フォーミュラEの2015-2016シーズンが7月2~3日の英ロンドン連戦(第9戦&第10戦)で終幕し、シリーズ発足2季目のチャンピオンには激闘を経た末にセバスチャン・ブエミが輝いた。電気自動車による世界トップレベルのフォーミュラレースシリー…
フォーミュラEの2015-2016シーズンが7月2~3日の英ロンドン連戦(第9戦&第10戦)で終幕し、シリーズ発足2季目のチャンピオンには激闘を経た末にセバスチャン・ブエミが輝いた。
電気自動車による世界トップレベルのフォーミュラレースシリーズとして2014年の9月に発足した「FIA フォーミュラE選手権」。当初は完全ワンメイクの戦い模様だったが、2季目となる2015-2016シーズンはパワートレインに開発自由度が認められるなど、徐々にチーム(メーカー)の技術競争としての側面も強めつつ、最終のロンドン連戦まで接戦のドライバーズチャンピオン争いが展開されてきた。
ロンドン市街地コースでの戦いを迎える前の時点で、今季3勝ずつのルーカス・ディ・グラッシ(Abt Schaeffler Audi Sport)とセバスチャン・ブエミ(Renault e.dams)の差は、わずかに1ポイント(141対140)。ロンドン初戦、2日の第9戦は予選が天候による運、不運に左右されることとなり、両者とも中団グリッドからの決勝スタートとなった。そしてディ・グラッシ4位、ブエミ5位で第9戦を終え、ディ・グラッシがリードを3点に開いて翌3日の最終第10戦へ。
フォーミュラEのドライバーズポイントは決勝1~10位にF1と同じ25-18-15-12-10-8-6-4-2-1点が与えられ、それとは別にポールポジション3点、決勝中のファステストラップに2点が与えられる。迎えた最終戦の予選ではブエミがポールを獲得。つまりこの段階でブエミとディ・グラッシは153対153、同点で最終戦の決勝レースに臨むこととなったのである。
最終戦の予選2位は前日(第9戦)の優勝者にしてブエミのチームメイトであるニコラス・プロスト(元F1王者アランの息子)。ディ・グラッシは予選3位で、同点ながらブエミ優勢な状況だ。ただし両者同点のまま、実質的にはダブルリタイア的な結果を意味することになるが、それで終わった場合は上位入賞回数の比較でディ・グラッシがチャンピオンという要素も存在しており、最後の最後まで大接戦である。
最終戦決勝、両雄の戦いはまさに激烈な展開となった。スタート直後、実質の1コーナーであるターン3への進入でディ・グラッシがプロストに並びかけ、先頭ブエミにも仕掛けたようとするが、ここでディ・グラッシはブエミに追突するように接触してしまうのだ。いきなりのアクシデントで両者のマシンは大きく損傷した。
普通のレースならこれでチャンピオン争いは終焉、同点のままディ・グラッシ戴冠となるが、フォーミュラEならではの“個性”がチャンピオン争いを継続させることになる。
航続距離の問題で、フォーミュラEにはレース中盤でのマシン乗り換えというルーティンがある。つまり、ピットにはもう1台のマシンが残っているのだ。なんとかピットに戻った両雄は、もう1台のマシンに乗り込む。もちろん1台ではレース距離のほぼ全部をカバーすることはできないので、この時点で両者とも10位以内入賞の可能性は消えている。だが、まだファステストラップの2点を獲得するチャンスはあるのだ。
コースの混雑も見極めつつ、ファステストラップ狙いによる異例のチャンピオン争奪戦が始まった。ブエミとディ・グラッシ、ファステストを獲った方が王者だ。ただし、他のドライバーがファステストを獲得した場合はディ・グラッシ戴冠という構図でもある。
しかしながらマシンの仕上がり、速さという面では今回、一日の長以上のものがブエミにはあった。彼は見事にファステストラップをゲットして2点を加算、最終スコア155対153でディ・グラッシを下し、昨年はネルソン・ピケJr.に惜しくも奪われたタイトルを獲得した。
スイス国籍のブエミは、2週間前のルマン24時間レースで中嶋一貴とともにトヨタ5号車をドライブ、劇的な逸勝を味わった選手のひとりである。今回は劇的な戴冠という喜びの主役となった。「最終的に、我々は最速のマシンを有していた。我々はベストチームだった」とブエミ。
最終戦の優勝はプロストで、ロンドン2連勝。チーム部門タイトルはプロストとブエミを擁する「Renault e.dams」が2年連続で獲得している(なお最終戦の結果には一部、抗議内容が完全決着していないところを含むようだが、優勝とチャンピオン争いには影響しない模様)。
まだまだ発展途上な面や課題も内包しつつ2シーズンを経過したフォーミュラE。ただ、参戦ドライバーはF1経験ドライバーやWEC(世界耐久選手権)との並行参戦選手を中心にレベルが高く、排ガスの問題がないことや静粛性を活かした全戦市街地コース開催という利点も含め、その存在感は着々と高まってきている。3季目以降のさらなる発展に各方面からの期待も大きいといえよう。
3シーズン目となる2016-2017シーズンのフォーミュラEは、今年10月に香港で開幕する予定。全14戦に規模が拡大され、来年7月の米ニューヨーク連戦でフィナーレとなるカレンダーが現状では組まれている。
タイトル獲得を喜ぶブエミ。写真:Formula E
最終戦、いきなりライバルのブエミと接触したディ・グラッシのマシン。写真:Formula E
タイトル獲得を喜ぶ「Renault e.dams」陣営。チーム首脳であるアラン・プロストの姿も。写真:Formula E
勝利の美酒を味わう、新王者ブエミ。写真:Formula E
ロンドン連戦を連勝したニコラス・プロスト(第10戦の走り)。写真:Formula E
ロンドン連戦を連勝したニコラス・プロスト(第9戦の表彰式)。写真:Formula E
フォーミュラEは2季目を終了。次のシーズンは今年10月に始まる予定だ。写真:Formula E