そのゴールが生まれたのは、タイムアップまであと100秒のときだった。コーナーからのボールを、クリスティアーノ・ビラ…
そのゴールが生まれたのは、タイムアップまであと100秒のときだった。コーナーからのボールを、クリスティアーノ・ビラーギ(フィオレンティーナ)がゴールに押し込んだ。0-1。イタリアはネーションズリーグでポーランドをどうにか破ることができた。

ポーランド戦で決勝ゴールを決めたクリスティアーノ・ビラーギ photo by AP/AFLO
翌日の新聞の一面には「これぞイタリア!」「うるわしきアッズーリ(イタリア代表)」の見出しが躍り、まるでW杯で優勝したかのような騒ぎだった。それも仕方ないかもしれない。ロシアW杯出場を逃し、イタリアが「世界の終わり」を味わってからの、そして新体制になってからの、初の公式戦の勝利だったのだから……。
ロベルト・マンチーニが代表監督に就任したのは2018年の5月。初戦の親善試合こそサウジアラビアに勝利したものの、それ以降は5試合連続未勝利。イタリア人にとってはもどかしい日々が続いた。
W杯優勝国フランスに3-1で敗れたのはまだ仕方ないとしても、その後、イタリア同様W杯を逃したオランダ、ロシアW杯でいいところのなかったポーランド、やはりW杯不出場のウクライナ戦は、すべて1-1の引き分け。クリスティアーノ・ロナウドを欠くポルトガルには0-1で敗れている。
この間、マンチーニは試行錯誤の連続だった。もう忘れられかけていたようなマリオ・バロテッリを呼び戻してみたり、セリエAでプレーしたことのないような若手を呼んでみたり。だからこそ、このポーランド戦の勝利は貴重だった。結果だけでなく、試合内容もよかったことは、アッズーリとイタリアに勇気を与えた。
また、この勝利のおかげで、イタリアはネーションズリーグで、”ヨーロッパの二流”リーグBに落ちるという醜態も回避することができた。
ネーションズリーグは、今シーズンより始まった新たな試みの大会。どうでもいいとサポーターや選手に軽視されてきた親善試合に、より重みを与えるためにUEFAが新たに編み出した技である。その試合の結果も、ダイレクトではないものの、次のヨーロッパ選手権の組み合わせに影響してくる。そして、もしかしたら次のカタールW杯欧州予選にも……。
ただし、ポーランド戦に誰もが満足しているかといえば、答えはNOだ。イタリアの再生への道のりは、長く困難なものになる。
舵取りをするマンチーニは経験豊富な監督だが、次々と襲ってくる荒波に苦労している。
なによりも困難なのは、2006年のW杯優勝以降の世代の不在。早い話が、今のイタリアには優秀な選手が少ないということだ。アレッサンドロ・デル・ピエロ、フランチェスコ・トッティ、アンドレア・ピルロ、ジャンルイジ・ブッフォンの時代に比べると、今の選手たちは明らかに小粒だ。そのためマンチーニは、思いきった若返りを図っている。絶対に失敗が許されない4年後のカタールW杯を見据えての采配だ。
システムは4-3-3でほぼ固まっている。正GKはジャンルイジ・ドンナルンマ(ミラン)。これは議論の余地がない。
センターバックはレオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ(ともにユベントス)のベテランコンビ。若手の多いチームの精神的主柱という形だが、要は他に替わりがいないのだ。それに比べると両サイドバックはもう少しマシで、アレッサンドロ・フロレンツィ(右)が右、ビラーギが左。ベストとは言いがたいが、ロベルト・カルロスもカフーもいないのだから、彼らで妥協しなければならない。
中盤はマルコ・ベラッティ(パリ・サンジェルマン)、ジョルジーニョ(チェルシー)、それからニコロ・バレッラ。カリアリ所属、21歳の期待の若手だ。運動量も豊富だし、テクニックも、闘志も、根性もあるが、ただプレーが荒いのが玉にキズ。どの試合でも少なくとも一度は警告され、イエローカードが彼のトレードマークになってしまいそうだ。
オフェンスはフェデリコ・ベルナルデスキ(ユベントス)、フェデリコ・キエーザ(フィオレンティーナ)、ロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)からなる”軽めの3トップ”だが、これについては論議が持ち上がっている。ベルナルデスキとキエーザは生まれついてのサイドアタッカー(右だが左でもプレー可)だし、インシーニェもマウリツィオ・サッリ(現チェルシー監督)のナポリでは左サイドだった。つまり、マンチーニは空中戦に強く、フィジカルに優れた典型的センターフォワードを置くことをやめたのだ。
このことは長短の両面がある。いい点は3人のうちの誰をマークしたらいいか相手のDFがわからないこと、悪い面は誰も飛び出していかないことだ。
今回のポーランド戦で、イタリアは終始試合を支配し、ここ数年ご無沙汰していたようないいプレーを見せた。しかし、ゴールチャンスを何度も逃していたのも事実だ。最後の最後にサイドバックのビラーギが飛び込まなければ、勝利を持ち帰ることもできなかった。
得点力を欠くFWは、アッズーリの最大の課題だ。サッカーというゲームはゴールしてなんぼ。チャンスをつくることも大事だが、それをゴールに結びつけなくてはなんの意味もない。マンチーニは早急にこの点に手を打つ必要があるのだが、簡単なことではないだろう。とにかく彼には選択肢がないのだ。チーロ・インモービレ(ラツィオ)、アンドレア・ベロッティ(トリノ)、ケビン・ラザーニャ(ウディネーゼ)……はっきり言って、あまり期待できないだろう。
昔々、イタリアには、ゴールするためだけに生まれたようなセンターフォワードが必ずいた。パオロ・ロッシ、サルバトーレ・スキラッチ、フィリッポ・インザーギ……。
おりしもポーランド戦のテレビ中継の解説者はロッシだった。彼がスーツに身を包んでスタジオにいるのを見て、多くのイタリア人はノスタルジーとともに、歯がゆさを感じたはずだ。もしロッシがピッチにいたならば、優勢だった試合で、終了間際にしかゴールを決められないなどという事態には絶対にならなかったはずだ、と。
しかし、そんな文句を言っていても仕方ない。とにかく新生アッズーリはやっと新たな一歩を踏み出すことができた。リスタートをする用意はどうにか整った。あとはゴールを決められる、天性のゴールゲッターの登場を祈るしかない。
イタリアがかつてのイタリアに戻るまでには、あともう少しの辛抱が必要だ。