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【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】ムバッペ伝説、第2章(後編)
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キリアン・ムバッペと、フランス代表の同僚であるプレスネル・キンペンベ、アルフォンス・アレオラがシーズン開幕前にパリ・サンジェルマン(PSG)に帰ってきたとき、チームメイトは彼らを囲んで拍手を送った。
3人が勝ち取ったワールドカップ優勝の栄誉は、PSGのチームメイトであるネイマールにも永遠に手が届かないものだろう。しかし、ムバッペはフランスのテレビ局TF1のカメラに向かって、言葉を選ぶようにして言った。
「ネイマールは僕なんかより、ずっとスーパースターだ。バルセロナで活躍してきたからこそ、今の彼がある」

FIFAフットボールアワード2018会場でファンにサインをするキリアン・ムバッペ photo by Getty Images
8月18日、ムバッペはワールドカップ決勝以来、初めて試合に出たが、会場はブルターニュの小さな町のスタジアムだった。PSGはギャンガンを相手に、前半を終えて0-1とリードを許していた。ムバッペは後半から入り、2ゴールをあげて試合を引っ繰り返した。
ギャンガンには、ムバッペと同じピッチに立っているということだけで明らかに感動している選手が何人もいた。ムバッペの新たな課題のひとつは、試合後にユニフォームの交換を求めてくる相手チームの選手が6人いる場合にどう対応するかだろう。
今シーズンの彼は、リーグ戦の第6節を終えた時点で、2試合と半分に出場して4ゴールをあげている。10代のうちに通算30ゴールを達成したが、これはフランスリーグで45年ぶりのことだ。
今季ここまで出場試合が少ないのは、ムバッペも人間だという証拠だろう。9月1日のニーム戦で、後半アディショナルタイムに危険なファウルをしてきた相手選手を突き飛ばして一発退場となり、3試合の出場停止処分を受けている。世界王者ともなると、不当な手段で行く手をさえぎろうとする者に激しい怒りを覚えるのは当然だ。
ワールドカップに優勝したことで、ムバッペのキャリアが損なわれる危険性はある。優れたストライカーにはありがちなことだが、あまりに若くしてピークを迎えてしまうおそれもある。
その半面、ムバッペが今よりさらに危険な選手になる可能性も十分にある。それはピッチ内で、より中心的な役割を任されるようになったためだ。
昨シーズンのPSGとワールドカップのフランス代表で、ムバッペはウインガーだった。現在はどちらのチームでも、もっと真ん中でプレーするようになっている。
PSGの新監督トーマス・トゥヘルは3-5-2のフォーメーションが好きらしく、ネイマールを10番のポジションに置き、最前列にムバッペとエディンソン・カバーニという強力なふたりのFWを並べている(この布陣は現在のフットボール界で最強だろう。だがPSGは攻撃陣に金を使いすぎており、中盤ははるかに心もとない。DFを率いるチアゴ・シウバは34歳になった。PSGがチャンピオンズリーグを制するには、相変わらずバランスに欠けている)。
フランス代表でのムバッペは、まだ右ウイングとして試合に入ることが多いが、以前よりも中央でプレーすることを求められている。やがてはずっと中央に陣取るようになるかもしれない。フランス代表のセンターフォワードを務めるオリビエ・ジルー(チェルシー)は、9月30日に32歳になる。
最前列にアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)とムバッペを並べ、ナビル・フェキル(リヨン)を10番のポジションに置いたフランス代表の攻撃陣を想像してみてほしい。ワールドカップで優勝したチームより強力かもしれない。
9月9日のUEFAネーションズリーグのオランダ戦に、フランスは2-1で勝利を収めたが、このときのムバッペはすさまじかった。21人のトップクラスのアスリートに囲まれても、彼はピッチの中の誰よりも体ができていた。
マークについた相手選手たちはムバッペに近づけず、彼のスピードを恐れていた。だからムバッペは、いつも周囲の半径数メートルに自由なスペースをつくることができた。
ムバッペが普通に受けられるボールは、どれも危険だった。しかも彼は、DFの5メートル後ろから走ってもルーズボールを自分のものにできた。常に走り続け、ボールを受けるとさらに加速するムバッペは、今年フランス代表での8つ目のゴールを決めた。
試合の後、元フランス代表FWのクリストフ・デュガリーはこう語った。
「今後10年、彼のプレーを見ることができる人はとても幸運だと思う。マラドーナやペレを見た人たちのように」
ほめすぎのように聞こえるかもしれないが、想像してみてほしい。もうひとつステージを上げたときのムバッペを。