9月15日と16日、スーパーGT第6戦が宮城県のスポーツランドSUGOで行なわれた。これまでSUGO大会は7月に開催されていたが、今年はスケジュールの変更により9月に移動。敬老の日を含めた3連休だったこともあって、2日間で延べ4万人を…

 9月15日と16日、スーパーGT第6戦が宮城県のスポーツランドSUGOで行なわれた。これまでSUGO大会は7月に開催されていたが、今年はスケジュールの変更により9月に移動。敬老の日を含めた3連休だったこともあって、2日間で延べ4万人を超える観衆が集まった。



3年ぶりの優勝を果たした山本尚貴(中央)とチームクニミツのメンバー

 その大観衆が見つめるなか、GT500クラスを制したのはナンバー100のRAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン)。元F1チャンピオンのバトンが参戦6戦目にして初優勝を果たし、SUGOは大いに盛り上がった。また、パートナーを務める山本とチームクニミツにとっては3年ぶりの優勝となり、彼らにとっても特別な思いがたくさん詰まった1勝となった。

 高橋国光総監督が率いるチームクニミツは昨年、内部の体制を大きく変更した。それまでマシンのメンテナンスを担当していた「M-TEC」が、2017年からTEAM MUGENとしてスーパーGT参戦を決定。それに伴い、チームクニミツは新たに「ATJ(オートテクニックジャパン)」と契約し、メカニックを総入れ替えして臨むことになった。

 ただ、ATJは勢いのある若いメカニックが多い反面、スーパーGTでの経験は決して豊富とは言えなかった。昨年はピット作業で予想以上に時間がかかってしまい、ライバルのマシンに逆転されたり、レースの流れが変わってしまうことも多々あった。

 チームクニミツとタッグを組み始めた当初、関係者の間でのATJの評価はあまり芳(かんば)しくなかったという。だが、そんな周囲の声を一蹴したい、ATJのメンバーとともに早く一緒に勝利を挙げたいと心に決めていたのが、チーム在籍4年目の山本だった。

「チームクニミツとは昨年から組み始めて、ポールポジションは獲っているけど勝つことができず、2位で終わるレースが続きました。歯がゆい思いをしていたので、ATJのみんなのためにも早く勝って、肩にある重荷を下ろしてあげたいなという思いが強かった」

 メカニックの力不足なところがあっても、山本は決して彼らを批判することはなかった。むしろ、足りない部分を自らの走りでカバーするレースを何度も見せ、ATJとの優勝を誰よりも求めていた。

 そんななかで迎えた今回のSUGOラウンド。レース前の時点でドライバーズランキング3位につけていた100号車は、80kgという重たいウェイトハンデを背負ってのレースとなった。しかも、大会前にはマシンのイコールコンディションを保つために性能調整が行なわれ、ホンダNSX-GT勢の最低車両重量は10kg引き上げられた。

 迎えた土曜の予選日。山本はQ2でコースレコードを塗り替える速さを見せ、ポールポジションを獲得する。ただ、山本の表情に笑顔はない。予選後の記者会見でも言葉は少なく、日曜の決勝日になっても険しい表情は変わらなかった。山本はその理由をレース後、こう語る。

「チームの雰囲気を、”いい意味で”壊したくなかったんです。僕がポールポジションで喜んでしまうと、レースまでに皆の集中力が続かなくなってしまう可能性もあったので……。無愛想になってしまっていた部分はあったかもしれませんが、勝ってから喜びたいなという思いが強かった」

 目指すはポールポジションでなく、優勝――。そんなドライバーの思いに、メカニックも応える。

 レース前半の23周目、ナンバー12のカルソニックIMPUL GT-R(佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー)に先行を許してしまう。だが、100号車の山本はしっかりとその背後に食らいつき、逆転のチャンスをうかがった。

 そして、34周を終えたところで山本はピットイン。すると、ATJのメカニックは迅速な動きで作業を終え、わずか39.6秒でコースに送り出した。一方、12号車は38周を終えたところでピットインし、作業時間は43.8秒。100号車のほうが4.2秒も速かった。

 ピット出口での逆転はならなかったものの、コース復帰直後でペースの上がらない12号車をバトンが早々にオーバーテイク。トップの座を奪い返し、そのまま最後まで走り切って優勝を飾った。

 山本はピットウォールで、チェッカードフラッグを受けるバトンを迎えた。そして振り返ると、初勝利に歓喜するメカニックの姿があった。

「僕にとっては3年ぶりの優勝ですが、ATJのみんなにとってはGT500に参戦して初めての優勝。レースが終わった後、いつも僕が泣くことが多いんですが、今回はみんなが泣いていました。その姿を見たら、(メカニックたちが)ここまで責任のある仕事をしてくれていたんだと感じ、僕もより責任感が増しました。みんなのためにも残りの2大会、全力でがんばりたいなと強く思った瞬間です」

 この優勝で、山本とバトンは合計61ポイントとなり、ドライバーズランキング首位を奪還。2番手以下に12ポイントのリードをつけ、シリーズチャンピオンに大きく近づいた。ただ、大量得点したことで、次回の第7戦・オートポリスは61kgの重いウェイトハンデを背負わなければいけない。

「(第7戦は)楽なレースにはならないでしょうけど、クルマとタイヤがうまく決まれば、ウェイトを積んでいても、燃料リストリクターが絞られていても、勝つことはできると思います」

 レース後、山本はようやく笑顔になり、その表情は自信に満ちあふれていた。このメンバーだったら絶対にチャンピオンを獲得できる――。待望の優勝を遂げたことで、その想いはさらに深まったように感じられた。