セ・パ交流戦開幕前までのリーグ戦、西武は4位に沈みながらも、打率.269、本塁打47本でチームの打撃成績はリーグトップを誇った。シーズン安打記録保持者の秋山翔吾にメヒア、中村剛也のダブル本塁打王、栗山巧、浅村栄斗と、個性豊かな強打者が揃う…

 セ・パ交流戦開幕前までのリーグ戦、西武は4位に沈みながらも、打率.269、本塁打47本でチームの打撃成績はリーグトップを誇った。シーズン安打記録保持者の秋山翔吾にメヒア、中村剛也のダブル本塁打王、栗山巧、浅村栄斗と、個性豊かな強打者が揃う自慢の打線が威力を発揮した。

■オープン戦から苦しんだ20歳、なぜ3年目で打撃不振に落ちいったのか

 セ・パ交流戦開幕前までのリーグ戦、西武は4位に沈みながらも、打率.269、本塁打47本でチームの打撃成績はリーグトップを誇った。シーズン安打記録保持者の秋山翔吾にメヒア、中村剛也のダブル本塁打王、栗山巧、浅村栄斗と、個性豊かな強打者が揃う自慢の打線が威力を発揮した。

 だが、なにか今一つ物足りなさを感じたのは、やはりあの男の存在が欠けていたからだろう。それは、森友哉だ。168センチと身長だけは小柄だが、鍛え上げたどっしりとした身体と眼光鋭い風貌は、威圧感たっぷり。フルスイングが魅力の背番号10は、入団3年目にして、西武の看板選手の一人だと言っても過言ではないからである。

 その20歳が、今年はオープン戦から打撃不振に苦しんだ。そこには、2つの要素が絡んでいたと考えられる。

 1つは、捕手練習を継続できなかったこと。昨季は指名打者として打撃に専念してきたが、今年は本職に戻るべく、昨秋キャンプから捕手としてのトレーニングを再開させた。だが、今春、練習試合やオープン戦など実戦に入った時点で田邊徳雄監督は、特種かつ重要なポジションゆえ、「守備の負担が打撃に悪影響を与える」と判断し、捕手として起用しないことを決定した。

 ここで、その是非を論ずる意図は毛頭ないが、一方の見方として、股割りの動きや構えなど、捕手独特の下半身主体の動きが日常茶飯事的に繰り返されることは、『下半身強化』という意味で、人一倍重心を低く構える打撃フォームの森にとっては大きなメリットでもあったはず。実際、打率.209(4月23日登録抹消時)と低迷が続いた3、4月にトレーニングコーチから「お尻の筋肉が弱っている」と指摘されていることからも、練習環境の変化は多少影響していると言えるのではないだろうか。

 そしてもう1つ、状態が上がらなかった最大の原因となったのが、打撃フォームの変更である。プロ2年目の昨季、開幕からシーズン通して1軍に在籍し、138試合出場、打率.287、打点68、本塁打17本の好成績を残したが、それで満足する男ではない。シーズンを振り返り、「夏場、バテて、思うようにバットが振れなかった」と、体力不足から7月(打率.262)、8月(同.250)に数字を落としたことを猛省。今年は「年間通して結果を出す」を最大テーマに掲げた。

■転機は2軍降格、赤田2軍コーチと続けたロングティー

 その中で、自らが導き出した1つの答えが、「上体を上げること」だった。昨季のフォームのままでは、あまりにも下半身に負担がかかりすぎる。そのため、わずかだが上体を上げることで負担を減らそうと考えたのである。プロの世界の厳しさを知った森なりの、進化を求めたからこその決断だった。

 もちろん、闇雲に位置を上げたわけではない。「昨季の終わりの方で、『これ』という、しっくりきた位置があった」から。だが、残念ながら結果としてこれが凶と出てしまった。開幕後も、「ボールもあまり見えていなかったですし、バットの出方とかもあまり良くなかったですし、タイミングの取り方とかも… 言い出したらキリがないですけど、良い時みたいにハマってはなかったですね」。思い通りのバッティングができず、苦悩の日々が続いた。それでも、「“去年の良い時に戻す”とか、過去を振り返るのはイヤやし、一度決めたことをコロコロ変えるのは、好きではない」と、成長を誓って決意した自らのチャレンジを貫き続けた。

 転機が訪れたのは、4月23日。2年ぶりに2軍降格が言い渡された。その約10日後、西武第二球場には遠征試合に帯同しない森と、赤田将吾2軍育成コーチの姿があった。打撃不振解決の糸口を見つけようと、懸命にロングティー打撃に励む20歳の姿を、同コーチは携帯電話で動画撮影。これまで、ほとんど接する機会のなかった2人が、フォームについてディスカッションをしながら、ロングティーを続けた。

 赤田「俺のイメージだけど、去年はもっと低く構えてなかった?」

 森「あれだと一年もたないんで、少し上体上げてるんですよ」」

 赤田「とりあえず、もっと重心低くして打ってみてよ」

 森「(その通りやってみて)うわ~、きついっすわ~。こんなんで打ってたんですね、去年の自分」

 その後、45分間、その体勢でのロングティー打撃は続いた。

■1軍で感じる確かな手応え、「やっと自分の間合いで打席に立てるようになった」

 翌日、残留組の森は、通常練習後に再び赤田コーチとの個別トレーニングを実施した。ノーステップ、サンドバックを叩き込む、バランスボールに座ってのティー打撃など、徹底的に下半身をいじめ抜いた。赤田コーチは語る。

「年間通じて結果を出すために、上体を上げて負担を減らすという考え方はわかります。でも、そもそも、その選択が違う。下半身に負担がかかって途中でバテてしまうなら、“負担を減らす”のではなく、“バテない体力をつける”という選択をすべき。要は、楽をする方法を選んだというわけです。それで通用するほど、プロの世界は甘くはありません」

 厳しいようだが、至極まっとうな指摘であることは、成績が証明している。
事実、昨季との下半身力の差を痛感し、さらに意識的に強化に努めてからは、2軍戦でも急激に成績を伸ばして26試合出場、打率.309、6本塁打、21打点で、セ・パ交流戦を機に5月31日に1軍再登録。交流戦では、打率382で全体2位の成績を残したのをはじめ、抹消時.209だった打率も.290まで上がり、状態を上げつつある(7月5日終了現在)。

 昇格後、昨季から続けてきているメディシンボールを使っての下半身の回転、強化のためのトレーニングは以前にも増して精力的に行い、前出のトレーニングコーチも、「1軍に戻ってきて、下半身が強くなって、上体も下がってきている」と、印象を語る。

 ただ、本人は「上体を上げよう」と決めた意識を変えたつもりは「全くない」と断言。「なぜか、自然と(重心が)去年みたいに下がっちゃってるんですよ」と、苦笑いを見せる。それでも、「少し、結果が出始めたことで、気持ち的にはだいぶ楽になりました。やっと自分の間合いで打席に立てるようにはなっています」。確かな手応えを感じている。

 誰にも真似できない、低い重心から鋭く振り抜くフルスウィングは、例え空振りでも、「うぉ~!」と、思わずスタンドから感嘆の声が湧くほど、見る者を魅了する。自身の中で鬱積していた迷いも晴れた。いよいよここから、若きスター・森友哉の本領発揮が見られそうだ。

上岡真里江●文 text by Marie Kamioka