蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.39 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.39

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富なサッカー通の達人3人が語り合います。

 今回のテーマは、開幕したチャンピオンズリーグ(CL)。3連覇中の王者レアル・マドリーは、ロナウドがユベントスに移籍して、監督が交代。新体制で新たなシーズンを迎えたが、ここまで順調とは言い難い状況にある。その要因はどこにあるのか。連載一覧はこちら>>



ジダン監督とロナウドが抜けた今季のレアル・マドリー

――今シーズンもチャンピオンズリーグが開幕しました。そこで今回は、お三方に今シーズンを展望するうえで、優勝候補と目されているチームについて分析していただきたいと思います。まずは現在3連覇中のレアル・マドリーからお願いします。

中山 今シーズンのレアル・マドリーを見る時には、昨シーズンとの相違点にポイントを置いて見ていくと楽しめると思っています。まず昨シーズンと何が変わったかというと、監督がジネディーヌ・ジダンからフレン・ロペテギに変わりました。

 それと、エースストライカーのクリスティアーノ・ロナウドがユベントスに移籍しました。それ以外は基本フォーメーションもプレーモデルもあまり変わっていないという印象です。強いて言えば、イスコに与えられる自由度がジダン時代のほうが若干高く、ロペテギの下ではある程度スタートポジションを守ってプレーする時間が増えたという印象を受ける程度でしょうか。

 ただ、監督とチームのエースがいなくなったわけですから、これはものすごく大きな変化なわけです。にもかかわらず、そこまで大きな変化を感じさせていないという背景には、継続性というキーワードがあると思います。これは、第1節のローマ戦が終わった後のルカ・モドリッチのコメントからもわかるのですが、彼は「カゼミーロとトニ・クロースとは3年以上も一緒にプレーしているし、目をつむっていてもどんな動きをするのかがわかる」という風に言っているんです。

 このコメントこそが、現在のマドリーの強さを表わしているのではないでしょうか。実際、ローマ戦のスタメンはロナウドがいない時の昨シーズンまでのメンバーで構成されていましたし、新戦力も現時点では控えメンバーに収まっています。

 ただその一方で、長いシーズンを戦ううえで気になるのは、ジダンは完全ローテーション制を敷いていましたが、ロペテギはそこまで大胆に選手をローテーションしていないという点です。批判を浴びながらもローテーションを崩さなかったことが前人未踏の3連覇につながったとすれば、ロペテギのような選手起用方法でシーズン終盤戦まで選手をフレッシュに保てるのかどうか。この点にも着目しながら、今シーズンのマドリーを見ていきたいと思っています。

倉敷 小澤さん、ジダンという人物は非常に求心力が高くて、選手としても監督としても何もかも持っているタイプでした。戦術以前に、今シーズンは彼のカリスマ性というものがチームから失われていないかという点については、いかがでしょうか?

小澤 そこは大きいと思います。ロペテギは、選手として1試合だけ代表でプレーしたことはありますけど、レアル・マドリー、バルセロナのようなビッグクラブに所属した時は控え(第3)ゴールキーパーとしてプレーするほうが多かった選手です。なので、ジダンほどのカリスマ性はありませんし、まだ監督としてのキャリアもそれほどないですから、選手をいかにコントロールするかがカギになると思います。

 たとえばラ・リーガの試合でも、思い切ってマルセロを交代させたり、カリム・ベンゼマを早めにベンチに下げたりして、主力選手になめられないように「俺がボスだぞ」というような選手起用をしています。そういうなかで、結果が出ているうちは問題ないのですが、セビージャ戦(第6節)のような負け方をして結果が出なかった時、求心力はすぐに低下するかもしれないという懸念はあります。ただ、その意味ではロナウドが退団したことによって、監督以上の絶対的存在はいなくなったわけですから、マネジメントはしやすくはなっている状況だと思います。

倉敷 現地報道などでは、ドレスルームでの彼の言葉は伝わっていないのではないか? 判断に迷いがあるのでは? またマドリーは難破するのか? と心配され始めていますね。すでにクリシス(スペイン語で危機)との声も聞こえ始めていますが、原因はケガ人が増え始めていることです。これは昨季ジダン監督の時にも起こったアクシデントでしたがロペテギは選手不足をどう乗り切るでしょうか?

 ちなみに昨季はガレス・ベイル、ベンゼマ、ダニエル・カルバハル、マルセロ、クロースなど8人が故障していた時期もありました。今はまだましという見方もできるわけですが、ロナウドはもうずっといないままです。小澤さんが指摘されたようにプラスの面がある一方、チャンピオンズリーグでマドリーが記録したゴールの約50%にロナウドが関わっているというデータもあります。ケイロル・ナバスが「ロナウドは高いバーを残していった。太陽を指一本で覆い隠すことは不可能だ」とコメントしましたが、ここは大きな課題ですね。

中山 ストライカーとしては、マリアーノ・ディアスしか獲得してないですしね。

倉敷 新しい背番号7番です。

中山 はい。ですから、そこは昨シーズンまでロナウドの引き立て役に徹していたベンゼマを中心にカバーするしかないでしょうね。おそらく彼ひとりでシーズン二桁ゴールは稼いでくれると思いますが、さすがにロナウドと同じゴール数は望めません。ベイルも故障が多い選手ですし、やはりマリアーノがどれだけゴールを量産できるかという部分が大きくなると思います。

 マリアーノについては、昨シーズンはリヨンでリーグアン18ゴールをマークするなど、ポテンシャルは高いと思います。ゴールのかたちもバリエーション豊かですし、古巣に戻ってさらなる成長を遂げれば、二桁以上のゴールも十分に可能でしょう。ただ、ベンゼマもそうですが、ロナウドがいなくなった分をカバーするという風に見てしまうと厳しいと思うので、現有戦力でいかにゴールを量産するかを考えてチーム作りをしたほうが得策と思いますし、それがロペテギ監督の使命でもあると思います。

小澤 マドリーの監督の使命ということについては、面白い話があります。これはレアル・マドリーの公式YouTubeチャンネルを見てほしいのですが、その中にキエフで行なわれた昨シーズンのチャンピオンズリーグ決勝のインサイドドキュメンタリー(「In the heart of LA DECIMOTERCERA」)の一部の映像が公開されていて、その時の試合前、ハーフタイム、試合後のロッカールームの模様を見ることができます。それを見て僕が思ったのは、セルヒオ・ラモス、ロナウド、マルセロ、ケイロル・ナバスなど、主力選手はみな監督みたいだったということでした。

 たとえば、ロナウドが「今日は絶対勝つぞ。決勝は戦うためではなく、勝つためにあるんだ」みたいなことを言っていて、そこに監督のジダンがフワッと現れて、「我々はすばらしいチームだ。何があっても自分たちのプレーをして楽しもう」と。そういう柔らかな、包み込むような存在がマドリーには監督として求められるのだと思います。「俺が監督だから、この戦術なんだ」というようなタイプの監督は合わないクラブなんだということが、その映像を見てよくわかりました。

中山 だから、モウリーニョは選手と揉めてしまったんですね(笑)。

小澤 そうそう(笑)。いまその映像のことをふと思い出しました。

倉敷 ロペテギは最後まで職務をまっとうできるのかという点がCL4連覇に向けての鍵という気がしてきますね。精度よりも勢いを重視する傾向はマドリディスタに受け入れられるか、疑問です。結果を出し続けることができなければ違う道を探す必要もありそうです。

 さて、チャンピオンズリーグ第1節はローマ戦でした。この試合からマドリーを分析する場合、ローマは中盤のインテンシティが非常に欠けていたという側面を指摘しておく必要があります。今季のローマはケヴィン・ストロートマンに加え、ラジャ・ナインゴランまで放出して中盤の強度がかなり落ちていました。ロペテギ監督はカゼミーロにも休息を与えたいと直前の国内戦でクロースをアンカーに置いたのですが、この役割を担うにはどうしてもインテンシティに欠け、うまくいきませんでした。

 そこで、現在のマドリーにカゼミーロの代わりはいるのかということをお二人に伺いたいと思いますが、いかがでしょうか?

小澤 正直、いません。

倉敷 いない場合のオプションはありますか?

小澤 同じようなタイプとしてマルコス・ジョレンテがいますけど、昨季のジダン同様、ロペテギもあまり起用していません。

倉敷 これは大きな弱点になりませんか?

小澤 なりますね。タイプが異なるクロースではマドリーのピボーテは務まりませんし、それはロシアW杯のドイツを見ていてもそうでしたから。そこは、確かにカゼミーロありきだと思います。

中山 セルヒオ・ラモスとの関係性という部分から見ても、カゼミーロの代役はいませんよね。ジダンがいなくなったからなのかどうかは分からないですけど、とくに今シーズンのセルヒオ・ラモスはこれまで以上に「俺が、俺が」というプレーが目立っていて、攻撃参加がハンパない(笑)。

小澤 点を取りたい、PKも俺が蹴る、フリーキックも蹴る、という積極ぶりで試合展開によってはかなり攻撃参加します(笑)。

中山 そうなんです。ラ・リーガのアトレティック・ビルバオ戦(第4節)の時は、相手の守備戦術もあってそれが奏功した部分はありましたけど、その試合の後のエスパニョール戦(第5節)でもセルヒオ・ラモスは同じように積極的に攻撃参加していました。もしカゼミーロがいない時、そこが穴にならないかという心配はあります。

倉敷 小澤さん、そのアトレティック・ビルバオ戦はマドリーがとても苦しんだゲームでしたね。

小澤 そうですね。アトレティックはもともとインテンシティの高いチームでしたが、今季からエドゥアルド・ベリッソ監督が敵陣でのハイプレス時にはマンツーマンに近い守備戦術を採用しているので、とくに前半のマドリーはビルドアップの局面でかなり苦しんでいました。

倉敷 ベリッソは、セルタを率いてマドリーに勝ったことのある監督です。中盤からマンツーマン気味にハイプレスをかけるやり方は、エネルギーと技術さえあればマドリー相手にも効果的ですね。

小澤 そうですね。まさにこの試合はアンカーにカゼミーロではなくクロースが起用され、相手が前がかりにプレスに来ていても足下にパスを付けてショートパスで前進を図ろうとしていました。イスコはベンチスタートでしたが、前線にイスコやアセンシオが出場している時は、彼らが頻繁に中央に入ってプレーするところをサイドバックにつかまえられてしまい、そうなると彼らにパスを出せないので、戦況も厳しくなります。

倉敷 それでもマドリーが強いのは、引き出しの多さがあるからです。たとえば、逆襲の超高速カウンター。カウンターアタックは同じスピードで攻め上がれる選手の数が多ければ多いほど有利ですが、マドリーはスピードもあり、タイミングを見極められるセンスのいい選手ばかりです。

 ベイルはちょっと別格ですけど、かなりの速度でエリア内に入ってこられるシュートのうまい選手が多いことに加え、長短のカウンターを自在に使い分けられる点がどんな相手にも勝てるマドリーの強さの源でしょう。

中山 とくにモウリーニョの時代にその部分が磨かれた印象があります。主力がその時代からプレーし続けているので、そういった継続性によって遺産も受け継がれているということも、マドリーの強さでしょうね。

 あとは、歴代の監督が残してきた遺産の数々を、ロペテギ監督が上手に活用しながら自分流にアレンジをできるかどうかという点でしょう。たとえばラ・リーガ第6節のセビージャ戦で敗戦を喫して以降、アトレティコとのダービー、そしてチャンピオンズリーグのCSKAモスクワ戦と、3試合連続白星なしという状況に陥りましたが、そこにはロペテギ監督の采配が裏目に出てしまったという側面もありました。

 確かに故障者が続出するというアクシデントがあったので仕方ない部分はありますが、そこで何ができるかというのが監督の仕事です。ジダンは批判にさらされる中でもブレずに我が道を歩んで苦境を何度も乗り越えましたが、メディアからのプレッシャーも含めて、ロペテギが同じようにこの苦境を乗り越えられるかどうかは注目だと思います。それができないようだと、ラファ・ベニテス(現ニューカッスル監督)のように意外と短期政権で終わる可能性があるかもしれませんね。

小澤 監督のカリスマ性というのは、選手の求心力を獲得する機能のみならず、対メディアの防波堤としても働きます。ですから、3試合勝利、得点できないとなっただけでマドリー周辺のメディアは”クリシス(危機)”と騒ぎ立てています。

 今回話題には挙げませんでしたが、ティボー・クルトワを獲得してケイロル・ナバスをカップ戦要員に据えたGKの使い分けや、プレシーズンで期待されながらサテライトにあたるレアル・マドリー・カスティージャでプレーさせているヴィニシウスの起用法など、結果が出ない時にロペテギが批判されるための材料は数多くあります。

 CSKAモスクワ戦での欠場者を見ても、やはりロシアW杯での主力の消耗・疲労の影響はシーズン開幕直後から出ていますし、この先のシーズンでもケガ人が多発する危険性はあります。そうしたなか、昨季はまったく出番のなかったダニ・セバージョスのような若手を積極起用して、監督の期待に応えるパフォーマンスを見せる選手も出てきてはいるので、とくに新加入のアルバロ・オドリオソラ、ヴィニシウスあたりには今後期待したいところです。