試合はすでに終わっていた。だが、ベニト・ビジャマリンに集まったベティスサポーターは、この試合でベティスに勝利をもたらしたチームのアイドルに敬意を払うかのように、そして今シーズン初勝利の喜びを皆で噛みしめるように、ホアキン・サンチェスが…
試合はすでに終わっていた。だが、ベニト・ビジャマリンに集まったベティスサポーターは、この試合でベティスに勝利をもたらしたチームのアイドルに敬意を払うかのように、そして今シーズン初勝利の喜びを皆で噛みしめるように、ホアキン・サンチェスがピッチから姿を消すまで立ち続けた。
セビージャ戦にフル出場、勝利に貢献した乾貴士(ベティス)
リーガ・エスパニョーラ第3節、セビージャダービー。レアル・マドリード対バルセロナの対戦”クラシコ”以上に激しいライバル意識を持つベティスとセビージャが、まさにアンダルシア州の州都を二分する戦いを繰り広げる。勝てば1年、ライバルサポーターに対して大きな顔ができる一戦だ。
だからこそ、ベティスは負けるわけにはいかなかった。ましてやチームは、ダービーを戦うまで無得点無勝利と、クラブに忠誠を尽くすベティコに喜びを与えることができていなかった。9月最初の試合で、クラブに少しずつ積み重なっている重たい空気を吹き飛ばすためにも、セビージャとのダービーは引き分けも許されない”絶対に勝たなければいけない”試合だった。
スタジアムへ向かうチームバスを見送るために100人を超えるサポーターがホテルに集まった。ホテルのレセプションでは、サッカーに興味がないであろう北欧系の太ったお父さんが「何も頼まないサポーターが席を牛耳っており、家族が座って注文ができない」とこぼしていた。
そんななか、チャントが鳴り響き、選手たちがバスに乗り込んだ。最後キケ・セティエン監督が乗り込みバスが動き出すと、チームカラーの緑の発煙筒が焚かれ、付近はすぐさま火薬の匂いで充満した。
この試合に先発フル出場し、股抜きからシュートを放つなど、徐々にアンダルシアのチームに適応しているところを見せた乾貴士は、試合後のミックスゾーンで、人々のダービーへかける大きな思いを語らずにはいられなかった。
「ダービーのレベルがちょっと違いましたね。これだけ盛り上がるというか、ファンがこれだけ命を賭けているというようなダービーっていうのは、なかなかない。まあちょっと、日本人の自分からしたら考えられないぐらいの熱さがあった」
乾はボールには触っていないものの、ゴールにも絡んだ。80分、左サイドから右サイドへ展開されたボールは乾のもとに出されるが、乾はこれをスルー。スルーされたボールを受け取ったアイサ・マンディ。マンディが中央へ折り返すと、ホアキンが頭であわせてネットを揺らした。
ベティスのアイドルであり、レジェンドが決めた一発に、スタジアムは歓喜を爆発させ、誰もが席の上で飛び跳ねた。まるで地震のような縦揺れが生まれるが、地震の恐怖を知らないセビージャの人々は誰もが飛び続けた。
「一番取ってもらいたい人(ホアキン)に得点を取ってもらえて。たぶん、スタジアム全体もそうですし、ベティスファン全員がすごく喜んだと思います」
ホアキンが決めて勝ったことが大きいと、初めて経験したセビージャダービーを振り返る乾。試合終了後は、まるで優勝したかのように勝利を祝ったベティスだが、試合前のロッカールームでは、キャプテンであるホアキンが輪を作り、チームにこんな激を入れていたという。
「みんな、5万人を超える魂が俺たちを後追いしてくれる。90分、全力で戦い続けなければいけない。特に試合序盤に勢いをつけること。それが自分たちを勝利に導いてくれる。いくぞ、1、2、3!」
まさに決める人が決めてチームを勝利に導いた。ベティスにとって完璧な日曜日の夜になった。