写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭インターハイ3連覇、北京オリンピック出場。ド派手な経歴を引っさげてTリーグT.T彩たまへの所属を表明したのが岸川聖也だ。坂本竜介監督とともに現代の日本卓球を牽引してきた人物だ。岸川はTリーグへの思…

写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

インターハイ3連覇、北京オリンピック出場。ド派手な経歴を引っさげてTリーグT.T彩たまへの所属を表明したのが岸川聖也だ。坂本竜介監督とともに現代の日本卓球を牽引してきた人物だ。岸川はTリーグへの思いをこう語る。「Tリーグがいつからあればいいかって?15歳のころからですよ」。若くしてドイツに渡り、現地で暮らしながら10年以上も戦い続けた歴戦の猛者は静かに口を開いた。

岸川を熱狂させたドイツでの日々

15歳の岸川がドイツで感じたのは“熱狂”にも近い卓球熱だった。「1台のまわりに何千人って客が集まって、歓声があがる。プレーするっていうのはすごく楽しくて。何より強くなれる。そういうのが日本にないのは寂しかったんです」。

インターハイや全日本選手権、岸川は国内でも数々の大舞台に登ってきただが、ドイツのブンデスリーガとでは雰囲気は異なるようだ。「インターハイとかすごい思い出に残っているけどやっぱりブンデスリーグは違う。9カ月シーズンが続いて、同じメンバーで戦い抜く。その面白さや怖さは現地でしかわからない。その舞台に立った人しかわからないんですよ」。00年にはドイツのデュッセルドルフのチームに加入、ブンデスリーグとドイツ・カップとヨーロッパのチャンピオンズリーグの立役者として大車輪の活躍を見せた。




写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

そんな過酷なドイツで共闘してきたのがT.T彩たまの坂本竜介監督である。坂本が17歳、岸川が15歳のときにドイツに2人で住み込みブンデスリーグを生き抜いた“戦友”だ。「坂本さんとはとんでもなく長い時間を過ごした。逆に今は多くを話さなくても分かりあえている」。T.T彩たまで担う役割は坂本は監督、岸川は選手兼コーチだ。2人の役割分担について「選手が監督に直接いいにくいことがあったら僕に言ってもらうとか、坂本さんも選手にいいにくいことがあれば僕に一旦言うとかですかね」。いわばT.T彩たまの精神的な大黒柱が岸川なのだ。




写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

「経験としか表現できないことがある」

「世界最高峰の卓球リーグ」を掲げる以上、岸川たちT.T彩たまはそうやすやすと勝ち抜くことはできない。数々の強力なライバルが立ちふさがる。中でも注目は優勝候補である、水谷、張本らを擁する木下とは開幕戦で相まみえる。「みんな開幕戦っていうけど僕はそこまで気負ってない。一試合には代わりはない。大事なのはでも開幕戦してから」。そう淡々と語る。

冷静な語り口は生来の性分かもしれないが、ドイツでの経験が強く影響しているようだ。「シーズンは長いですから。誰がケガするかもしれない。ドイツでは決勝の前に足捻って出れなくなって、突然“お前出ろ”とかはしょっちゅう。組んだこともない人と直前になってダブルス組んだりとか、ね。僕は10年以上そういう環境でやってきた。全然オタオタしない。たじろがない。しっかり準備するだけですよ」。




写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

世界を知る岸川はTリーグを冷静に分析する。「実力だけ見れば誰が勝ってもおかしくない。そういう選手がひしめき合っている。誰とあたっても難しい戦いになるの。それはみんな思ってると思う。水谷、張本ですら『誰とやっても簡単には勝てない』ってね。それくらい実力が拮抗してるし、その上ハイレベル。こんな面白いことはないよね」。

若手の台頭も著しい日本卓球で自らの強みをこう語る。「経験じゃないですかね “いろんなこと”を他の選手より経験している。それは強さに繋がると信じています」。卓球における経験とは一体なにか。「戦術というかね…。試合の勝ち方一つでも若手は勢いにまかせてしまう。試合の経験の多い選手じゃないとできないことはあるんですよ」。

これは“企業秘密”かもしれないが、あえて聞いてみた。具体的に経験でできることとは?「難しいな…。“間の取り方”とかもそうなんだけど、それだけじゃない。経験としか表現できないことがあるんです。試合での勝ち方が上手い選手っているんですよ。同じレベルで2−2で競っていても最後は絶対勝ってくる。 “経験で取れる1,2点”というのがあるんですよ。それは土壇場で効いてくる。チキータの上手さとかドライブの強さっていう話じゃないんです」。




写真:岸川聖也(T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

スタープレーヤーは新しいチームに必要なのは間違いない。ただTリーグは長期戦だ。最後にモノを言うのはしたたかさ、泥臭さだ。岸川聖也の“通好み”の戦いぶりこそTリーグの醍醐味なのかもしれない。

取材・文:武田鼎/ラリーズ編集部