ロシアW杯ベルギー戦の先発メンバーは11人中、10人の選手が欧州組だった。 もちろん、たとえ海を渡っても定位置をつ…
ロシアW杯ベルギー戦の先発メンバーは11人中、10人の選手が欧州組だった。
もちろん、たとえ海を渡っても定位置をつかむことがなければ、力を見せることはできない。しかし、環境に順応し、外国人選手として活躍し続ける選手は、それだけ成熟している。長谷部誠のように、臨機応変の戦いをし、怯むことがない。乾貴士のように、身につけた剛直さで持ち前の技を出し切れる。戦い手として練達するのだ。
10月16日、日本代表は埼玉スタジアムで世界の強豪、ウルグアイを真っ向勝負で寄り切った。この夜も、欧州で格闘する日々を過ごす選手たちが違いを示した。
「(日本の)選手たちが、ウルグアイの選手たちと同じ目線で戦っていた」
森保一監督が試合後に語っているように、若い選手たちは少しも臆することない戦いを披露している。南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(フローニンゲン)、遠藤航(シント・トロイデン)はヨーロッパ各国ですでに実戦を積み、恐れる理由などないのだろう。ずんずんと新たな時代を切り拓いていくような、勃興する清冽(せいれつ)さがあった。

ウルグアイ戦でも日本の攻撃の中心になっていた中島翔哉
なかでも次世代の日本サッカーの先鋒となっているのが、10番を背負う中島翔哉(24歳)だろう。ポルトガル1部リーグのポルティモネンセで主力を張るサイドアタッカーは、ウルグアイ戦も左サイドを蹂躙した。かつてバルセロナにもいた屈強で鳴る右サイドバック、マルティン・カセレス(ラツィオ)を翻弄し続けた。
とにかく、ドリブルスキルに絶対的な自信を感じさせた。1対1で動じない。荒っぽいチャージを受けても入れ替わるだけの駆け引きと身体の強さを身につけているし、そもそも自分の間合いに飛び込ませない迫力とタイミングを持っている。
特筆すべきは、わずかにマークを外すだけで鋭いパスをシューターに預けたり、自らシュートを狙い撃てたりする点だろう。前半10分の先制点のシーン、中島はエリア内でマーカーを背負った南野の足もとに球足の速いパスを入れている。これを南野は反転するトラップでシュートに結びつけたが、中島のパスには「前を向け」というメッセージが明確にあった。
さらに36分には、堂安律からのパスを受けると、狙い澄ましたミドルシュートでGKを狼狽させている。そのこぼれを大迫勇也(ブレーメン)が流し込んだ。
「1対1で止められない、ボールを失わない、なにかを起こす予感がある」
そんな姿をチーム全体に伝えることで、周りの選手もパスを渡せるし、信じて動き出せるのだ。
後半序盤、チームが押し込まれる展開でも、中島は存在感を見せた。左サイドを軸に攻め返し、後半はチーム最多の3本のシュートを放って挽回。悪い連鎖を断ち切った。
「男子三日会わざれば刮目して見よ」という故事がある。短期間のうちに図太く、逞しい選手に成長している。
FC東京時代の中島は、技術の改善に熱心で「誰よりもボールを触っている」と言われる”巧い”選手ではあった。しかし一方で、ナイーブで淡泊な一面も抱えていた。巧さを十分に使い切れず、試合の流れから消えてしまう。周りとのコンビネーションが合わず、独善的な傾向が強くなる。いわゆる、”惜しい”選手だった。
ところが、昨年8月にポルトガルに移籍してからは一変した。ドリブルから覇気が伝わってくる。相手を断ち切り、なぎ倒すような剛胆さが宿っている。技に酔うのではなく、ゴールまで貫く覚悟というのだろうか。昨シーズンは10得点し、今シーズンも4得点で得点ランキング2位につける。
「(中島)翔哉は覚悟があったんだと思います。移籍するために、すべてをかけていたから」
前所属先であるFC東京の選手たちが、その変化の理由について洩らしている。
ポルティモネンセからオファーを受けたとき、中島は移籍を志願するが、当初、クラブからははねつけられたという。当然だろう。シーズン真っ直中で、攻撃のカードとして有力な一枚だったからだ。
だが中島は、来る日も来る日もフロントに懇願したという。練習後、社長に直談判することもあった。「もう帰った」と煙たがられても、車があるのを確認すると、その帰りを待ち続けた。それは何週間も続き、他の選手たちが呆れるほどだった。
その果てに、中島は移籍という進路を勝ち取っている。本人としては退路を断つような思いだったのではないだろうか。人生の岐路を自ら選んだ、その覚悟がプレーからほとばしり出る。
言うまでもないが、海外に渡るだけがサッカー人生ではない。Jリーグでも成長することはできる。しかし、中島は異国で戦うカタルシスを欲した。そして、世界のディフェンダーと日々、対峙することによって、その技の切れ味は増したのだ。
現在の中島は無敵に映る。ピッチでボールをほしがるとき、負けることなど頭にないのだろう。次はどんな技を繰り出してやろうか。楽しくて仕方ないのだろう。プレー中、口許には笑みさえ浮かべているように見える。
海を渡る覚悟を持ち、異国で研鑽を積み、サッカーを戦う楽しさと出会った者だけが見せることができる世界。それを、今の中島は我々に見せている。