東海大戦記 第32回 日本学生陸上競技対抗選手権大会(全日本インカレ)は3日目を終え、東海大は長距離部門で2位だった。東海大の獲得ポイントは13点。16点でトップを走る桜美林大とは3点差だった。桜美林大の選手は3000SC(障害)に出場…

東海大戦記 第32回

 日本学生陸上競技対抗選手権大会(全日本インカレ)は3日目を終え、東海大は長距離部門で2位だった。東海大の獲得ポイントは13点。16点でトップを走る桜美林大とは3点差だった。桜美林大の選手は3000SC(障害)に出場していないので、逆転するには最低5位以内に入る必要があった。

 その3000mSCに東海大から須崎乃亥(のい/1年)と足立直哉(4年)が出場した。



全日本インカレの3000mSCで4位入賞を果たした東海大1年の須崎乃亥

 レースには大会3連覇中で、アジア大会で銅メダルを獲得した順天堂大の塩尻和也(4年)が出場していた。塩尻は、大会4連覇はもちろん、大会記録を塗り替えることを目標に序盤から飛ばした。

 須崎は第2集団に位置し、状況を見ながら冷静に走っていた。ラスト1周、須崎たち第2集団はスピードを上げていく。須崎はトップ集団から落ちてきた荻野太成(神奈川大3年)、小村翼(東洋大3年)を抜こうと懸命に走った。しかしあと一歩及ばず、彼らを差すことはできなかった。

 それでも須崎は8分50秒22の自己ベストを出して4位。「5位以内に入り、1、2年には負けない」という東海大・両角速(もろずみ・はやし)監督から与えられたミッションを見事クリアした。

「とりあえず4位に入れてよかったです。粘り? そうですね。自分の持ち味は粘り強く走ることなので。でもラスト、自分が上がったのか、相手が落ちてきたのかわからないですが、やっぱり表彰台に立ちたかったです。自己ベストは出せましたけど、40秒台を狙っていましたし、日本選手権の標準記録には及ばないので、まだまだですね」

 今年の東海大の1年生は須崎をはじめ、本間敬大、市村朋樹ら有望な選手が多く、レースでも結果を残している。出雲、全日本大学駅伝に出場するためには、同学年の競争に勝ち抜いていかなければならない。

「同じ学年は、有名な選手が多いので負けたくないですね。ただ、彼らは5000mが速くてもなかなか大きなレースに出られないですが、自分には3000mSCという武器がある。そこでしっかり結果を出して、今後につなげていきたいです」

 須崎の表情には安堵感が漂っていた。無理もない。ここで入賞できなければ長距離部門の優勝を逃し、今年の目標である「学生長距離5冠」が早くも2大会目で潰えることになったのだ。

 1年生の須崎には相当のプレッシャーだっただろうが、4位となり5点を獲得した。これで東海大は長距離部門で18点となり1位。関東インカレに続き、これで2冠を達成した。

 大会終了後、東海大陸上部の全選手が集まり、報告会を終えた。その後、中・長距離部門の選手だけで集合。両角監督は所用のため、すでに競技場をあとにしており、西出仁明(のりあき)コーチが総括を行なった。

 長距離部門で優勝を果たしたが、直立する選手たちに笑みはない。むしろ、表情は硬い。おそらく、これから3大駅伝を迎えるにあたり、チーム状態に不安を感じているからだろう。

 昨年は夏合宿で練習メニューをほぼ完璧にこなしていくなか、早くから全日本インカレ組が出雲を走ることが決まり、出場予定の選手たちは故障することなく、順調に調整していった。それが出雲駅伝優勝、全日本大学駅伝2位へとつながったのだ。

 しかし今年は「箱根駅伝優勝」を目指し、夏合宿で練習内容を変更した。両角監督は言う。

「今年は箱根駅伝優勝という目標を掲げ、それを達成するために練習の内容を変えました。でも、それに学生たちがついてこれず、仕上げることができなかった。それは学生の責任ではなく、私たち指導者の責任だと思っています」

 夏合宿で選手を仕上げることができず、それが今回、鬼塚翔太(3年)ら主力選手の欠場につながったというのだ。

 それはチームにとって痛手であるのは間違いない。だが、主力が走らなかったことで、逆に「もっと出てきてほしい」と両角監督が言っていた中間層の選手たちが実力を発揮し、頭角を現してきた。

 西出コーチは言う。

「今回、普段は得点できない選手たちがきちっと点を取ってくれたのはすごく大きいですね。実際、西川(雄一朗/3年)は外国人選手相手に攻めのレースができていたし、箱根を狙えるところにきた。須崎も夏にしっかり走って、ケガなく結果を残せた。選手層の厚みは確保できたのかなと思います。彼らが駅伝に出た時、今回と同じような結果を出してくれるとチームにとって大きいですね。『アイツができればオレもできる』というサイクルができれば、より層が厚くなると思うので……」

 西川はもともと力のある選手で、チャンスさえ手にすれば駅伝を走れる力は十分に持っている。須崎はこれから5000m、1万mを走った時にどのくらい結果を出せるのかがポイントになってくるだろう。中間層が厚くなればチーム力の底上げにつながるが、やはり主力あってのチームである。連覇がかかる出雲駅伝に向けて、どう戦っていくのか。

「今が底だと考えて、走れる選手で戦うしかないでしょう。故障した選手は徐々によくなってきていますが、出雲までどのくらい復帰してくれるか……。昨年は夏からみんな調子がよくて出雲で勝ったのですが、その後は尻すぼみになっていったので……今年は尻上がりによくなっていってくれればと思っています」(西出コーチ)

 チーム状況は決してよくないが、悲観していても仕方がない。幸い、館澤亨次(たてざわ・りょうじ/3年)が好調だし、トラックシーズンに故障した關颯人(せき・はやと/3年)も戻ってきた。西川、中島怜利(れいり/3年)、郡司陽大(ぐんじ・あきひろ/3年)ら中間層の選手たちがこれからも好調を維持していけば、十分にレースは戦える。

「我々は下を向いていません。これからですよ」

 西出コーチはそう言った。

 これから出雲駅伝までどう巻き返していくのだろうか。東海大の底力が試されることになる。