今週末、井岡一翔(SANKYO)が4階級制覇を目指してリングに帰還する。9月8日(日本時間9日)にロサンゼルスのイングルウッドで開催される、スーパーフライ級の強豪を集めたイベント「Superfly 3」の一戦として、井岡はWBO世界ス…
今週末、井岡一翔(SANKYO)が4階級制覇を目指してリングに帰還する。9月8日(日本時間9日)にロサンゼルスのイングルウッドで開催される、スーパーフライ級の強豪を集めたイベント「Superfly 3」の一戦として、井岡はWBO世界スーパーフライ級3位のマックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)と戦うことになった。
2015年4月に3階級制覇を達成した井岡
WBAの同級2位にランクされた井岡に注目が集まるが、勝敗の行方は読めない。32歳のアローヨは17勝(14KO)3敗の戦績を誇る危険なパンチャーで、2016年4月には、当時まだ無敗だったローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に敗れたもののフルラウンドを戦った経験がある。今年2月の「Superfly 2」では、元WBC同級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)相手に”番狂わせ”の勝利も収めた。
アローヨは無冠ながら王者クラスの実力があると目されており、スーパーフライ級に転向して初めての試合に臨む井岡にとってはリスキーな相手となる。果たして、井岡vsアローヨ戦はどんな展開になり、どちらが勝ち残るのか。
今回はアメリカのスポーツ専門チャンネル『ESPN.com』の人気企画、「5-on-5ディベート」をモデルに、軽量級ボクサーに精通した4人のエキスパートにこの試合に関する3つの質問をぶつけてみた。それに対するパネリストの答えから、試合展開や勝敗を分けるポイントを探る。
【パネリスト】
○クリフ・ロールド:ウェブサイト『BoxingScene.com』のマネージング・エディター(編集長)。8月30日に同サイトにおいて井岡の特集記事を発表した。
○ライアン・サンガリア:『リング』誌のライター。フィリピン系アメリカ人で、アジアのボクシングに精通する。
○ゲイブ・オッペンハイム:NY拠点のフリーライター。昨年5月の村田諒太(帝拳)vsアッサン・エンダム(フランス)戦の際は日本で現場取材を行なった。
○ショーン・ナム:『ハンニバル・ボクシング』『UCN.com』などで健筆をふるう、韓国系アメリカ人ライター。
Q1 ボクサーとしての井岡の印象は?
ロールド「井岡には最高級のスピードがあるわけではないし、驚異的なハードパンチャーというわけでもない。井上尚弥(大橋ジム)ほどダイナミックなボクサーでもない。ただ、井岡は知的で経験豊富な選手であり、基本に忠実でパンチをまとめるのがうまい。ピンチを迎えてもパニックを起こさないのも長所だ」
サンガリア「井岡の実力は確かだが、2014年には誰が戦っても苦戦するだろうアムナット・ルエンロン(タイ)と対戦する不運を経験した(その試合は井岡が判定負け)。また、これまでの微妙な対戦者選びのおかげで、能力を十分に証明することができなかった。ただ、ここでアローヨを下すことができたら、群雄割拠のスーパーフライ級の中でも非常に興味深い”新加入選手”として浮上するだろう」
オッペンハイム「フライ級時代の井岡は反射神経のよさ、巧みなボディ打ち、狡猾(こうかつ)なディフェンス、ピボットのうまさなど、多くの長所を備えたボクサーだった。だが、昨年末に一度引退を表明する直前には、やや動きが鈍り、つけ入るスキがある選手になっているように見えた。名のある選手との対戦も数えるほどで、そのうちの1戦(ルエンロン戦)には敗れているため、彼のことを”グレート”とは呼び難い。22勝という戦績も豊富とは言い難い」
ナム「井岡は興味深いキャリアを過ごしてきた。ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)や全盛期の八重樫東(大橋ジム)相手に挙げた勝利は、彼が注目に値すべきタレントだということを示していて、日本の期待の星だった時期もある。しかし、ルエンロン戦の敗北によってその勢いは失われ、限界を示したとも言える。ともあれ、井岡の復帰はうれしいニュースであり、彼にはまだ伸びしろがあると考えている。幸いにして、スーパーフライ級には魅力的な選手がたくさんいる。井岡には謎めいた部分が残っているが、近いうちに多くの疑問に答えが出されるはずだ」
Q2 ブランク明けで、スーパーフライ級転向後の初戦となる井岡の相手として、アローヨはリスキーすぎるか?
ロールド「私はアローヨが危険すぎるとは思わない。いいテストになるだろう。今後、スーパーフライ級で勝ち抜いていこうと願うなら、真の実力者との対戦を選んだのは好スタート。現代ボクシングの基準では井岡のブランクは長くなく、問題にはならないはずだ。現在、スーパーフライ級の王者たちは強豪ぞろいで、無冠でも優れた選手が多いため、簡単にトップには立てない。それでも、キャリア最高の勝利を挙げたばかりのアローヨに勝てば、井岡は自身の存在をアピールできるだろう」
サンガリア「井岡にブランクがあったことを考慮すれば、アローヨ戦は”大胆な冒険”と言わざるをえない。アローヨはタフで優れたボクサーだからだ。ただ、井岡はパウンド・フォー・パウンド・ランキング(選手の体重を同一と考えて強さを計る仮想ランキング)に入っても不思議じゃないほどの実力を備えている。ボクサーとしての能力的には、やはり井岡が一段上ではないか」
オッペンハイム「井岡は体格的にアローヨを上回っているのだから、彼がいきなりスーパーフライ級の強豪との対戦を選んだことは間違いだとは思わない。懸念材料があるとすれば、この試合を迎えるまでに作ったブランクで”サビつき”がないかどうかだ」
ナム「今回の試合に少なからずのリスクがあるのは事実だが、アローヨはこの階級のトップ選手というわけではない。クアドラス戦の勝利も、ローマン・ゴンサレス戦以降にクアドラスが調子を落としていたことを忘れてはいけない。アローヨに勝てば遠からず、井岡にはさらに重要なファイトの機会が訪れるだろう。復帰初戦でアローヨ戦を決めたことは、キャリア第2章をより野心的なものにしていきたいという井岡の心構えを示している」
Q3 井岡vsアローヨ戦の勝敗予想は?
ロールド「ほとんど互角で、どちらが勝っても驚きはない。パワーではアローヨが少し勝っているようにも思えるが、手数が不足気味なところがある。井岡は身長、リーチでやや勝り、オフェンス面では安定感がある。接戦の末に井岡が判定勝ちを収めるのではないかと思う」
サンガリア「アローヨは最高の勝利を手にしたばかりだが、その相手であるクアドラスは才能がありながら不安定で、勝つべき試合を落としてしまう選手でもあった。一方、井岡は最高級の”試合巧者”だ。井岡の判定勝ちを推したい」
オッペンハイム「引退を発表してから復帰を決めるまでに井岡の疲れが癒え、勢いを取り戻せていたとしたら勝利を手にするだろう。そうでなければ、アローヨが判定勝ちするのではないか。いずれにしても非常に面白い展開になり、どちらが勝つにしても12ラウンドを戦い抜く可能性が高い」
ナム「基本に忠実なスタイルとシャープなカウンターがモノを言い、井岡がユナニマス・デシジョン(3-0)で判定勝利すると見ている」