潮目が変わったのは、62分のミスからだった。近くの味方につなげようとした飯倉大樹のゴールキックが土居聖真に奪われて…
潮目が変わったのは、62分のミスからだった。近くの味方につなげようとした飯倉大樹のゴールキックが土居聖真に奪われて、そのままゴールを許してしまう。それまで隙のない戦いを見せていた横浜F・マリノスが一気に、窮地に追い込まれた瞬間だった。

キレのあるサイド攻撃で存在感を示した仲川輝人
10月27日に埼玉スタジアム2002で開かれるファイナルの舞台をかけて、横浜FMはホームで鹿島アントラーズとのルヴァンカップ準決勝・第2戦を戦った。
後半アディショナルタイムに同点に追いつかれながら、その2分後にウーゴ・ヴィエイラが決勝ゴールを叩き込むという劇的な展開(2−1)でアウェーでの第1戦をモノにしていた横浜FMは、この試合を優位な状況で迎えていた。
ふたつのアウェーゴールを手にしていたため、勝つか引き分けならもちろん、0-1の敗戦でも、優勝を成し遂げた2001年以来となる決勝進出が決まる。そのため手堅い戦いを演じるかと思いきや、攻撃スタイルを標榜するこのチームは、立ち上がりから積極的な戦いを展開。どこか不安定だった鹿島守備陣の隙を突き、果敢にゴールに迫っていく。
20分に天野純のシュートのこぼれ球をウーゴ・ヴィエイラが押し込んで先制に成功すると、34分には左サイドを見事な連係で崩して、仲川輝人が追加点を奪取。この時点で2戦合計4-1とし、決勝進出はほぼ決まったかに思われた。
ところが、そう簡単に事が進まないのがノックアウト方式のカップ戦の面白さだろう。後半に入ると「決勝のことが頭によぎったというか、守りに入ってしまった」(山中亮輔)横浜FMに対し、鹿島はリスクを負った攻撃を展開。それでも横浜FMは何とか耐えしのいでいたものの、冒頭のミスが試合の行方をわからなくした。
ここからは、完全に鹿島のペースだった。70分に左サイドを完全に崩して途中出場のセルジーニョが同点ゴールをマーク。この時点でトータルスコアは3-4。鹿島がもう1点を奪えば、アウェーゴールの数で横浜FMを上回り、決勝進出が決まる。
押せ押せの鹿島はシンプルにサイドを使って攻勢に拍車をかける。終盤には負傷離脱していた昌子源を送り込み、チームの士気はさらに高まった。しかし、最後に上回ったのは、横浜FMの執念だった。身体を張った守備で鹿島の猛攻をしのぎ、1点のリードを守り切った(この日の試合は2-2の引き分け)。
余裕の展開から一転、最後は薄氷を踏むぎりぎりの戦いとなったのは反省材料ながら、横浜FMにとっては名門復活の狼煙(のろし)を上げる激闘だった。
試合を振り返れば、大きかったのは前半の戦いだろう。あくまで攻撃的な姿勢を貫き、試合を優位に展開した。その攻撃スタイルの肝となったのは、仲川輝人と遠藤渓太の両翼だ。鋭いドリブルを持ち味とする両者の推進力が、前半の横浜FMの攻勢を導いた。
ウーゴ・ヴィエイラの先制点は、右サイド深くでボールを受けた仲川が、鋭いカットインから中央の天野にラストパスを供給したのが発端だった。仲川は天野の折り返しを押し込んで2点目も奪っており、全得点に絡んだこのアタッカーがファイナル進出の立役者となったのは間違いない。
2015年に専修大から加入した仲川だが、ここまでのキャリアは試練の連続だった。出場機会に恵まれず、2016年にはJ2のFC町田ゼルビアに期限付き移籍。復帰した昨季も、シーズン途中にJ2のアビスパ福岡にレンタルで出されている。
今季もシーズン序盤は途中出場が多かったが、5月2日のジュビロ磐田戦でJ1初ゴールをマークすると、ワールドカップ中断開け以降は完全にレギュラーへと定着。コンスタントに得点を奪い、ウーゴ・ヴィエイラに次ぐチームの得点源となっている。
「ケガなくやれていることが大きい」と好調の理由を語る仲川は、身長161cmに見えないほど、ピッチ上では大きく映る。鋭いドリブルで相手を置き去りにするだけでなく、クロスに対して果敢にゴール前に飛び込んでフィニッシュに結びつける。
2点目の場面を振り返り、「あれは監督が目指しているゴールシーンだし、自分たちが思い描いた形でもある。練習からやってきたことを表現できたゴールなので、すごくよかった」と胸を張る。今年で26歳、遅咲きのストライカーは、今まさにキャリアの最盛期を謳歌しているように思える。
一方、左の遠藤も出色の活躍だった。スペースがあれば、スピード豊かなドリブルでするすると敵陣に侵入していく。面食らった鹿島DF陣は、警告覚悟で止めるしか術(すべ)はなかった。15分に犬飼智也、29分には西大伍がイエローカードをもらったが、ともに遠藤を倒して受けたものだ。
この遠藤を警戒するあまり、鹿島は持ち味であるサイドアタックをなかなか繰り出せなかった。相手の抑止力となっていた遠藤のドリブルは、2点目にもつながった。左サイドでボールを受けた遠藤にセンターバックがつり出され、その空いたスペースに天野が侵入。そこからの折り返しを仲川が詰めたものだ。
もっとも遠藤は「何度か仕掛けてチャンスは作れたけど、1点も獲れていないし、アシストもついていない」と、自身のパフォーマンスには満足していない。
「テルくん(仲川)もウーゴ(ヴィエイラ)も、3トップのふたりは結果を残しているので。誰がどう見ても、僕が得点力とかアシスト力を身につけられたら、もっとチームがよくなる。あとは自分次第だと思っています」
東京五輪世代の遠藤はU-21日本代表にも名を連ね、先のアジア大会でも準優勝に貢献した。アジア大会から戻ってきたタイミングと、チームでレギュラーの座をモノにした時期はほぼ重なる。代表での経験が21歳の若者を成長させたことは間違いない。
「代表から帰ってきてから、試合に出させてもらっています。求められることと、自分がやりたいことは違う部分もあるけれど、チームのために求められていることをどれだけやれるか」
そう意気込む遠藤は、「チームとして本気でタイトルを獲りにいきたい。そして僕はここまでゴールがないので、決勝で獲れたら一番いい」と、結果に対してどん欲な姿勢を見せている。
勢いに乗る仲川と、急激な成長曲線を描く遠藤。この両翼が力強く羽ばたけば、横浜FMに17年ぶりの栄光が訪れるはずだ。