結論から言えば、苦戦続きのシーズンに、ダメを押すかのような惨敗である。 アメリカ・インディアナポリスで行なわれたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第7戦で、室屋義秀はラウンド・オブ・14敗退の12位に終わった。第7戦で年間…

 結論から言えば、苦戦続きのシーズンに、ダメを押すかのような惨敗である。

 アメリカ・インディアナポリスで行なわれたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第7戦で、室屋義秀はラウンド・オブ・14敗退の12位に終わった。




第7戦で年間表彰台の可能性が消えた室屋 photo by Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 ベン・マーフィーとの対戦となったラウンド・オブ・14は、予選のタイムや過去の実績から考えれば、問題なく勝ち上がれるはずだった。ところが、室屋は次のゲートへの方向転換を急ぐあまり、ターンのタイミングがわずかに早くなり、インコレクトレベル(ゲートを水平に通過しない)のペナルティを犯してしまう。

 結局、ペナルティによる2秒のタイム加算が響き、室屋はルーキー・パイロットに足をすくわれることとなった。2秒加算があっても、マーフィーとのタイム差はおよそ0.6秒。楽勝できたはずの勝負を、室屋が苦々し気に振り返る。

「バンクに入る(機体を傾ける)のが早かった。すごく単純なミスだった」

 前回の第6戦終了時点で、室屋はすでに年間総合連覇の夢が絶たれていたが、今回の結果で年間総合での表彰台(3位以内)の可能性もなくなった。

 こうなると、11月17、18日に今季最終戦を残しているとはいえ、来季の準備にある程度の力を傾けざるをえない。とくに今季は最終戦の開催が例年より1カ月遅く、それだけ来季への準備が制限されてしまう。現実的には、アメリカ・フォートワースでの最終戦も、来季へのテストという意味合いが強くなるのだろう。

 例えば、第7戦から新たに投入されたウイングレット(空気抵抗を減らす目的で主翼先端部につけられた小翼)も、まだデータが取り切れておらず、完全に手の内に入れるまでにもう少し時間がかかる。実際、室屋は「バーティカルターン(垂直方向の旋回)のとき、今までと同じ感覚で飛んでいるとストール(失速)してしまう。もう少し研究して、改良する必要がある」と話している。

 だが、もしも今季、まだ年間総合優勝の可能性を残していれば、これほど悠長に構えてはいられなかっただろう。割り切って来季への準備に傾倒できる現状は、「不幸中の幸い」と言えるのかもしれない。

 とはいえ、だとしても、だ。

 今季第7戦が行なわれたインディアナポリス・モーター・スピードウェイで、室屋は昨季、最終戦での奇跡の大逆転劇を演じ、初の世界チャンピオンの座に就いた。

 あれから1年。思い出の地で行なわれたレースを前に、室屋はすでに優勝争いから脱落していたばかりか、今回のレースでもひっそりと初戦で敗退した。あまりに鮮明で、残酷なまでの明と暗をわずか1年の間に見せつけられ、あらためて勝負の世界の厳しさを思い知らされると同時に、少なからず寂しさも覚える。

 振り返れば、室屋にとって今季は、ディフェンディングチャンピオンであるがゆえのプレッシャーとの戦いだった。

 室屋は「どのスポーツでもチャンピオンはそうだと思うが、歩いていた道が(目標にたどり着き)急に行き止まりになるようなものだから。道がないのに、でも、周りの人たちには後ろから『行け!』と押される。それはなってみないとわ分からなかった世界だし、そこでは、精神的にいろんなものが求められる。言葉では説明できない難しさがある」

 それは、室屋本人だけのことではない。チームスタッフもまた、同じくディフェンディングチャンピオンなのである。室屋が続ける。

「優勝すると、やっぱりチームだけでなく、周辺の人も含めて特別な雰囲気ができるので、スタッフにもプレッシャーはあったと思う。そこから先へ進むのは、ものすごく大きなエネルギーが必要だし、他のチームの人たち以上に、難しさがあったと思う。マティアスのところもそうだと思うけど」

 室屋が言うように、一昨季に年間総合優勝を果たしたマティアス・ドルダラーも、昨季、そして今季と苦しいシーズンが続いている。勝つことが当たり前に期待されるなかで、勝ち続けることの難しさ。彼もまた、室屋と同じ悩みを抱えているのかもしれない。




残る1戦、そして来季での完全復活が期待される photo by Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 それでも室屋は、「ようやくカザン(での第5戦)あたりから、(プレッシャーから)抜け出せてきているというか、乗り越え方がおぼろげながら見えてきたというか、そういう感じがある」と、わずかながら前進している手応えを得ている。

「ここを完全に抜け出すことで、どんな競技にもいると思うけど、絶対王者と呼ばれるような、引退するまで全然負けないチャンピオンになっていけるんだと思う」

 シーズン4勝を挙げ、年間総合優勝を遂げた昨季の反動が出たかのように、今季の室屋は一度も優勝がないばかりか、0ポイント(11位以下)に終わったレースが3戦もある。目に見える結果だけで言えば、その凋落ぶりたるや甚だしい。

 しかしながら、「技術研究は進んでいるし、今回投入したウイングレットの開発をはじめ、バックグラウンドではいろんなことが順調に進んでいる」と室屋。だからこそ、「あとはパイロットのコンディションを高いレベルで整え、全体の流れを作っていくか。そこがカギになる」と語る。

 前回の第6戦で2位となり、5戦ぶりの表彰台に立ったことで、ようやく悪い流れを断ち切ったかに見えたのもつかの間、第7戦では再び、12位に後退。恐らく、この先もしばらく、こうした一進一退が続くのだろう。強い室屋の完全復活は、もう少し時間がかかりそうだ。

 今はそのときを待つしかない。