【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(7) 9月15日、16日に宮城県・スポーツランドSUGOで行なわれたスーパーGT第6戦で、ついにジェンソン・バトンが初優勝を飾った。 今シーズン、山本尚貴と組んでナンバー100のRAYBR…

【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(7)

 9月15日、16日に宮城県・スポーツランドSUGOで行なわれたスーパーGT第6戦で、ついにジェンソン・バトンが初優勝を飾った。

 今シーズン、山本尚貴と組んでナンバー100のRAYBRIG NSX-GTを駆るバトンは、開幕戦で2位表彰台を獲得するなど元F1王者の貫禄を見せている。第5戦を終えた時点で、ドライバーズランキングは堂々の3位。参戦初年度でのチャンピオン獲得の可能性も十分にある位置につけている。

「ジェンソン・バトン連載」(1)から読む>>>


ジェンソン・バトンが狙うのは、もちろん

「1位」のポジションだ

 ただ、第6戦のSUGOラウンドは、バトンにとって不利な条件が揃っていた。まさに「今シーズン一番の難関」といっても過言ではないだろう。

 成績に応じて課されるバトン車のウェイトハンデは80kg。さらに、マシンのイコールコンディションを保つための性能調整が入り、NSX-GT勢の車両最低重量は10kg引き上げられた。いくらNSX-GT勢がスポーツランドSUGOを得意としているとはいえ、ここまでハンデが積み重なるとトップを狙うのは難しいと思われた。

 そして何よりの不安材料は、バトン自身がSUGOのコースを走り込めていない、ということだ。これまでも初走行となるコースはいくつかあったが、SUGOは高低差のある独特なサーキットなため、少し走っただけですぐに攻略できるほど甘くはない。

 これらのことを考慮し、バトンはタイヤメーカーテストに参加したARTA NSX-GT(ナンバー8)の協力のもと、SUGOのコースを走って習熟する時間をもらったという。ただ、10周ほどの走行だったため、コース攻略に十分な時間とは言えなかった。

 それでも、元F1ワールドチャンピオンは限られた環境で、しっかりと結果を出す。

 土曜の公式予選、バトンはQ1を任されてコースイン。しかし、タイムアタック中にクラッシュ車両が発生し、いきなりの赤旗中断となる。残り時間が限られるなか、アタックするチャンスは一度きりという状況となった。だが、そんな悪条件のなかで、バトンは1分11秒321で3番手タイムをマーク。見事にQ2進出を果たしたのだ。

 午前の公式練習の途中から雨が降った影響もあって、バトンが新品のスリックタイヤでSUGOをタイムアタックしたのはQ1が初めてだった。新品タイヤと中古タイヤでは1周あたり2秒ほどタイムに影響を及ぼすことがあり、もちろん走行時の感覚もまったく異なる。それでも3番手タイムを叩き出すあたり、あらためてバトンの適応力の高さを感じる予選アタックだった。

 続くQ2では、山本がコースレコードを更新する1分10秒248をマーク。バトンにとっては2012年のF1ベルギーGP以来、実に6年ぶりのポールポジション獲得となった。

 そして日曜の決勝レース。後半にステアリングを握ることになったバトンは、山本がピットストップしてくるのを待った。前半はカルソニックIMPUL GT-R(ナンバー12)にパスされて2番手に後退するものの、迅速なピット作業とピットアウト直後の安定した走りで39周目に逆転。バトンはトップを奪い返すことに成功した。

 さらに45周目の最終コーナーで12号車がコースオフ。後続との差が広がったことで、「このまま初優勝か?」と期待は一気に高まった。だが、このコースは毎年波乱が多く、「魔物が棲む」と言われるSUGOである。ゴールまでの残り25周が、バトンにとって最後の正念場となった。

 2番手以下に対して18秒もの大量リードを築いていたが、57周目の最終コーナーでGT300車両を追い抜こうとしたとき、ラインを外してしまいコースオフ。SUGOの「落とし穴」に引っかかってしまう。

 幸い大きなタイムロスはなく、後続に対して10秒以上のリードを維持することはできていたが、試練はさらに続く。クラッシュ車両の回収のために残り12周でセーフティカーが導入され、10秒以上の差がゼロになってしまったのだ。

 しかし、バトンは冷静に再スタートを切り、その後もトップを死守。残り5周で起きたアクシデント(ドクターカーがコース内を走行する異例の事態)も無事に切り抜け、待望のスーパーGT初優勝を飾った。

 2012年のF1最終戦ブラジルGP以来、優勝は6年ぶり。パルクフェルメでマシンを降りたバトンは、集まった大勢のファンに向かって何度もガッツポーズし、喜びを爆発させていた。

「SUGOでは魔物が出ると、いろんな人から聞いていたけど……ウワサどおりだった。正直タフなレースだったし、またひとつ勉強になった。ナオキ(山本尚貴)も久しぶりの優勝と言っていたけど、僕にとっては2012年以来だから……6年ぶりだ!

 今シーズンは惜しいレースが続いていたから、早く勝ちたいという気持ちはあった。だけど、ここで勝てたことで、少しリラックスできると思う。次回以降もウェイトハンデはあるが、とにかくベストを尽くして1ポイントでも多く稼ぐことに集中したいね」

 2018年のスーパーGTも、いよいよ残り2レースとなった。第7戦・オートポリスは、昨年100号車がポールポジションを飾るなど相性のよかったコースだけに、今年も好結果が期待される。スーパーGTフル参戦1年目でのチャンピオン獲得へ――。バトンの夢が少しずつ現実味を帯びてきている。