またしても、名勝負が生まれた。 MotoGP初開催のタイGP、ブリラムのチャーン・インターナショナル・サーキットで、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)が最終ラップの最終コー…

 またしても、名勝負が生まれた。

 MotoGP初開催のタイGP、ブリラムのチャーン・インターナショナル・サーキットで、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)が最終ラップの最終コーナーで順位を交錯させる激しいバトルを演じた。



またも激しいバトルを演じたドヴィツィオーゾ(中央)とマルケス(右)

 マルケスとドヴィツィオーゾは、昨年のオーストリア・レッドブルリンクや雨のツインリンクもてぎ、そして今年の開幕戦カタールのロサイル・サーキットで、息を呑むような最終コーナーの攻防を繰り広げたが、いずれもすべて僅差でドヴィツィオーゾが勝利を収めていた。

 両者のタイム差は、レッドブルリンクで0.176秒、ツインリンクもてぎでは0.249秒、ロサイル・サーキットでは0.027秒。これらの数字を見れば、両選手のバトルの激しさは十分に想像がつくだろう。

 今回は、両選手の差は0.115秒。しかし、過去3回と違い、マルケスのほうがドヴィツィオーゾに先んじてゴールラインを通過した。

 最終コーナー入り口では、マルケスのイン側を狙ったドヴィツィオーゾが横並び状態から強烈なブレーキングで先に旋回動作へ入ったものの、ラインがややはらんだところへ、同じくリアを滑らせながらコーナーへ入ってきたマルケスがきれいにクルリと回って先に立ち上がり、ゴールラインを通過した。過去3回の〈ドヴィvsマルケス〉とは、攻守を入れ替えた格好だ。

「やっとリベンジを果たしたけど、今回の戦略はじつはこういう展開じゃなくて、残り7、8周くらいで引き離す作戦だったんだ」と、レースを終えたマルケスは明かした。

「ドヴィがかなりいいペースで走っていて、自分のほうが少し速かったかもしれないけど、フロントタイヤに熱が入り過ぎていたので、ブレーキングポイントでしっかりバイクを止めてオーバーテイクすることが難しかった。だから、最終ラップよりも早めに勝負を仕掛けてフロントタイヤの熱を逃がそうと思っていたんだけど、ドヴィが巧みな戦術で、抜かれるたびにすぐに抜き返してきた」

 じっさいに、レースが終盤に差しかかった23周目や24周目には、マルケスは何度かロングストレート後のタイトな3コーナー進入でドヴィツィオーゾの前を狙っていたが、そのたびにややはらみ気味になって立ち上がりで抑えこまれる、ということが続いていた。

「それで最終ラップの勝負に切り替えたんだけど、最終ラップはチャンピオンシップのことも何もかも全部考えないことにして、とにかく自分の力を全部出し切った。残り数周で仕掛けたときは、うまくバイクを止めることができずに、いつもドヴィに抜き返されていたので、ちょっと立場が変わって今回は僕がドヴィのスタイルで、ドヴィがマルケススタイルでの戦いになった。いい勝負をできたと思う」

 この結果、マルケスとドヴィツィオーゾのポイント差は、さらに5点広がって77ポイントになった。次戦日本GP終了段階でマルケスとドヴィツィオーゾの間に75点差が開いていれば、マルケスの年間総合優勝が決定する。

 しかし、75点のギャップを維持するためには、日本GPの決勝レースでマルケスはドヴィツィオーゾの前でゴールしなければならない。たとえば、ドヴィツィオーゾが優勝してマルケスが2位、あるいはドヴィツィオーゾが2位でもマルケスが3位という結果で終われば、両者のポイント差は75点を割り込んでしまうからだ。

 マルケスとのバトルに敗れて、今回は2位に甘んじたドヴィツィオーゾは、「最終ラップで勝負に負けるのはもちろん残念だけど、チャンピオン争いは事実上カタがついているので、これからは一戦一戦、最高の結果を狙いながら、来年に向けた開発にも注力をする。残り4戦もしっかりと作業を積み上げ、来年こそはチャンピオン争いをしたいので、その地固めをしていきたい」と話している。

 そんなドヴィツィオーゾの前でゴールする、ということは、優勝を狙うこととほぼ同義といっていい。やはり、いつものようにそれは容易なことではないだろう。

「もてぎではドゥカティが強いだろうから、そこで年間総合優勝を決めるためには、まだ2、3カ所ほど、詰めていかなければならない部分がある。今回、ドヴィの後ろで走っていて、向こうのほうがいい部分がいくつかあったので、もてぎでドヴィに勝つためには、そこをよくしないと彼には勝てないと思う」

 この言葉からもわかるとおり、マルケス自身も日本GPでのチャンピオン獲得が厳しい戦いになることは十分に予測をしている。

 だがそれは、ツインリンクもてぎでの両雄の決戦をライブの時間で観戦できる日本のファンにとって、はからずも最高のレースを満喫できる舞台が整った、ということも意味している。