立ち上がりから、危うさはあった。川崎フロンターレの素早いパス回しに対応できず、ラインの裏を取られる場面が目立ち、1…
立ち上がりから、危うさはあった。川崎フロンターレの素早いパス回しに対応できず、ラインの裏を取られる場面が目立ち、11分には右サイドを崩されてPKを献上。あっけなく先制点を許してしまった展開に、ヴィッセル神戸の脆(もろ)さが垣間見えた。

逆転負けを喫して険しい表情のアンドレス・イニエスタ
「稀代の戦術家」と呼ばれるスペイン人のフアン・マヌエル・リージョ監督が正式に指揮を執るようになってから2試合目。”バルサ化”を狙う神戸に、どのような変化が生まれているのか。故障明けのアンドレス・イニエスタが久しぶりにスタメン復帰したこともあり、首位チームに挑むこの一戦には大きな注目が集まっていた。
しかし、終始目についたのは、神戸のバランスの悪さだった。最終ラインから丁寧につなごうという意図は感じられたが、そのパス回しは決してスムーズとは言えず、距離感もよくなかった。横パスをさらわれてカウンターを浴びる機会も少なくなく、ビルドアップのクオリティが伴っていなかった。
バランスの悪さを招いた要因は、リージョ監督が求めるスタイルに起因する。「相手陣内でボールを支配すること」。これが、スペイン人指揮官が放つキーワードだ。
そのためには、高い位置でのボール奪取が求められる。全体をコンパクトにし、最終ラインは必然と高くなる。前線がパスコースを限定し、ボランチやセンターバックがクサビのパスをつぶして、すぐさま攻撃へと転じる。
しかし、そこで剥がされると、一気に危機に陥る。ツボにハマれば効果的だが、かわされれば致命傷になりかねない。その表裏一体のスタイルが、危うさを感じさせた一因だった。
前半はまだよかった。失点直後にすぐさまオウンゴールで同点に追いつくと、28分にはルーカス・ポドルスキのパスを受けた古橋亨梧が豪快なミドルを突き刺して逆転に成功。さらに35分には、今度は三田啓貴の鮮やかなミドルシュートが決まって、3−1と王者を窮地に追い込んだ。
それでも川崎は、慌てることはなかった。
「ボールを握られるところが増えていたけど、攻撃に関しては間を取ったり、背後を突いたりと、うまくいくシーンも多かった」
中村憲剛が言うように、決して盤石とはいえない神戸の守備組織を攻略するのは難しくないと感じていたようだ。
この日の神戸は、ダイヤモンド型の4−4−2を採用。トップ下にはポドルスキが入り、イニエスタを左MFに配置。右MFに三田が入り、藤田直之がアンカー役を務めた。
もっとも、形はあってないようなもの。ポドルスキは気ままにポジションチェンジを繰り返し、左のイニエスタも中央寄りに位置取る。空いた左のスペースに左サイドバックの橋本和が攻め上がり、サイド攻撃を担った。
しかし、イニエスタが中心となってボールをうまく回せたときはよかったが、次第にパスがつながらなくなり、ロングボールが増えてくると、この形は機能性を失った。つなげないにもかかわらず、両サイドバックは高い位置を取り、ロングボールを跳ね返されて、あっさりと背後を取られてしまう。イニエスタの存在感も次第に希薄となった。
「つなぐためのサポートのコースもなかったし、裏に蹴ったところで相手に回収されて、また攻撃されてしまう。何とかラインを上げようとしたけど、前半のようにプレスがかからなくなり、ボランチの脇を使われてしまった」
藤田がそう振り返ったように、両サイドに広大に空いたスペースを突かれて、次々にピンチを招く。前半のうちに1点を返されると、65分には右サイドを崩されて、齋藤学に移籍後初ゴールとなる同点弾を浴びてしまう。
途中から2トップを務めていた古橋を左サイドに回して状況改善を試みたものの、今度は前線の勢いが消えてしまうという悪循環。勢いに乗った川崎の波状攻撃を食い止めることができず、69分、76分に失点し、3−5と屈辱的な逆転負けを喫した。終盤のピンチを相手のシュートミスに助けられたことを考えれば、あと2、3点を失っていてもおかしくない展開だった。
「70分ぐらいまでは、私たちがボールを支配することで、ゴールを守るということを達成できたと思う」
リージョ監督が言うように、途中までは神戸がボールを支配する時間帯があったことはたしかだ。相手陣内でボールを支配することで、守備の時間をできるだけ減らしたい――。スペイン人指揮官の狙いは実に崇高(すうこう)であり、それができれば究極の戦術となるだろう。しかし、実質的にそれを体現しうる質が伴わない。
奪った3得点も、オウンゴールと、ふたつのスーパーゴールである。オウンゴールに至った過程は連動性が備わっていたが、古橋と三田のゴールは、再現の難しい、いわば偶発的なもの。ウェリントンの強さや、イニエスタ、ポドルスキのうまさも光ったが、いずれも個の力を感じさせるもので、組織としての連動性という意味では、滞りなくボールがつながる川崎の足もとにも及ばなかった。
「相手ゴールの近くでボールを奪い返すためには、それなりの量のパスをつなぎ続ける必要があるのですが、それを達成するうえで、体力的にどうマネジメントするかということが難しかったと思います」(リージョ監督)
たしかに後半の神戸は運動量が低下し、パスコースを作るための動きや、高い位置で奪い返すためのプレスの迫力を欠いた。体力だけなく、選手同士の距離感や判断の部分も含め、リージョ監督が求めるスタイルは、シーズン途中から対応するにはあまりにも難易度の高いサッカーと言えるだろう。
就任発表からまだ1カ月、指揮を執り始めてまだ2試合。そのなかで、川崎に対して途中まで互角に渡り合ったのは悪くない。バルサは1日にしてならず――。神戸の”バルサ化”には、ある程度の時間が必要なのは間違いない。
一方、神戸はこれで7試合未勝利となり、12位に転落。降格圏が背後に迫っており、残留争いも他人事ではなくなってきた。理想を求める作業をこなしながら、現実的には結果を出すことも求められる。時間がないと悠長なことを言っていられないのも事実だ。
今季のJ1も残すところ4試合。リージョ革命のもたらす運命は、果たして……。