10月12日~14日、FIA世界耐久選手権(WEC)の第4戦「6 Hours of FUJI」が静岡県・富士スピードウェイで開催された。今年6月に行なわれた「ル・マン24時間レース」でセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロ…

 10月12日~14日、FIA世界耐久選手権(WEC)の第4戦「6 Hours of FUJI」が静岡県・富士スピードウェイで開催された。今年6月に行なわれた「ル・マン24時間レース」でセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロンソ組の8号車が総合優勝を果たし、日本でも大きな話題となったトヨタ勢。今回の富士ラウンドは、彼らにとって凱旋レースでもあった。



WECで実に2年ぶりとなる優勝を遂げた小林可夢偉

 今年のレースウィークでは金曜からファンが詰めかけ、とくにトヨタGAZOOレーシングのピット裏は大盛況。8号車のアロンソは10年前に同地で行なわれたF1日本GPでも優勝しており、「WECでも優勝して、個人的には『富士2連勝』を決めたい」と意気込んでいた。

 だが、今回の富士のレースを支配したのは8号車ではなく、マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組の7号車だった。

 WECの公式予選は1チーム2名のドライバーがタイムアタックを行ない、各ベストタイムの平均タイムによって順位が決められる。7号車はロペスが1分23秒437、可夢偉も1分23秒678をマークし、平均タイムで8号車を上回って予選トップの座を獲得した。

 ところが、ピットロード通過時にロペスがスピード違反をしていたことが判明。そのペナルティによって予選タイムは抹消されることになり、7号車はクラス最後尾からのスタートを余儀なくされる。

 可夢偉にとっては、またも不運に見舞われた格好だ。7号車は以前から予選で速さを見せるものの、肝心な場面でアクシデントやトラブルに悩まされることが多かった。前回の第3戦・シルバーストンでもレース後の車検で違反箇所が見つかり、まさかの失格。可夢偉も2016年の富士6時間レース以降、勝利から遠ざかっている。

 そして今回の富士も、予選タイム抹消のペナルティでグリッド降格。関係者の間にも、「またか……」という雰囲気が漂った。

 だが、可夢偉は、その悪い流れを自ら断ち切る走りを見せた。

 予選までのドライから一転して、決勝はウェットコンディション。スタート時には雨は止んでいたものの、前日の夜から降り続いていた影響で路面上の水量が多い状態だった。

 ここで7号車は可夢偉の提案により、カットウェットタイヤを選択。ウェットタイヤよりさらに溝を増やしたタイヤを装着してスタートを迎えた。

「スタート時は降っていなかったけど、風がなかったから、簡単に路面が乾くことがないだろうと思いました。今週末はドライコンディションだと簡単に抜けない状況だったので、スタートで前に出るしかチャンスはないなと。スタート直後にすぐ前に出て、その後に(タイヤの消耗で)ペースが伸びなかったとしても、少なくとも8号車と勝負はできるかなと思って。この作戦はある意味賭けでしたが、カットウエットというタイヤを選びました」(可夢偉)

 しかし、この選択は失敗だった。クラス最後尾の8番手からスタートし、3周目には2番手に浮上するものの、8号車のほうがペースは速く、8周終了時点でその差は15秒になっていた。可夢偉も1周目から思ったような手応えを得られておらず、「この選択は失敗だった」と気づいたという。

 このタイヤで走り続けるメリットがないと判断した7号車陣営は、予定よりも大幅に早く1回目のピットインを行なう。後手が続く展開に陥りそうな場面だったが、可夢偉はあきらめずに次なる「攻めの一手」を打った。なんと、スリックタイヤに交換するという賭けに出たのだ。

「あの時点でスリックタイヤを履いているライバルはいませんでしたけど、すでにこれだけ失敗しているから、一気にスリックに交換して勝負に出るしかないなと。チームからは、『スリックに交換するのはまだ早い!インターミディエイト(小雨用の溝が少ないタイヤ)だ!』と反対されました。

 それでも、『お願いだからスリックに交換してくれ!』と何度も言って……。太陽の光が差し込んできたので、絶対にすぐ(路面が)乾くと思いましたから。交換直後は我慢が必要ですが、絶対にウェットタイヤよりも速く走れる自信がありました」(可夢偉)

 7号車は10周目にピットインし、いち早くスリックタイヤに交換。するとその後、後続マシンのアクシデントによってセーフティカーが導入され、8号車との間隔が一気に縮まるという展開となる。たちまちレースの流れが一変し、7号車はトップにまで上り詰めた。

 その後、ゴールまで残り30分のところで、可夢偉がふたたび乗り込みアンカーを担当。WECでは2年ぶりとなる優勝を飾った。

 これまでライバルの8号車に一歩及ばないレースが続いてきたが、ようやく実力で相手を上回るレースができた――。表彰台で満面の笑みを見せた可夢偉は、富士のレースを振り返る。

 次回は、11月の上海6時間レース。WECの2018-2019シーズンは前半戦を終えたばかりだが、可夢偉には10月20日~21日にスーパーGT第7戦、さらに翌週にはスーパーフォーミュラ最終戦が控えている。

 この勝利で、悪い流れを断ち切ることができたか……。可夢偉は「これで次のスーパーGTも、その次のスーパーフォーミュラもいけるでしょう。3連勝目指して頑張ります」と力強く語り、サーキットを後にした。