名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第27回 シーズンも終盤に入り、セ・リーグは広島の優勝へのカウントダ…

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第27回

 シーズンも終盤に入り、セ・リーグは広島の優勝へのカウントダウンが始まっているが、残り5球団によるCS争いは激化。一方のパ・リーグも独走していた西武にソフトバンクが猛追。優勝の行方はまったくわからなくなってきた。残り30試合を切り、どのチームも緊張が増すこの時期。はたして、どのような戦いをすればいいのだろうか。近鉄、ヤクルトなどでコーチとして、これまで何度も優勝争いを経験した伊勢孝夫氏に「シーズン最終盤」の戦い方について聞いた。



何とか3位を死守したい巨人・高橋由伸監督だが......

 長いシーズンも終盤に差しかかり、残り20試合ほどになった。競馬にたとえるのもなんだが、第4コーナーを回り、直線に入った頃だろうか。ファンとしても毎日の結果が気になって仕方ないだろう。

 こんな時、選手やコーチ、監督はどんなことを考えているのか――。実は案外、冷静だったりするものだ。もちろん、CSなどプレーオフを何度も経験しているチームと、そうでないチームとではムードは違うが、経験豊富なチームの選手たちはこの時期の戦い方を知っている。

 僅差で競った終盤の戦い方で最も大事なことは、下位のチームに絶対負けないこと。その一方で、上位チームとの直接対決はよくて2勝1敗、悪くても1勝2敗でいい。要は、3連敗さえしなければいいのだ。

 たとえば、追う側のチームが直接対決で3連敗してしまうと、ゲーム差は3つ広がり、残り試合数を考えると、逆転するのは相当厳しくなる。だが1勝2敗だとゲーム差は1つ広がるだけで、まだ挽回は可能だ。

 では、絶対にやってはいけない連敗を避ける秘訣はあるのだろうか。その答えは実にシンプルだ。それは「普通に戦う」ことだ。言い換えれば、「特別なことはしない」ということだ。「終盤にムチを入れる」という表現があるが、逆効果になることが結構多い。

 わかりやすいのは投手の起用法だろう。よくシーズン終盤の負けられない試合になると、リリーフ投手にイニングまたぎをさせたり、連投させたりするケースがある。勝てば優勝や、CS進出が決まるという試合なら理解できるが、仮にその試合に勝ったとしてもそこで蓄積された疲労は必ず出る。より重要な試合でキレや球威が落ちてしまっては本末転倒である。

 ある監督は、こうした”ムチの入れ方(選手起用)”で「ここからラストスパートだ」とメッセージを送ることがある。だが、そのタイミングが本当に難しい。早過ぎても、遅すぎてもダメ。正直、正解かどうかはシーズンが終わってみないとわからないが、監督のセンスが問われるのは間違いない。

 ただ私が知る監督たちは、手綱さばきがうまかった。策士で知られるノムさん(野村克也氏)は、上位争いのシーズン終盤、あからさまに檄を飛ばしたり、ムチを入れることはなかった。

 ある時ノムさんが「無理に手綱を引いて、選手にブレーキがかかるのが怖い」と言っていた。つまり、選手たちはその気になって走り出しているから、そのまま行かせるしかないということだ。無理にベンチが動いて、ブレーキがかかったりしたら、それこそ逆効果になる。

 近鉄時代の梨田昌孝監督もそうだった。口の悪い記者は「馬なり」と言って、無策だと主張していたが、シーズン中ろくにサインを出していない選手に、シーズン終盤の大事な局面だからといってバントのサインを出して失敗でもしたら、一気に流れが変わってしまう。

 無理をせず、手堅く慎重に戦う。言葉にすればつまらないと思われるかもしれないが、監督やコーチは”流れが変わる”ことを最も恐れている。もちろん試合中にも流れはあるが、シーズン終盤の展開にもそうした”流れ”は存在する。その流れにうまく身を任せ、勝ち星を拾っていけるチームが巧者なのだ。逆になんとかしてやろうと、無駄に動くチーム、奇策を仕掛けてくるチームは脱落する。

 だから普通に戦うことが大事なのだ。しかしその普通がまた、難しい。そもそも普通に戦うとはなにか。

 どんな形でもいいから先制点を取り、展開を有利にさせること。相手に得点を許す前に、加点してむこうの勢いをくじくこと。そのためには間違っても凡ミス……ゲッツー崩れで走者を残したり、不用意な四球で出塁を許したりといったことは絶対にしないこと。選手もわかっている。だが大事な試合となればなるほど、その大事さを意識して普段にはしないようなミスを冒す。普通に戦うことは、それだけ難しいのだ。 

 とくに今季のセ・リーグのCS争いは熾烈を極めている。冒頭で「下位に取りこぼしはできない」と記したが、事実上、どのチームが下位なのかわからない。だから「目の前の1試合を大事に……」となっていくわけだが、ここからは監督の技量が問われる。

 ラストスパートを仕掛けてうまくいけば団子状態から抜け出すことになるが、ひとつ間違えれば失速もあるわけだ。この怖さ、重圧……ご理解いただけるだろうか。

 そんな心理のもとで、シーズン終盤、最後の順位争いをしているのである。そうしたことを頭に入れて試合を見てもらえば、また違った印象を抱かれるのではないだろうか。

(つづく)