【連載】道具作りで球児を支える男たち 湯もみ型付け(2)ウィズシー/B.C Works 清潔感のある店内に日光が差し…

【連載】道具作りで球児を支える男たち 湯もみ型付け(2)ウィズシー/B.C Works

 清潔感のある店内に日光が差し込み、キラキラと反射する。白を基調とした解放感のある店内は、野球ショップというよりも、さながら”アパレルショップ”のようだ。

「そう言っていただけるとうれしいですね。弊社は『固定観念にとらわれず、野球界に新しい風を吹かせる』という方針を掲げていることもあって、あまり『野球感』を前面に出しすぎないように心がけています。『THE・野球専門店』という店内装でないからこそ、気軽に来店いただけるんじゃないかなとも思っています」

 こう笑顔で答えるのが、岡山県備前市にある「株式会社ウィズシー」に勤める藤本英樹(ひでき)だ。以前は岡山市の「フジモトスポーツ」で店長を務めていたが、現在は備前市にあるウィズシー内で、グラブを中心とした加工を行なう「B.C Works(ビーシー・ワークス)」を運営している。




株式会社ウィズシーのアドバイザー兼B.C Works代表の藤本英樹氏

 藤本が湯もみ型付けを学んだのが、約17年前。2000年代前半のことだった。

「当時は『第1次スラッガーブーム』と呼べるような状況で、知る人ぞ知る、”通好み”な存在だった久保田スラッガーの認知度が一気に上がりつつあった時代でした。しかもスラッガーのグラブは、お湯につけてから型をつける。『革に水分は大敵なはずなのに、どういった原理なんだろう』と興味が湧いて」

 かねてからフジモトスポーツに久保田スラッガー社との取引があったことに加え、藤本の祖父の代には江頭重利氏が同店の担当を務めていた縁も手伝い、福岡支店での研修が実現した。

「福岡で約1週間、研修を受けました。まずは捕球に関する理論を教えていただき、『捕球と送球を繋ぐために”型”を付ける必要があるのか!』と納得。その型を付けるにあたって、グラブの重量を不必要に増やさず、短期間で仕上げるためにはお湯が適している、と聞いて『なるほど。理に適っている!』と2度納得。当時23歳でしたが、新鮮で多くの刺激をいただいた1週間でした」

 福岡で学んだ技術を生かし、岡山に戻ってからも数多くのグラブに湯もみ型付けを施した。当時の藤本が施していたのは、福岡の直営店に近い浅めの型。湯もみ型付けの前に行なう、紐の調整、芯(親指、小指部にある、グラブの骨格となるパーツ)の丁寧な加工も相まって好評を得た。

 こうして、岡山県内の久保田スラッガー取扱店のなかで同社製品の売上1位を記録。他の大手メーカーからも売上に応じて認定される「特約店」に指定されるなど、店の運営は順調だった。しかしながら、藤本にある葛藤が芽生えていた。

「当たり前の話ではありますが、店を運営するにあたって、”売れ筋”の商品を多く並べたほうが売上は上がります。しかし、人気商品のなかにも『売れているが、正直いいとは思えない』ものがある一方で、『あまり知られていないけれども、自信を持ってオススメできる』商品も存在します。そういった、お客さんに知ってほしい、自分が心からオススメできるものを多く店に並べたい、という気持ちが日に日に強くなっていって・・・・・・。売上を確保するには、売れ筋の商品の比率を多くしなければいけないという考えとの間で揺れていました」

 自身のポリシーと売上の板挟みに葛藤していた頃、同じく岡山県内で野球用品店を運営し、自身でグラブブランドも手掛けている鈴木一平(たいら)から「よければ一緒に働かないか」と提案を受ける。こうして、鈴木が運営する「ウィズシー」に所属することとなった。

「鈴木さんの”固定観念”を持たない姿勢に感銘を受けたんです。今までの私は『スポーツ店はこうあるべき、グラブの型はこうあるべき』といったイメージに縛られていました。けれども、鈴木さんにはそういったものが一切ない。この人のもとで働くことで、より成長できるんじゃないか、自分が抱えていた葛藤の答えが出るんじゃないか・・・・・・。そう思って決断しました」

 2014年から鈴木と共に働き、ウィズシー内に工房を構えた。型付け、修理などのグラブ加工だけでなく、かねてから興味のあったオーダーバットの制作にも取り組むようになる。

「もともと木製バットに興味を持っていて、フジモトスポーツ時代にも輸入した海外メーカーのバットを店頭に並べていました。そうすると、『フジモトには色んなバットがある』と地元の大学生たちが来店してくれるようになって。彼らからバットに関する相談も多く受けるようになりました。『このグリップと、違うバットのヘッドを組み合わせたい』、『この型で、もう少し重いものがほしい』といった理想のバットへの思いを聞くなかで、少数からでも作れるオーダーバットのブランドを作れないかな、と考えるようになったんです」

 理想に近いバットを手にすることで、学生たちが最良の結果を残せるようになるのではないか。その思いに突き動かされた藤本は、他県のバット工場を訪問するなどし、オーダーバットのブランドを立ち上げる。名前は工房と同じく「B.C Works」とした。

「顧客の希望を詰め込んだバットを発注すれば、理想のバットが完成する」。こう思っていた藤本だったが、いきなり壁にぶち当たった。地元の大学で学生コーチを務める青年から注文を受けたときのことだった。

「大学の学生コーチからノックバットの注文を受けて、『グリップはこれで、長さはこう、ヘッドは・・・・・・』といった具合に彼の希望を聞いて発注しました。このときの私は『お客さんの希望通り作れば、理想のバットができる』と単純に考えていましたが、完成したバットを使った彼の感想は『藤本さん、すみません。このバットは使えません』といったものでした。

 木製バットは全体のバランスや、材質との相性を考慮しなければ、”いいバット”になりません。『こう打ちたい、こんなフィーリングで』などの要望に合わせて、それならこの型が近いのではないか、でも、重くなってしまうからヘッドをくり抜いて・・・・・・といったように進めなければならない。それなのに、当時の自分はまったくわかっていませんでしたね(苦笑)」

 ここから青年と二人三脚で理想のバット作りを開始。長さ、重さの調整はもとより、通常のノックバットでは使用しない材質も試すなど、試行錯誤を重ねた。こうして”理想のノックバット”が完成し、現在はその大学でコーチを務める青年も「もうこのバット以外ではノックは打てません」と語っているという。

 それ以外にも、「芯でとらえる練習として竹バット(竹を貼りあわせて作る木製バット)を使っているが、金属バットと形状が大きく異なるため、本当の意味でトレーニングになっていないのではないか?」という意見を取扱店から受け、「金属バットと同形状の竹バット」を共同で制作。大学以降へのステップアップにも繋がる練習用バットとして、好評を得ている。

「『こういうのがほしかったんだよ! ありがとう』と言っていただけて、まとまった数を納品することができました。大手メーカーに比べたら少ない数ではありますが、取扱店であるイトウスポーツの井藤隆則店長、スポーツショップアントの有元昭博社長と試行錯誤しながら商品を作り上げることができ、バットブランドとして大きな自信になりました。独りよがりになることなく、ひとりひとりの声をすくい上げる。小規模だからこそできることを今後も続けていきたいです」

 様々な出会いから刺激を得るなかで、グラブに施す型も変化しているという。

「今の型はフジモトスポーツ時代からは、かなり変化しています。以前はもっと浅めの型をつけていましたが、今はそのときよりも小指を利かせるようにしていて、全体的に深め。今後、日本人内野手がより上のレベルを目指すなかで不可欠になってくる、『”逆シングル”が簡単に行なえるように』を第一に、現代の野球で使われるグラウンドの特性や、打力向上によって上昇した打球スピードへの対応なども考慮して変えました。

“野球の進化”に型もついていかなければ、という思いも強くあります。今後も変化を恐れず、お客さんにとって最良の型を考え、それを表現する技術を磨いていきたいと思います」

 こう語る藤本の服装も、フジモトスポーツ時代から大きく変化している。現在はTシャツに丸メガネと、一見「野球用品店の店員」には見えない恰好だ。

「以前はメーカー名の入ったウェアを着て、メガネもゴーグルに近いスポーツ向けのものを使っていました。でも、それは『スポーツ店の店長は、こうでなくちゃ!』という固定観念に縛られていたから。これからは自然体でいたいなと思って、こういった格好をしています(笑)」

 顧客の小さな声も汲み取る――。この不変の思いを胸に、変化を続ける男の笑顔は清々しかった。