「ヤバイくらい緊張してません(笑)」 日本で開催中のバレーボール世界選手権が開幕する直前、黒後愛はベテランの荒木絵里香にそう言ったという。 その言葉どおり、20歳の全日本女子のエースは前衛からも後衛からもアタックを決めまくった。1次ラウ…

「ヤバイくらい緊張してません(笑)」

 日本で開催中のバレーボール世界選手権が開幕する直前、黒後愛はベテランの荒木絵里香にそう言ったという。

 その言葉どおり、20歳の全日本女子のエースは前衛からも後衛からもアタックを決めまくった。1次ラウンドを終えた時点(日本はオランダに次ぐ2位で2次ラウンド進出)で、全選手の中でベストスコアラー11位。日本チームの中ではトップだ。休息のためにスタメンから外れていた試合があったことを考えれば驚異の数字である。




初めての世界選手権で活躍を見せる黒後

 昨年の同時期の中田ジャパンは、バックアタックの少なさを指摘されることもあった。10月4日に行なわれたドイツ戦後、黒後は「バックアタックはもともと打つのが好きですし、自分が前衛のときにバックアタックが1本あるとすごく楽になる。なので、自分が後衛のときも、積極的にトスを呼んで助走に入って、前の選手を助けられるようにしたい」と話したが、今大会に使われることが多くなったバックアタックを何本も決めている。

 1次ラウンドの締めくくりとなったドイツ戦は、エースらしい活躍でチームを救った。デュースにもつれ込んだ第1セットで、24-24から抜け出す25点目を決めたのは黒後。その後も「ここで1点ほしい」勝負どころでスパイクを決め続けた。

 そのドイツ戦後、黒後は少し口をとがらせながら「1次ラウンド全体を振り返ると、個人的に納得できたのは今日だけです」と話し、プレーを改善できたきっかけをこう明かした。

「ジンさん(セッターの田代佳奈美)とコミュニケーションを取って、自分が少し助走に入るのが早すぎたので、ジンさんのトスを見てから助走を始めるようにしました。これまではかぶる(ボールの下に入りすぎる)ことが多かったので、それを修正できて、ボールをちゃんと叩けた。体重を乗せてミートできたのがよかったと思います」

 ドイツ戦では、セッターの田代が黒後に大きな信頼を寄せていることがわかるシーンがあった。

 第3セットの序盤、黒後が被ブロックされた直後も続けてトスを上げると、黒後はブロックを怖がってアウトにしてしまう。しかしそれでも、田代は3回連続で黒後にトスを託した。黒後はその田代の思いをしっかりと受け止め、ブロックの指先を狙ったタッチアウトで得点した。

 田代はこのときのことを、「愛は気持ちの強い選手なので、トスを上げ続ければきっと決めてくれると思っていました。1本決まらないからといって、順繰りに別の人に上げるのはよくないとも。彼女はエースなので、彼女に託しました」と振り返る。一方の黒後も、反省の色を見せながら力強くこう述べた。

「3本続けて上げてくれたのはうれしかったですけど、1本目の被ブロックはともかく、2本目のミスはチームにとっていらない。それをなくしていくことが今後の課題です。被ブロックを少なくすることはもちろんですが、ブロックされてしまったときは、その次のアタックをミスせず決めきれるようにしたい」

 第3セットは終盤で6点差を追いつかれる苦しい展開になった。その土壇場で中田久美監督は、長岡望悠と控えセッター冨永こよみを2枚替えで投入。すると長岡が思い切りのいいスパイクを決め、一瞬でまた新鍋理沙と田代に戻す采配で悪い流れを断ち切った。中田監督はその采配について「なんですかね? 勘?」と冗談交じりに振り返った。

 中田監督がチームの目標として掲げている「スピードバレー」については、カギを握る田代が「試合途中に少しトスが浮いていたので、途中からトスを低く、速めにするよう心がけました」と語れば、黒後も「サーブレシーブは、チームの約束事である速くて低いAパス(セッターが動かずにトスを上げられるサーブレシーブ)を上げられるように頑張りたいです。でも、Aパスにこだわりすぎず、サーブで失点しないことを一番にやっていきたいです」と、徐々に適応ができてきているようだ。

 4位に終わったアジア大会よりも「サーブレシーブはよくなったと思います」と、黒後は胸を張った。サーブで狙われることは多かったが、崩されてもサービスエースは許さず踏みとどまり、自分でトスを呼んで取り返す場面がよく見られた。

「今日(ドイツ戦)は速いテンポで、高いところで打ち抜くことができたと思います。先ほども言いましたが、それまではボールの下に入りすぎてしまうところを修正して、納得がいくスパイクが打てたのは今日だけなので、ここからが”始まり”ですね」

 サーブに関してもゲームの中で修正ができたようだ。黒後はこの日、第1、第2セットはなかなかサーブが入らず、石井優希がリリーフサーバーに入ることになったが、第3セットからいいサーブで相手を崩せるようになった。「コーチから、『ボールと体が離れている』という指摘があって、もっとボールを体に近づけて打つようにしたら、変化するサーブが打てるようになりました。試合中の修正も大事ですよね」と笑顔が弾けた。

 今年度の全日本女子始動のときに、中田監督は「黒後はエースの器がある選手。どんどん成長してくれると信じています」と期待を寄せていた。1次ラウンド後にそのことついて尋ねると、「器の片鱗、見せているとは思いませか?」と頬が緩んだ。

「まだ波はあるんですけど、すごく頑張ってると思います。調子がいいときも悪いときも色んな経験ができている。サーブレシーブにも積極的に参加していますし、葛藤はあるようですが、話を聞きながら伸ばしてあげたいですね」

 中田監督から見ても、ここまでの黒後は”合格点”のようだ。

 駒を進めた2次ラウンドには、強敵のセルビアやブラジルがいる。8年ぶりのメダル獲得には、エース・黒後のさらなる活躍が必要になる。