球持ちがすばらしい。ストレートは140キロそこそこですが、球持ちがいいから打者は表示速度よりも速く感じると思います。それに183センチ、93キロの巨漢左腕ですが、剛腕タイプではなく、変化球をうまく使って打ち取るタイプ。意外と早くから活躍するんじゃないかと思います。

 根尾を引くだけでも十分に100点をあげられますが、しっかり将来性を見据えたドラフトでしたね。

 この中日と同じぐらいうまい指名をしたのが西武です。各球団が高校生野手を指名するなか、松本を一本釣り。今年、西武は10年ぶりのリーグ優勝を果たしましたが、チーム防御率4.24はリーグワースト。しかもこのオフには、菊池雄星がメジャーに移籍するかもしれない。どう考えても、補強ポイントは投手だったわけです。

 松本ですが、個人的には今年のドラフト候補のなかでナンバーワン投手だと思っています。球が速いのはもちろんですが、その日使える変化球をちゃんと用意してマウンドに上がっている。投球術に長け、けん制、フィールディングもうまい。投手に必要な要素をすべて兼ね備えたピッチャーだと言えます。間違いなく1年目からローテーションに入ってくる投手ですね。

 そして2位には地元・浦和学院の渡邉勇太朗(投手/右投右打)。正直、外れ1位で指名されていても不思議ではない逸材です。彼も梅津同様、ケガや病気もあって本格的に投げたのは今年に入ってから。指名を見送った球団は、おそらく経験の乏しさ、ケガの多さが原因だったと思うのですが、彼の長所は190センチの長身でありながら、ボディーバランスがすばらしいところにあります。これからプロのトレーニングを積めばもっと体も強くなりますし、まだまだ伸びる選手です。

 また、FA移籍が噂されている浅村栄斗の後釜候補として3位で山野辺翔(三菱自動車岡崎/内野手/右投右打)を指名。手薄なリリーフ陣の補強として4位で粟津凱士(あわつ・かいと/東日本国際大/投手/右投右打)、6位で森脇亮介(セガサミー/投手/右投右打)を指名。

 山野辺は浅村とはタイプが違いますが、野球IQの高い選手。イメージは、かつて西武で活躍した片岡治大(やすゆき/現・巨人二軍コーチ)にダブります。盗塁もうまいですし、右打ちもできる。非常に実戦力の高い選手です。

 粟津は全国的には無名ですが、右のサイドハンド投手で、キレのあるボールを投げます。うまくいったら、かつての高津臣吾(元ヤクルトなど)のように抑えを任せられるピッチャーになるんじゃないかと期待しています。

 そして森脇ですが、彼は非常に興味深い投手です。初球にフォークでストライクを取って、次に140キロ台後半のストレートでファウルを打たせ、最後にストライクからボールになるフォークで空振り三振。フォークボールの使い手で、必殺パターンを持っている。やや遅咲きだったものの、今年に入って一気にブレイク。即一軍で通用するだけのポテンシャルを秘めた投手です。

 チーム事情を理解し、弱点を補う補強をしたという点では、西武は今回の12球団のなかで1番じゃないでしょうか。

 このほか、いい補強をしたなと思うチームが楽天です。外れ1位で辰己、3位で将来のエース候補・引地秀一郎(倉敷商/投手/右投右打)を指名したこともそうですが、6位で元横浜高校の渡辺元智監督の孫・渡辺佳明(明治大/内野手/右投左打)、8位で鈴木翔天(そら/富士大/投手/左投左打)を指名したところに”うまさ”を感じました。

 渡辺は、圧倒的なバッティングがあるわけでもなく、守備も特別うまいわけじゃない。でも”野球勘”がすばらしいというか、実戦で力を発揮する選手。さすが、名将・渡辺さんの孫です。たとえば、相手投手が手痛い一発を打たれたあとの初球の甘い球を見逃さずに仕留めにいく。ものすごく視野が広い選手。起用し続ければ、いつの間にか欠かせない戦力になっている気がします。

 鈴木は、ヒジの故障さえなければ2位以内で指名されていても不思議ではありません。それぐらい能力の高い投手です。左から140キロ台後半のストレートを投げ込み、スライダー、チェンジアップは明らかに真っすぐと腕の振りが違うのにタイミングが合わない。どこまでケガが完治しているかわかりませんが、普通に投げられるようになれば、1年目から活躍できるでしょう。

 そして今回、もっとも印象的だったのは巨人です。根尾、辰己を抽選で外し、八戸学院大の左腕・高橋優貴(投手/左投左打)を1位で指名しましたが、それ以降はすべて高校生です。このドラフトを見て思ったことは、「原(辰徳)監督は長期政権なんだ」ということです。任期が2~3年しかなければ、こんなドラフトはできません。おそらく5年後に黄金期を迎えられるチームづくりを今のうちからやっておこうということなのでしょう。

 2位の増田陸(明秀日立/内野手/右投右打)、3位の直江大輔(松商学園/投手/右投右打)、4位の横川凱(かい/大阪桐蔭/投手/左投左打)、5位の松井義弥(折尾愛真/内野手/右投左打)、6位の戸郷翔征(とごう・しょうせい/聖心ウルスラ/投手/右投右打)とそれぞれタイプが違い、素材としては面白い選手を集めました。現時点で評価はできませんが、可能性を秘めた選手たちであるのは間違いありません。

 ただ、個人的には高校通算75本塁打の山下航汰(健大高崎/内野手/右投左打)を育成で指名したのはどうかと……。彼のバッティングは、育成レベルではありません。どういう思惑で指名したのかわかりませんが、こういう選手を支配下で指名して、一流の打者へと育てるべきだと思います。

 いずれにしても、ドラフトの成否がわかるのは数年先。今はまだスタートラインに立ったに過ぎません。今回指名された選手のなかから、ひとりでも多くの選手が日本球界を背負って立つ存在になってほしいと思います。