元バドミントン日本代表 / スポーツキャスター小椋 久美子 ×                         株式会社スポーツゲイン 取締役 / 一般社団法人アスリートエール 理事森 実利今回のアストークは、元バドミントン日本代表で北京オ…

元バドミントン日本代表 / スポーツキャスター
小椋 久美子
×                        
株式会社スポーツゲイン 取締役 / 一般社団法人アスリートエール 理事
森 実利

今回のアストークは、元バドミントン日本代表で北京オリンピックにも出場された小椋久美子さんと、パーソナルトレーナー・スポーツアスリートエージェントをはじめ、いくつものスポーツビジネスを展開され活躍されている森実利さん。それぞれオリンピックとの関わり方をそれぞれの立場として何を体験したのか?リアルなその思いを語るとともに、ビジネスシーンでもヒントとなる大舞台への心構えについても語り合った。

オリンピックという夢の舞台。そこに潜む魔物とは?

森:小椋さん、まず北京ですよね。北京でたときの選手として北京五輪関わった時の前後も含めてオリンピック入る前の心境というか、初オリンピックに出る時の気持ちの部分とか、体の状態とか話してらってもいいですか?

小椋:競技によって違いますが、バドミントンはオリンピック開催の三ヶ月前に出場が決まります。1年間のオリンピックレースを戦い抜いて出場権を獲得するのですが、オリンピックでメダルが獲りたかったので出場が目標ではなかったです。なので出場が決まった時はやっとメダルを獲るためのスタートラインに立てる!という心境でした。それと同時に、オリンピックまでの準備が3ヶ月間。完璧なイメージで絶対に勝てるという自信や戦い抜ける安心感みたいなものを持ってオリンピックに行きたいと思ってるんですけど、、、実際にはそれができないというのが逆に焦り、恐怖心にもなりました。でもたとえば筋力をつけますとか、もっとスピードを上げるようなフィジカルを強くしますとか、技術的なことあげますとかって、たった3ヶ月間で変わるものではないと思っていて。私が考えたのはとにかく自信をもってコートに立とうってことですね。オリンピックに出た時に何か起こるかわからないし、コートに立ってみて自分の今までやってきたものを出した時に結果がついてくるかな、という思いがあったので、とにかく残りの3ヶ月間、やり込もうと思いました。

森:いままでアスリートを見てきて、オリピックっていうだけのに区切ると4大会いろんな選手見てきた時に、ほとんどの選手が自分は、さっき言われたようにメダルは無理だろう、ってどっかで思ってるのに、「行くにはメダルとります!金メダル。」という自分とがあります。客観的にみれば予選突破するかどうかギリギリのラインというのを、今までの世界選手権やワールドカップをの戦績からすると急にオリンピックでメダル取れる確率は低いっていうのはあるじゃないですか。でもメディアだったりとかまわりのプレッシャーで金メダルとりますと言ったが故に、言った自分でプレッシャーをかけてダメになる場合が結構ありますね。

小椋:私の場合は元々は勝てないかもって思っていた選手にも勝てたりして世界選手権3位になったので、オリンピックでも可能性はあると思ってたけど、絶対っていう自信はなくて・・・あとは組み合わせ(ドロー)の心配も心理的にはありますよね。どこかでメダルを取れないんじゃないかなっていう不安があって、自分の口に出していることと潜在的に思っていることが噛み合ってないなっていうのがありました。

森:小椋さんの場合は世界で結果残していける。でも、いけない人もいて、それがちょっと選手に対してまわりが変なプレッシャーとか、メダル取りますって言わなきゃいけないみたいなのもあるんですね。そうすると今までそういう対応に慣れてない選手が多くなってたぶんどうしていいかわらからくなったり。。。だからこそ、そういう経験をしたアスリートから伝えていくのが一つ手かなと思います。あと、残り3ヶ月でパフォーマンス、筋力、スピードはあがらないし、その間って何するかって、調子を整えることが一番大切。試合の朝めちゃくちゃトレーニングする選手いるんですよ。ウォーミングアップめちゃくちゃする。それしても急にその日うまくなるわけないのに、それってなんで起こってるかって「不安」なんですよ。「不安」だから、その日の朝とか急に練習し出して、いやいやいつもアップそんなしてないでしょ!みたいな。そのまま、試合でパフォーマンスあがらないとか、常に悪循環になっちゃう人がやっぱりいるんです。さっき言われた3ヶ月にパフォーマンスあがんないよね、って小椋さんみたいに自覚している選手はまだよくて、それがわからない選手はやっぱりやって無理してオーバーワークの状態でオリンピックとか世界選手権を迎える人もいるんです。

選手が不安なら、周りが地に足つけばいい。

小椋:たとえば「オリンピックレース」と言われている1年間。オリンピックを意識するレースなのにもかかわらず、オリンピックの出場決まりました!というところまでは正直不安はないんです。逆に、オリンピックは出場が決まった後の方が不安があります。オリンピックまで残り時間がなくて何かやらなきゃいけない、足りないものがあるっていうことを、実は出場が決まった時に初めて気がついたことで・・・もっと前段階からいろんなことを調整できたら、たとえばいろんな選手と戦う上で一度負けたとしても勝つ方法を見出していくとか。でも、実際にはそうではなくがむしゃらにオリンピックレースを走り続けたから、出場がきまったときに何も準備ができていなかったんです。

森:やっぱりそれって裏方、コーチとかトレーナーも同じで、焦っちゃいますよね。こっち側も。コーチもついついやりすぎちゃう。トレーナーもやりすぎちゃう。全体的にぱんぱんになって結構肉体的にも精神的にも。僕も初めて大きな国際大会関わった時は、1ヶ月間毎朝鼻血出るくらい自律神経おかしくなって。ストレスとプレッシャーで。22歳くらいだったと思います。

森:選手が初めて出場するパターンと、まわりのスタッフが初めてのパターンと、両方が初めてのパターンってあると思うんですよ。両方が初めてのパターンはお互いにどれだけ高い意識に持っていけるか。それって急にオリピックに出られるわけじゃないと思うので、ワールドカップとか世界選手権とかいろんな大会で自分たちが早くそれに気づいて、意識高くこれを今から準備していこう、っていう共同作業やっていくかが大切。トレーナー・コーチとかが把握している場合はしっかり選手にそれを伝えてあげる。選手の場合も逆ですけど伝えてあげることができるんで、お互いに選手もまわりのスタッフもどれだけ高い意識で世界を転戦したりとか大会のときにできているかが重要にはなるんですよね。お互い若い同士だと、自分もそうですがやっぱりふわふわしてましたからね。そうするとさっきの選手が不安だったトレーニングするように、トレーナーとかコーチも練習させたがるんで。不安だから。自分ができないモヤモヤを選手にさせるんですね。

小椋:そうだったかもしれないですね・・・私自身も、周りも意外にも焦ってた気がします。

大切なのは、コンディショニング。筋トレで強くするだけは不安の証。

森:今、海外は特にですけど、ハードトレーニングってあんまりしないんですよね。どっちかっていうとコンディション整えたりとかの方が大切で。

小椋:いつですか?

森:もう、通年。いわゆる一般的な筋トレっていうよりは、パフォーマンスあげるための筋トレはしますけど、筋トレは先にはこないんです。日本では最初に体を筋トレありきになってきて、たとえばベンチプレスをあげる、体力測定があがったら満足!みたいな。パフォーマンスが上がるのはまた別次元の話なんで。世界的には、どちらかというと調整だったりとかが大事で、がっつり筋トレみたいなのをしないんですよ。そういうどっちかっていうと試合前の不安のメンタルコントロールとか、それに出る体に出る影響とか、そういうところにフォーカスされています。そこが国際大会でできてこないとまた筋トレみたいな方向にいって、それの方が簡単なんで、選手もコーチトレーナーも安易な方に行きやすくなるんです。何キロ上がった自信がでてきた、みたいな。

小椋:そのタイプでした、わたし・・・(笑)意図もなく体鍛えてたり、それが安心感だったかもしれないんですけど、これだけやったから大丈夫!っていう自信も大切だと思うんですよね、自分の心理的な事考えれば。でもなんかこう、今の選手たちがなんでこんな強いんだろうと思って。絶対私たちの時代の方が練習とかきつかったと思うんですよ(笑)真剣にやってるんですけど、そこまで追い込んでないなって感じる選手もいて。膝に手をついて立てないくらいになるとかっていう選手も全然いないし、さらっとトレーニングもやっていて。それなのになんでこんなに強いんだろうって考えたら、たぶん追い込めばいいってことじゃないんですよね。ただ体を鍛えれば強くなるっていう考え方なんだと感じました。

森:そうそうそう。それだったら24時間走ってれば足速くなるんですか?っていうとまた違うじゃないですか。でもそれに近いことを日本の場合、スポーツじゃなくてかつてから体育としてやってきたことがあったりして。スポーツはどうやったらその競技のパフォーマンスが怪我なく行えるか、っていうのを、それを競うのがスポーツなんですけど、体育なんでいかに我慢して訓練してやって自己鍛錬でできるかっていうのがそもそもスタートが違うんで。それをオリンピックとかスポーツの土俵になったときにそれは勝てないよね、ってなっちゃうのがありますよね。

小椋:確かに怪我をする選手ってすごい減りましたよね。

森:減りました。そういういまだんだん国際的にもやってきてウェイトめちゃくちゃやってていう選手は結構減ってきて。まあどっちかっていうとパフォーマンスをあげる、怪我をしないための何をするかっていうのにいまフォーカス当ててる。それにストレスマネジメントとか、メンタル的なところとか、いかに体を連動させてとか、そっちの方ですかね。

小椋:なるほど、腑に落ちました。なんで強いんだろう?と思った時に、コート内のパフォーマンスがすごく良くてそのレベルが上がってるんですね。もちろんいま男子バドもすごい強いんですけど、強くなった理由っていうのは、トレーニングなどで基礎をあげてるからだと思ってたんです。もちろんそこは否定はしなんですけど、そればかりをベースに考えてる昔の忍耐強い練習方法みたいなのではやっぱり勝てないんだな、ということはわかりました。

森:年齢とか成長曲線とかでそれをすることが必要なところもあるとも思うんですけどやっぱりきつくなりますし、最終的には体を動かしてるのは体じゃないので。筋肉や関節でもないんですけど、そこにフォーカスしすぎるとやっぱり崩れちゃう。でもそこにフォーカスする人も多いんですよね。それはどっちかっていうとコーチ・トレーナーの責任でもあると思いますけど。

小椋:逆に、そこを鍛えるすぎるというか、体を強くすることばかりフォーカス当てて鍛えすぎるとパフォーマンスが落ちる可能性があったりするんですか?

森:どっちかっていうと落ちます。もちろん筋肉必要ですけど、逆にコントロールするものが多くなりますよね。やっぱりある程度自分がコントロールできるもの以外をあまりつけすぎない。

小椋:そうか・・・それは知識がなかったら、いらないものすごくつけてしまっている気がします。

森:つけるんですよ。それなんでかっていうと、不安だとか、不安を消して安心感がほしいから、トレーニングもするしその競技の練習もするっていう。そこのバランスをとってあげるのがまわりのスタッフであり、選手とうまくやると、北京五輪の前のときのがちょっと変わってくる可能性があるんでしょうね。

小椋:一番は不安を取り除きたいために追い込んでいたりするので、違う方法で不安を取り除ければ何の問題もないんですけどね。

森:いま身体が受けている感情ストレスがどこの部位に溜まるとか、その部位と連動する所にどのような症状が出ているとか、そういう方にやっぱり世界は動かされてるんですよね。そこをケアしてあげる。それがわかれば、選手も安心すると思います。たとえばメンタル的な不安とかあれば、年代とか経験値によっても伝え方は変わりますし、やさしく言った方がいいのか強めに言った方がいいのか、情報与えた方がいいのか、気づかせた方がいいのか、それはもう関係値でやっぱり変わってくるので個人個人にあった関わり方が必要ですね。

東京五輪、いよいよ! 出場を目指す選手に伝えたいこと。

森:世界一でオリンピック金メダル90%以上取れるっていうような人は、どっちかっていうと心身の持って行き方だけでいいんですけど、そういう選手って日本でもまだ数えるくらいしかいないですよね。夏でいえば、僕が思うのは今回はもしかすると5人くらいですかね。やっぱりそうするとほとんどの選手がそれに近いために確率を上げて行かなきゃ行けないと思うんで。いまあと2年でいろんな選手がたぶん新しく出てくる選手もいるでしょうし、怪我してリタイアする選手もいるでしょうし、ヨーイドンレールがいま始まったばっかりですね。

小椋:そういうことを考えると、バドミントンは金メダルとる可能性はすごい高い気がします。心理的なことをベースに考えると他の国が不安定なので、日本は普段通りにパフォーマンスできたらまわりが崩れていくような感じがしますね。

森:追い込み過ぎずに心身のバランスとりながら体育じゃなくてスポーツを楽しむっていうとこにフォーカスすれば確率は高くなると思いますね。経験もありますしね。バドミントンも協会としても経験値もあるんで。

小椋:東京って開催国じゃないですか。そういう意味で選手にとってプレッシャーになったりすると思いますか?

森:人によってはプレッシャーになる人もいますし、人によっては応援が力になる人もいますし。その場所にその選手があってるかどうか。日の丸をつけることでパワーダウンする選手もいるんで。

小椋:パワーダウン・・・私それだったかもしれないです(笑)

森:クラブチームだと活躍するのに代表に入るとパワーダウンするっていうのは、日の丸をつけることで過剰的なパワーダウンをする、それは肉体的にも精神的にも。普通本番くらいだと、現在僕がトレーニングやサポートしている東京五輪を目指す役20名のアスリートの中から何人出てくるかわかりませんけど、出るって決まったらそういう細かいところの調整していかなきゃいけないですよね。そういう細かいところまで調整かけていく吟味というか、4年かけてなんでそこはしていかないと、あれやっとけばよかった、ていうのはもったいないですよね。

森:あと2年、東京五輪ありますけど、東京五輪を目指すアスリートに向けて何かオリンピアンの先輩として伝えたいことありますか?こういうことやっとけよ!とか(笑)

小椋:わたしは失敗してしまったので・・・心と体のバランスをとらないといけなかったというのは経験談として言えますね。体はもう無理ですよって言ってるのにもかかわらず、不安すぎてやらなきゃ、やることが正解だ、って思ってしまったんです。いいパフォーマンスができる体もいい状態に持っていくのも重要ですし、それができることが一番大事で幸せなことだと思います。それができないのは後悔につながるのでそういうことだけはしほしくないなと思います。先ほども言いましたが、あと何ヶ月で技術的なスピードや筋力あげるのは難しいと思うんです。だからこそ、まずは自分を信じてほしいな、って思います。私の場合、今の自分じゃ勝てない、って思ったところもあったので。だけど挑戦すらもしてないのに自分のことを信じてあげなかったことも後悔として残っていて。今のあるべき実力で挑戦すればよかったなと。自分と、自分がやってきたことを信じるのが一番大事なのかな、と思います。

森:オリンピアンの方って、「怖い」っていう表現する方結構いますよね。

小椋:怖いんです。オリンピックの会場で自分がコートの上にたっていいパフォーマンスをしているイメージができなかったことが怖かったんだと思います。たとえば世界選手権は大きな大会ではあるけど、ある程度、雰囲気がわかって緊張感もこれくらいかな、という想像できるんです。でも五輪は全く想像ができなかったので、未知の世界に足を踏み入れるみたいな感じの恐怖心がすごいあったのもありましたね。描けないっていう。

森:なるほどですね。だからこそ自分を信じることが大切ですよね。小椋さんは次オリンピックに関わるコーチとかで関わるビジョンとかってないんですか?

小椋:全然ないです(笑)もう無理です(笑)いまは取材や解説で色々な大会に行かせていただいています。引退後、選手ではない立場でロンドンオリンピックにもいきました。正直、北京オリンピック出場して後悔しかなかったんです。メダルも取って帰ってきてないし、応援してくださったみなさんを失望させてしまったな、という。自分がオリンピック出場したということを経歴として言えない時期もありました。北京から4年間経ってロンドンに行って、マラソンの会場に行った時に感じたのが、「うわーすごいなー。ここでオリンピック出場する選手って走るんだな。いいな!」って思ったんです。そのときに初めてオリンピックに立てることってこんな幸せなことなんだなって気づいたんです。そう思えてやっと北京から4年後に後悔の気持ちが払拭できました。その次の4年後、リオデジャネイロオリンピックは解説の立場で行かせてもらっいました。決勝終わった後、センターコートの近くまで行かせてもらったんですよ。そしたらやっぱり恐怖心が芽生えるんですよね。

森:それはそのときの、北京のときの恐怖心ですか?

小椋:違うんです。蘇ってくるとかじゃないですけど、こんな凄いところで高橋選手。松友選手は試合してたんだとか、金メダルとったんだ、と思うと、本当にすごいなって思いました。オリンピックって本当に独特な空気があるな、って。だから試合終わった後のコートのセンターコートさえも私は立てないかもしれないって思いました、、、だからコーチや監督の立場でもたぶん無理ですね(笑)

森:今度そういう気持ちが東京オリンピックの後芽生えてくるかもしれないですよ(笑)

五輪レースを勝ち抜いた後にある本戦である五輪。そこに向かう選手は心の中で様々な見えない不安と戦っている。そのためには、それまでの自分の経験と、不安を解消するために練習をやるのではなく周りも含めてしっかりとコンディショニングすること、そして自分と自分の取り組みに自信を持つこと。これらは我々が日々大きな仕事に向き合う時の姿勢も全く同じなのであろう。これから五輪を迎えるにあたり選手達が最高のパフォーマンスを発揮できるような環境をつくり、是非とも活躍する姿を見てみたいものである。