「守備は守備だけで成立しているのではなくて、相手に崩されるよりも、自分たちでボールを渡してしまい、勢いづかせてしまう…
「守備は守備だけで成立しているのではなくて、相手に崩されるよりも、自分たちでボールを渡してしまい、勢いづかせてしまう。そこはケアしていきたいですね。今日も出てしまったところはあったんですが」

名古屋グランパスの攻撃を牽引する元ブラジル代表ジョー(左)
試合後の記者会見で、名古屋グランパスの風間八宏監督は、自らのロジックを解剖するように言った。
ボールプレーの構造というのは、パスワークにある、と誤解されやすい。それは表層的なものであって、実際は、ボールを失わない、という技術が欠かせない。失わないことで、味方にスペースやタイミングが生まれる。周りも信じて走ることができる。
「あいつに預けたら、必ず(パスが)出てくる」
お互いの信頼関係が、パスワークを生み出すのだ。
「(3バックにした)システムよりも、選手たちの個性が出る戦いをしている」
風間監督は「サッカーをする」選手のキャラクターをまず選び抜き、自らのチーム戦術に落とし込んでいる。それは、たとえ負けても価値あるもので、Jリーグでは出色の域にある。そして選手は勝利することで、確信を得るはずだ。
10月19日、三協フロンテア柏スタジアム。J1残留を争う16位の名古屋は14位の柏レイソルの本拠地に乗り込んでいる。順位は下だが、名古屋は2試合少なく、勝てば残留に向けて大きな一歩となる。
しかし序盤、攻め立てたのは柏だった。ホームの大声援に押され、名古屋を自陣に押し込む。前半11分、右サイドで日本代表の伊東純也を中心に、江坂任、小池龍太が攻撃をつくる。その間隙を縫うように、中央やや左から2列目に入った大谷秀和が、横パスを左足ミドルで狙い、名古屋GKランゲラックを脅かしている。相手のパスの出どころを潰しながら、サイドを中心に崩し、ゴールに迫った。
名古屋は、前節から採用する3-4-3(3-4-2-1)というシステムのネガティブな面が出ていた。両ワイドに前田直輝、青木亮太という選手を配置しているが、2人は攻撃的性格が強い選手で、バックラインに入ったときはむしろ脆さが出る。
今や世界的に見直されている3バックは、「幅」がキーワードになっている。幅を取ることで相手を広げ、生まれたスペースを使い、前に手数をかけ、圧倒する。しかし受け身に回ると弱く、幅の綻びを突かれるのだ。
「序盤は、相手が勢いを持って入ってくるのはわかっていた。そこをいなし、自分たちの時間をもっと増やせるように、意識のレベルをトレーニングから上げていかないといけない」(名古屋・風間監督)
前半20分を過ぎると、柏の猛攻がぴたりと止んだ。
失点を免れた名古屋は、トップに入った元ブラジル代表FWジョーが、DFとMFのラインの間にポジションを取り、ボールを収め、失わない。これで柏のラインを徐々に押し下げる。ジョーに絡みつくように、ガブリエル・シャビエル、玉田圭司、前田らが攻撃の波を作る。高い位置でプレーを続けられるようになったことで、サイドからこつこつとダメージを与え、3バックのポジティブな面が出るようになった。
「(受けに回ってからは)幅を取られて、ジョーに深みを作られました」(柏・大谷)
25分、名古屋は左サイドを軸に幅を作って揺さぶりをかける。横パスをペナルティエリアの少し外で受けたジョーがターン。このとき、エリア内には6人もの名古屋の選手が入っていた。ジョーはエドゥアルドネットに横パスを預け、マークをさらに引き寄せる。ネットはエリア内でフリーになった小林裕紀にパス。小林のシュートはGKに弾かれたが、名古屋の攻勢は明らかだった。
「名古屋はボールを叩いて、ランニングして、横パスの連続。そこを食いつかせて狙ってくる感じだった。ゾーンで守り切れたと思うが……」(柏・DF鈴木大輔)
35分だった。左サイドのタッチライン際で起点を作った後、玉田が戻るドリブルからジョーとスイッチ。ジョーはエリア内のシャビエルに預け、シャビエルがこれを前に持ち出し、左足でクロスを送る。逆サイドから中に入った前田が、中央で合わせた。人とボールの動きがたえず交錯し、柏の守りを完全に崩した、サッカーのお手本のようなゴールだった。
その後、ホームで負けられない柏は、戦う意欲を見せる。単発では好機も作った。しかしながら、序盤のような攻勢は生まれていない。相次ぐ監督交代が影を落としていた。主力選手の経験によって、どうにか試合にしているのが現状なのだ。
一方の名古屋は、シーズン前半は連戦連敗だったが、風間監督のプレーモデルで戦ってきた。ジョーへの依存はあるにせよ、その積み上げがあることで、3バックという新戦術も運用できる。それは残留の保証にはならないが、選手が成長を続けているのは間違いない。
「守備のためにポジションを崩してしまっては、攻撃にならないので」
試合後に風間監督は何気なく語っていたが、まるで優勝を争っているチームの指揮官のように、堂々とした口ぶりだった。