ニューカッスル・ユナイテッドのFW武藤嘉紀が、「夢の劇場(The Theatre of Dreams)」オールド・…
ニューカッスル・ユナイテッドのFW武藤嘉紀が、「夢の劇場(The Theatre of Dreams)」オールド・トラフォードで宙を舞った。
1−0のリードで迎えたマンチェスター・ユナイテッド戦の前半10分。右サイドからMFジョンジョ・シェルビーのクロスが入ると、ゴール前で待っていた武藤は胸トラップでボールを上手に収めた。さらに、鋭く切り返してDFアシュリー・ヤングのマークを外し、最後は左足を振り抜く――。

マンチェスター・ユナイテッド戦で待望のゴールを決めた武藤嘉紀
ネットを揺らすと、両手を広げながらコーナー付近まで疾走。高く飛び跳ねてゴールを喜び、駆けつけたチームメートにもみくちゃにされた。自陣に戻る際、先発起用してくれたラファエル・ベニテス監督に向け、小さくガッツポーズしたのが印象的だった。
利き足ではない左足での得点に、武藤は「左足だったから、逆にしっかりとは狙わないで、とにかく思いっきり打とうと。本当は左サイドを狙っていたが、ちょっと真ん中にいってしまった。だけど、いいコースに飛んでいたら、手の長いGKダビド・デ・ヘアに止められていたと思う。シュートがGKの足もとにいったのがよかった。ラッキーだった」と振り返った。
この試合は、武藤にとって待望の「初先発」でもあった。
過去7戦はいずれもベンチスタートで、プレー時間は10〜20分程度。それだけに、「今日、先発で使ってもらって何もできなかったら、それで俺の評価は決まってしまう。しかも、次に使ってもらえるのはいつになるかわからない。7戦やって、やっと回ってきたチャンス。これを逃したら、本当に今季先発で出られるかどうかわからないと思っていた」と、強い決意を持ってピッチに入ったという。
実際、得点シーンでも、武藤に迷いは一切なかった。背後にはブラジル人MFケネディがフリーで待っていたが、ストライカーとして見ていたのはゴールのみ。「『自分ならできる』という自信があった。こういう強い相手のほうが、モチベーションも高まる。『決める』という自信を結果として出せたことは、さらなる自信につながる」と、定位置確保にアピールできたことに本人も大きな手応えを掴んだ。
得点シーン以外でも、武藤の動きは効果的だった。
チャンスと見れば、サイドスペースに走り込んで味方のパスを引き出した。前半31分には、左サイドのスペースに滑り込んでクロスボールを供給。後半18分にも、ダイアゴナルランでサイドのスペースに走り、武藤のフリーランによって空いたスペースにアメリカ代表DFデアンドレ・イェドリンがインナーラップした。これまでニューカッスルは、活力のないアタックに終始していたが、武藤の先発起用でチームにエネルギーが加わった格好だ。
躍動感をもたらしながら、中盤のつなぎ役としても機能した。前半3分には中盤まで下がり、縦パスを味方選手にシンプルに叩いた。「僕のよさは、裏に抜けるプレーいうのはみんなわかっている。だけど、『全部裏に抜けろ』と言われていて……。それをやっちゃうと真ん中の”中継役”がいなくなる。前半は俺やアジョセ(・ペレス)が中継役にしっかりと入っていた」と、ポゼッションを円滑にするプレーでもチームに貢献した。前節のレスター・シティ戦後に「落ち着いてつなげたり、もっと簡単にプレーしてみたり。確実なプレーを見せていくことも大事」と岡崎慎司からもらった助言を、今回のマンチェスター・U戦で積極的に生かした。
対照的に、本人が反省の言葉を口にしたのが、2−0のリードで迎えた前半34分の決定機。
味方のパスに反応した武藤がゴール前に滑り込み、ドンピシャのタイミングでヘディングシュートを放った。しかし、GKデ・ヘアのファインセーブに行く手を阻まれた。3−0にリードを広げていれば、ニューカッスルは勝ち点3の獲得に大きく前進していただけに、「あれは決めないといけない」と悔しさを露わにした。
もちろん、チームの敗戦にも大きく肩を落とした。本人が「最悪の結果」と嘆いたように、前半に2ゴールを奪いながらも、後半に3点を決められて逆転負けを喫した。この結果、第8節までの成績は6敗2分の19位。またしても、リーグ戦初勝利は叶わなかった。
それでも武藤は気を取り直し、「勝つことが一番の材料になると思いますから。それを自分の力で引き寄せられれば。フォワードは点を決めれば価値が上がるもの。この1点に満足せず、これを続けて行くことが大事」と、自らのゴールでチームを引っ張っていきたいと力を込めた。
一方、10月に行なわれる日本代表の強化試合のメンバーからは漏れた。しかし武藤は、「試合に長い時間出ていなかったので、まったく気にしてない。『それで呼ばれても……』という感じは自分でもしている」と、ニューカッスルでの出場時間の短さから落選は仕方がないと述べた。
「とにかく今はチーム(ニューカッスル)に集中できると、いい方向にとらえないと。そうとらえて、まずはチームで。この最高のリーグにいるわけですから、ここでまたさらに成長できればと思います」と、26歳のFWはニューカッスルでさらなる飛躍を誓った。