壮絶な意地のぶつかり合いだった。無傷の勝ち点2で並ぶ首位決戦3戦目は慶大が幸先よく先制し、そのまま逃げ切るかと思われた。しかし、法大も満塁本塁打を放って逆転すると、中盤はシーソーゲームが続いていく。試合は延長11回に2点本塁打を浴びて万事休す、と思われたがその裏何とかつないで大平亮(環4・鎌倉学園)が起死回生の2点適時打を放ち同点に追いつく。最後は続く12回に代打長谷川晴哉(政4・八代)がショートに適時打を放って今季初、今年3回目のサヨナラ勝利を飾った。激しい攻防戦を制し、単独で勝ち点を3に乗せた。

慶大が先勝したものの、2戦目は大敗を喫し1勝1敗のタイとなった首位決戦。両者とも第1戦で先発した三浦、髙橋佑樹(環3・川越東)が先発した。定刻の12時、髙橋佑がゆったりと右足を上げ、139㌔の速球を投げ込みストライク。両軍合わせて17得点35安打427球、4時間45分に及ぶ壮絶なドラマの幕開けだった。

初回、髙橋佑は低めにボールを集めながらも法大の1・2番コンビに連打を浴びて早々にピンチを招く。しかしここからクリーンナップを冷静に攻め、スコアボードにゼロを刻んだ。

するとその裏、1死から渡部遼人(環1・桐光学園)がカーブを引っ張ってライト前に運ぶと、3番内田蓮(総4・三重)の打席で見事盗塁を決めてチャンスを作る。さらに内田が進塁打を放ち2死三塁とすると、4番郡司裕也(環3・仙台育英)がしぶとくセンター前に運んで渡部が先制のホームを踏んだ。2回には髙橋佑がシャープにセンターへヒットを放つと、1番中村健人(環3・中京大中京)が「強いスイングを甘いコースに入れることだけを意識していた」とスライダーを捉えてレフトへ4号2ランをたたき込む。第1戦で捉えきれなかった相手先発三浦から早々に3点をもぎ取った。

早くも4本目の本塁打を放った中村

しかし簡単に逃げ切れるほど首位決戦は甘くない。3回、2本のヒットと四球で無死満塁とされ、打席には法大の主将向山。3ボールから高めの速球を弾き返されると、打球は弾丸ライナーで左翼席へ突き刺さった。まさかのグランドスラムを浴びると、その後もバッテリーミスがあり計5失点。逃げ切りモードが一転逆転を許してしまった。

早く追いつきたい慶大はその裏、内田が2番手髙田の代わり端の初球を引っ張り通算2本目のソロ本塁打を放つ。4年の意地、このままで終われるわけがない。

4回にも瀬戸西純(政2・慶應)のヒットから2死二塁として渡部がレフト前へ運んで同点に追いつく。5回には法大の3番手石川から2死二塁、勝ち越しのチャンスを作り代打は植田将太(商3・慶應)。「迷いなく」浮いたチェンジアップを右中間に落とした。陸の王者が伏兵の一打で再逆転に成功する。

リーグ戦初ヒットが値千金の一打となった

髙橋佑に代わって4回からは髙橋亮吾(総3・慶應湘南藤沢)がマウンドに上がった。変化球を巧みに使い、三振の山を築いていく。5回には2死満塁とされながら代打の毛利をフォークで空振り三振に仕留めて法大に得点を与えない。勝利も頭に浮かんでくる1点リードの7回の先頭は、ここまで2安打の中山。乗せてはいけない主砲をしっかり抑えて流れを維持したいところだったが、追い込んでからの変化球が甘く入ってしまった。捉えられた打球はあっという間に左中間の上段へ。12季ぶりの優勝を目指す法大の4年に意地を見せられ、同点に追いつかれる。その後もピンチを招いたが、うまく切り替えて同点止まりに抑えた。
先に前に出たい慶大だったが、連投となる法大4番手・菅野の前にラッキーセブンを三者凡退で片づけられてしまう。

だが8回、先頭の小原和樹(環3・盛岡三)が左中間を破る二塁打を放つと、その後相手のミスもあり1死二、三塁の大チャンスを作り出す。打席には投手ながら元は外野手の髙橋亮。合わせたバッティングで、ファーストに転がった打球を見て3塁走者、代走の河合大樹(総4・関西学院)が突っ込むも、ファーストが捕手に送球するのを見て三塁に帰塁した。それを見て二塁走者の大平が三塁を離れて二塁へ戻る。その際、ボールを持った捕手が大平にタッチし、アウトの判定が下った。しかし、審判が審議を行った結果、これが空タッチでオールセーフという判定に。慶大にとっては当然のジャッジだが、これに黙っていられないのが法大だ。かたや2死一三塁、かたや1死満塁。絶対負けられない1戦で勝ち越しを許すわけにはいかない。選手監督が必死の抗議を続けること10分強。抗議を終えると、法大はマウンド上で円陣を組んだ。絶体絶命の状況で結束を強めた法大からなんとか1点を奪いたい慶大の上位打線だったが中村・渡部が河合を生還させられず。次第に法大に流れが移ろうとしていく。

それでも踏ん張ったのが今日の髙橋亮だった。5イニングを超えるロングリリーフとなったが「いつも通りやりました」とランナーを許しながらも、打たせて取る投球で粘り強くゼロを並べていく。一方慶大打線もチャンスを作るものの、なかなかあと一本を出すことができない。9回裏も柳町達(商3・慶應)が2死から二塁打を放つもサヨナラはならず、白熱の試合は延長戦に持ち込まれた。

10回裏、瀬戸西が1死から右中間に三塁打を放ち大チャンスを迎える。しかしそのまま打席に入った髙橋亮、中村が倒れ、無得点に終わった。あと1点が遠い。するとついに均衡が破られる。11回表、先頭の中山に4本目のヒットを許すと、送りバントで1死二塁となり打席には6番の川口凌。2ボールからインコースのボール、髙橋亮の今日118球目をうまく叩かれると打球は無情にもそのままスタンドへと吸い込まれていった。今日3本目の被弾は延長11回での痛恨の一発となり、重い2点がのしかかった。

中継ぎで8イニングを投げた髙橋亮

だがここで陸の王者はあきらめなかった。先頭の渡部が今日3本目のレフト前ヒットで出塁すると、1死後郡司も三遊間を破ってランナーを溜めていく。ここで代打植田清太(総4・慶應)がバッターボックスへ。鋭く振り抜いた打球は三度レフトの前へ運ばれ満塁とする。「どんな形でもつないでいこう」とここぞで兄も食らいつき、つながっていく。しかしここから法大の“エース”菅野にも意地を見せられて2死満塁まで追い込まれる。打席には4年の大平が立つが、2球で早々に追い込まれてしまう。それでもまだ選手たちは諦めていなかった。ボールを見極めてフルカウントまで持ち込むと、真ん中に入った6球目の直球を振り抜いた。打球は菅野の足元を抜け、センター前まで転がっていく。自動スタートを切っていた二塁走者までが悠々と生還し、三度同点に追いついた。ラストは今じゃない。続くサヨナラのチャンスは逃したが、窮地で4年控えメンバーの思いが相手のエースを打ち砕き、試合は12回に突入する。

試合時間は4時間20分を超えた12回表。規定によりこの試合は4時間半を超えて新たなイニングに入らないため、このイニングが最後になるだろう。踏ん張り続けた髙橋亮に代打を送ったため、この回は木澤尚文(商2・慶應)がマウンドに上がった。「昨日のようなピッチングはしたくない」。厳しい場面ではあったが、強い気持ちが乗り移ったような力強い速球を軸に法大打線をねじ伏せて三者凡退に抑えた。最後の攻撃に向けて最高の形で流れを渡してくれた。さあ、サヨナラだ。

慶大は法大の5番手朝山に対して、先頭中村が変化球を引っ張ってレフトへ運び出塁する。その後牽制悪送球やバッテリーミスをもらって一死三塁と絶好のサヨナラのチャンスが巡ってきた。たまらず法大も4年・左の森田がマウンドへ送り出す。その森田の制球難につけこみ代打の三枝遼太郎(商4・慶應)、郡司が四球を選んで1死満塁とチャンスが拡大する。ここで打席に立つのはここぞの代打・長谷川晴だ。森田が140㌔中盤の速球を投じれば長谷川晴もフルスイングで応える。両チーム4年の最後の切り札の意地と意地がぶつかり合う。結末は2ボール2ストライクの6球目、この日の427球目だった。外のボールを長谷川晴が三遊間にしぶとく転がすと、前進守備のショートが横っ飛びで捕球する。体勢を整えてショートからボールはホームに投じられ、三塁走者の中村もホームベースに飛び込んだ。

先にホームに帰ってきたのは中村だった。この瞬間5時間近い試合に終止符が打たれ、慶大が大きな、大きな勝ち点3を獲得したのだった。

「今日は今年一番のゲームにしよう」と決めて試合に臨み、見事最高の試合をやりきってみせた慶大の選手たち。この試合では4年の選手たちが要所で素晴らしい働きを見せてくれた。法大もチーム一丸で向かってくる中、慶大がそれ以上に結束して立ち向かい、この勝負を制してみせた。これはまさにチーム力の勝利に他ならない。

そんな選手たちの目は既にこの先を見つめていた。そう、まだ優勝したわけではない。ここからも厳しい強敵との試合が続くことをもちろん選手たちもそれを理解し、ひたむきに成長を続けていく。大久保監督も「ミラクル」と評するほどの素晴らしいゲームだが、彼らはこの最高を更新し続けるだろう。希望はつながった。更なる思いをつなげたその先に三連覇、日本一というまだ見ぬ未来が待っている。

(記事・尾崎崚登、写真・小林歩)