ミケル・エチャリの指導者論を読む>>「自分はサッカーを教えることで、サッカーを教えられてきたと思っている。ディスカッ…

ミケル・エチャリの指導者論を読む>>

「自分はサッカーを教えることで、サッカーを教えられてきたと思っている。ディスカッションすることによって、知識は向上する。その意味で、ファンマ(フアン・マヌエル・リージョ)は”最高の教え子”だった」



ベンチで戦況を見つめるフアン・マヌエル・リージョ(ヴィッセル神戸監督)

 そう語るミケル・エチャリ(72歳)は、かつてスペインの指導者養成学校の教授を務め、ヴィッセル神戸を率いるリージョ(52歳)の”師匠”にあたる。また、2人はレアル・ソシエダ時代、強化担当と監督という立場で、2シーズン、昇格を懸けてともに戦っている。その信頼関係は想像を超えたものがある。

 エチャリは50年以上、プロフェッショナルのサッカー界を生きてきた。監督としても、地方のユースを全国リーグにまで昇格させ、90年代にはエイバルを2シーズン、2部に残留させた。サンセ(レアル・ソシエダBチーム)では、ホセバ・エチェベリア、ハビエル・デ・ペドロ、アグスティン・アランサバルなど、後にスペイン代表に上り詰める選手を輩出している。

 そのエチャリが、リージョには監督としての生来の才能があるという。

「ファンマには、自分にも他の多くの指導者にもない能力がある」

 師匠から見て、”教え子”リージョは日本で成功を勝ち取れるのか?

「戦術がチームに浸透するには、どうしても1カ月から1カ月半はかかるだろう」
 
 エチャリはそう言って、碧い目を光らせた。話を聞いた時点で、リージョ神戸は浦和レッズに4-0、鹿島アントラーズに0-5と大敗を喫していた。

「今の私には、神戸の展望を語ることはできない。しかし神戸の選手たちが、たとえファンマの求める高いレベルに達していないとしても、戦術的なアプローチは必ずできる。短時間で、技術を格段に上げることはできない。しかし、戦術はロジックだから、やり方次第。論理的な動き方なので、ファンマがそれを伝えることは十分にできるはずだ」

 ロジカルな動きを身につけられるようになったら、自然と選手のプレーも改善されるという。

「指導者は、すばらしいプレーを選手に求めるべきではない」

 エチャリは哲学的に語っている。

「選手も度肝を抜くようなプレーをする必要はない。大事なのは、簡単なことを高い精度でやれるかどうか。戦術が向上すれば、それが可能になる。たとえばラインを突破するのに、派手なフェイントを繰り返して一か八かで抜くよりも、壁パスのワンツーが的確に決まれば、それでいい。その点で傑出しているのが(アンドレス・)イニエスタだ。

 選手はプレーの中で成長できる。たとえばコスタリカ戦の遠藤航は、とてもいいプレーをしていた。正直、過去に見た試合ではその特長が伝わってこなかった。しかし、シンプルにプレーする、ということが自分の中で整理できたのかもしれない」

 神戸の選手も、リージョの哲学を体現できるか。

「ファンマのフィロソフィや理念はたしかに優れている。しかしそれよりも、彼には自分にはない特別な能力がある」

 エチャリの話しぶりに、熱が帯びた。

「プロの世界は、どうしても勝ち負けがある。負けたときというのは、感情をコントロールするのが難しい。とてもナーバスになってしまう。『なぜなんだ!』『もっとやれたはずなのに、理不尽だ』と平常心を失い、怒りをぶつけ、愚痴をこぼす。しかし、監督はそこで乱れてはならない。チームの士気を下げず、たとえ勝てなくてもやり続ける。優れた監督はまず、『自分には必ずできる』と信じることができる」

 結果が出ない試合が続くリージョだが、それを乗り越えるだけのパーソナリティがあるという。不動心、あるいは平常心。常にフラットな心理状態で、粛々とチームを強化することができる。

「私はファンマをプロの監督として評価する。彼は(2017年に)コロンビアの王者アトレティコ・ナシオナルを率い、リーグ戦でもカップ戦でもタイトルを取ることはできなかった。しかし、『いい仕事ができた』と胸を張っていた。ファンマはこれまで多くのチームを率いてきたが、結果だけを見れば成果をあげたとは言い難い。にもかかわらず、関わったほとんどの人からその仕事を賞賛され、オファーは絶えない。そこに監督としての本懐がある」

 リージョはポゼッションを手段とし、試合を支配し、ゴールする確率を高める。そのために必要なトレーニングで、選手の成長を促す。選手たちはその指導に納得し、勝ち負けにかかわらず充実感を覚えるという。現役時代にリージョのチームと対戦したジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)は、試合後、教えを乞いに向かったほどだ。

 一方でリージョは、サラマンカを1部に昇格させ、史上最年少(29歳)で1部のチームの監督になって以来、ほとんどのクラブで1シーズン以上、指揮を続けることができていない(レアル・ソシエダ時代を除く)。目立ったタイトルもない。スペクタクルを追求する戦い方で、降格を喫したこともある。

「プロは勝ち負けがある世界だよ」

 エチャリは厳しい言葉で、弟子へのエールを送った。