長いシーズンも気がつけば終盤戦に突入。ヤクルトはシーズン96敗という記録的最下位に沈んだ昨年から一転、クライマック…

 長いシーズンも気がつけば終盤戦に突入。ヤクルトはシーズン96敗という記録的最下位に沈んだ昨年から一転、クライマックス・シリーズ(CS)進出も現実味を帯びている。今季のチームスローガンである「再起」を実現している大きな要因のひとつに、7年ぶりに日本球界に復帰した青木宣親(のりちか)の存在がある。



ここまで(9月8日現在)打率.328とチームトップの成績を残している青木宣親

 たとえば、青木の姿を練習から試合終了まで追えば、その”存在感”の大きさを知ることができる。

 勝利に導くヒットはもちろん、チームが苦境に立たされたとき「声を出さずにはいられないんだよね」と、消沈することなく最後まで勝負をあきらめない姿勢。全体練習が終わったあと、室内練習場でマシン相手に打ち込む姿。バレンティンたちがつくり出す明るい練習風景を眺める澄んだ眼差し。青木の言動のすべてがチームに計り知れない好影響をもたらしている。

 青木は言う。

「去年96敗もすれば、みんな自信をなくすに決まっているし、”今日”という日が来るのが億劫だったと思うんですよ。僕はそこを前向きにしようとしただけの話です。すべてがそのとおりになったかはわかりませんが、開幕した頃と比べれば心のぶれはなくなっていますよね。みんなから『よし今日もやってやるぞ』という姿が見える。やっぱり勝つことって、自信になるんですよ。実際、チームは2位につけていますし」

 今年2月、沖縄・浦添での春季キャンプで石井琢朗打撃コーチは「青木にはチームの精神的支柱になってほしいですよね。チーム全体を少し引いたところから見てくれる存在というんですかね」と話してくれた。そのことについてあらためて聞くと「十分に実現しています」と満足そうな表情で語った。

「やっぱりチームが苦しい時って、コーチの言葉よりも選手同士でまとまる力が大事なんですよ。(青木は)見えないところで選手たちに声をかけてくれていますし、野手最年長ですが、おとなしいチームのなかで先頭に立って声を出してくれている。本来なら、少し下の年代の選手が先頭に立って声を出してほしいんですけど(笑)。今は青木がひとりで2つの役をやってくれていますが、その姿を見て、ほかの選手たちがどう感じとってくれるのかですよね」

 宮出隆自打撃コーチは「まず結果を出していることが、説得力を生んでいますよね」と言って、こう続けた。

「そのなかで、自分に影響力があることを感じながらベンチで声を出したり、アドバイスをしてくれたり……。たとえばバレンティンにも『頑張ろうぜ』とか、しかもいいタイミングで声をかけてくれています。

 僕も現役時代に感じましたけど、同僚から激励されるとうれしいですし、コーチに言われるのとは感じ方が違います。長いシーズンを戦っていると、そういうことって大事になってくるんです。言葉は悪いですけど、僕らも(青木)宣親に頼るというか、お互いうまく利用できればいいなと。これは最初から思っていました」

 4月のある試合前練習にこんなことがあった。バッティングケージにはバレンティンが入っていたが、いつもの「ヨッシャー」というかけ声もなく、ふさぎこんでいた。異変に気づいた宮出コーチが青木に「ココ(バレンティンの愛称)に元気がないけど……」と話しかけると、突然「ストロングハート! うわー、いいわ、ココちゃん!」と、青木は過剰なまでに大きな声でバレンティンを激励した。すると、バレンティンの表情に笑顔が戻ったのだった。

 その話をすると、青木は思い出したのか、笑顔で話してくれた。

「自分としてはバランスを取ろうとしているんです。琢朗さんや宮出さんも言っているけど、コーチの言葉だけでは、それが正解でも受け取る側のとらえ方が違ったりすることがある。自分もそれがよくわかるので、僕が入ることでバランスが取れるかと。あくまでも自分は選手なので、立場をわきまえながら、みんながいい方向に行くようにしているつもりです」

 シーズンも残り少なくなり、タフな試合が続くなか、プレーヤーとしての青木への期待は大きい。青木は自身のバッティングについて「良くも悪くもなく、波があってもすぐに修正できている」と話すが、満足するまでにはいたっていない。

「(開幕から)打てない日が続いたのは、日本とアメリカではまったくピッチャーのタイプが違うなかで、頭ではわかっていても体がうまく反応しないというか……6月あたりから結果はついてきたけど、まだまだ”それ”を意識しないと打てない感じですね。無意識に反応して打てるようにならないとダメなんですが、すぐには変われないので。今の感じでこのままいければいいと思っています」

 7年ぶりに日本球界に復帰した青木に聞いてみたいことがあった。「野球」と「ベースボール」の違いはいろんなところで語られているが、チームとして見たときに日本とアメリカに違いはあるのだろうか、ということだ。

「違いますね。一概にどっちが正解という考えはないけど、まったく違うと思います。日本にもアメリカにもいいところがあり、『これはどうかな』と思うこともそれぞれにある。日本は”組織”をすごく大事にして、団体で動く。ここはすごくいいなと思うところなんですが、だからこそアメリカのようにもう少し”個”の部分も大事にした方がいいのかなと思う部分もあります。そのバランスですよね」

 今シーズン、青木は前述したように選手としての立場をわきまえながら、「日本とアメリカのいいところ……組織と個をうまく融合させて、新しい日本流ができればいい」とやってきた。その成果は出ているのだろうか。

「全体ミーティングで”みんな”に向けて話すことは少なくなりました。チームとして前向きにいこうという感じが出ているし、結果も出ていますから。どちらかといえば”個別”に話していることの方が、今は多くなっています」

 9月5日の中日戦(神宮)。4点ビハインドの6回裏、ヤクルトは青木の3ランと雄平の2ランで逆転勝利を飾った(前日は9回裏に6点差を追いつき、延長11回裏に上田剛史のサヨナラ3ランで劇的勝利)。試合後の囲み取材で、CSに関する質問に青木はこう答えた。

「まだカープの優勝も決まってないわけですから。とにかく目の前の試合を勝つだけです」

 青木はバットマンとしての”数字”よりも大きなものを、チームにもたらしているのだった。