“かつて”の堀琴音(22歳)がようやく戻ってきた――。 8月のCAT Ladiesで、4月のスタジオアリス女子オープン以来、出場18試合ぶり、今季2度目の予選通過を果たした。通算4アンダー、今季最高の15位タイと…

“かつて”の堀琴音(22歳)がようやく戻ってきた――。

 8月のCAT Ladiesで、4月のスタジオアリス女子オープン以来、出場18試合ぶり、今季2度目の予選通過を果たした。通算4アンダー、今季最高の15位タイという成績を残して、久しぶりに笑顔を見せた。

「やっと”ゴルフができた”って感じです。いいゴルフができると、気持ちも前向きになりますね」

 プレーが終わったあとの清々しい表情を見て、長いトンネルからついに抜け出すことができたのだろう、と思った。



今季、思わぬ低迷に陥った堀琴音

 しかしその後、再び2試合連続で予選落ち。嫌な予感がしたが、国内メジャー第2戦の日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯では決勝ラウンドに駒を進めて、46位タイでフィニッシュした。さらに、続くマンシングウェアレディース東海クラシックでも予選を突破して、38位タイで終えた。

“完全復調”とまではいかないが、成績不振にズルズルと引きずられることはなくなったようだ。光が見えない”どん底”からは這い上がることができて、自らの力で”壁”を乗り越えていく”力量”が、多少なりとも備わってきたのかもしれない。

 それにしても、彼女の柔和な笑みを見たのはいったい、いつ以来だろうか。そのことが思い出せないほど、今季の彼女は開幕から絶不調だった。

 開幕戦のダイキンオーキッドレディスは、左手首痛のために欠場。ツアー3戦目のTポイントレディスから復帰してスタートダッシュを狙ったが、あえなく予選落ちを喫した。続くアクサレディス in MIYAZAKIでも予選落ちすると、ヤマハレディースオープン葛城では体調不良で途中棄権した。

「練習をしすぎて、ショットでも痛みが出ていた」という左手首の痛みが影響して、スイングのリズムが乱れた。その結果、ショットが大きく曲がり始めると、何もかもがかみ合わなくなってしまった。

 そうして、スタジオアリス女子オープンこそ、予選を通過して53位タイに入ったが、その後のKTT杯バンテリンレディスからは、17試合連続予選落ち(うち1試合は棄権)という最悪の状況に陥った。

「『ゴルフをやめたい』と思ったこともありますが、やっぱりゴルフが好きだったんです」

 ツアー本格参戦を果たした2015年から、常に安定した成績を残して賞金シードを獲得してきた。ツアー初優勝が待望されるとともに、ツアーの”顔”として、毎年脚光を浴びてきた若手有望株である。その分、予選落ちの日々はどれほど苦しかったことか。「ゴルフをやめたい」と思うのも当然のことかもしれない。

 だが、まだ伸び盛りの22歳。現役をやめるわけにはいかない――そこで、彼女は大きな決断をした。それは、慣れ親しんだ現在の環境を変えることだった。そして、自らの甘えを断つため、これまでずっと指導を受けてきた中島敏雅コーチのもとを離れることにした。

 それは、堀にとって「自分のゴルフ人生の中で、もっとも大きな決断でした。今まで”自分で決断する”ということも、したことがなかったので」と言うほど、大きな出来事であり、思い切った”決断”だった。

 それからしばらしくて、原江里菜から森守洋コーチを紹介された。これが、ひとつの転機となった。森コーチからスイング指導を受けて、ショットの安定感が増した。そこから、徐々に成績が上向いてきた。

「(森コーチから)特に教えられたのは、ダウンブローで打って、ターフを取る練習をすること。クラブの動きを大きくして、フォローまでのローテーションをしっかり意識するようにしました。違和感があれば、その場で修正できるようになったのも大きいですね」

 浮上のきっかけをつかむことができたのは、何より「どん底から抜け出したい」という強い思いがあったからだ。さらにそのために、現状に甘えることなく、新たな環境に飛び込む勇気があったからだろう。

 ところで、苦悩の日々を過ごしてきた彼女のことを、一番近くで見ていた姉の堀奈津佳(26歳)は、どんな思いでその姿を見つめていたのだろうか。

 ちなみに、彼女も2013年にツアー2勝を飾って以降、苦しい状況が続いている。現在も限られた出場試合のなかで、なんとか浮上のきっかけをつかもうともがいている。それでも、久しぶりに話をした彼女の声は明るかった。

「今季は妹も前半戦から調子がよくなくて、そのときはゴルフのこともちょくちょく話をしたりしましたけど、私も成績がよくないので……。(話をしていても)だから、どうなんだっていう感じだったんですけど……。

 コーチのもとを離れることは、妹が自分で決めました。私にも特に相談はなかったですね。姉妹といっても、プロゴルファーとしては別の存在。妹が決めたことであれば、私から何か言うことは特にありません。

 妹本人が、中島コーチと話し合って決めたことですし、(妹としては)もっとゴルフをよくするために、『新しい風を入れたい』という考えはあったのかもしれません。自分が決めたからには、新たな場所でがんばるべきだと思いますし、妹もそういう気持ちでがんばっているはずです。

 それぞれ違うコーチに学ぶことになりましたけど、プロとして、姉妹として、これからも一緒にがんばっていけたらいいな、と思っています」

 自らの決断を尊重してくれた姉が静かに見守ってくれるなか、新たな道を歩み始めた堀琴音。”落ちるところまで落ちれば、あとは上がるだけ”とよく言われるが、どん底を味わった彼女も「あとは上を目指して、一つひとつ、やるべきことをこなしていくだけです」と、何かしら吹っ切れた感があった。

 以前の勢いはもはや消えてしまったが、これからは単なる”勢い”だけではなく、着実に培ってきた”実力”で上位を目指していく。多くのファンが期待しているツアー初優勝も虎視眈々と狙っているはずである。

 新たな”強さ”を身につけた堀琴音の、復活のときをじっくりと待ちたい。