どんな顔をして引き上げてくるのだろう……と案じていたら、渡邉勇太朗(浦和学院)は意外にもさっぱりとした表情でチームバスの前に現れた。

「残念な結果だったけど……」

 そう声を掛けると「はい、さすが大学のジャパンだなと思いました」と答えて、控えめな笑顔も見せた。



ドラフト上位候補の浦和学院・渡邉勇太朗

「『自分の投球をする』というテーマでマウンドに上がりましたが、レベルの差に驚きました。高校生ならバンバン空振りが取れるストライクからボールになる変化球に手を出してくれないので、ボール先行になってしまいました。でもポジティブに考えれば、いい勉強になりました」

 淀みなく言葉が流れた。悔しさ、情けなさも少しは混じっているのだろうが、つい先ほど手痛く打ち込まれた投手とは思えない前向きなコメントだった。

 9月3日に開幕するアジア選手権を控えた高校日本代表が、8月28日に腕試しとして挑んだ大学日本代表との壮行試合。渡邉は0対3とビハインドの4回裏から2番手投手として登板した。

 多くのスカウトが固唾(かたず)を飲み、この190センチの長身右腕を見守っていた。渡邉目当てに神宮球場を訪れたスカウトもいたに違いない。

 今夏の甲子園で全国区の知名度とスカウト陣からの高い評価を獲得したのは、「金農フィーバー」の立役者である吉田輝星(こうせい/金足農)だった。その陰に隠れた感はあったものの、渡邉も甲子園で149キロをマークするなど、確実にスカウト陣からの評価を高めていた。

「マウンドでの立ち姿からして風格がある」
「南埼玉大会とはまるで別人というくらいよくなっていた」
「将来どこまで伸びるのか楽しみ」

 さまざまなスカウト評を聞いたが、なかには「今年の高校生ナンバーワン投手だよ」と断言したスカウトもいた。

 今夏の甲子園で881球を投げた吉田に無理をさせられない現状を考えれば、この高校日本代表で”渡邉株”がさらに高騰することも考えられた。

 だが、マウンドに上がって最初に投げた145キロは、国際武道大の打撃職人・勝俣翔貴(しょうき/3年)に捉えられ、レフトスタンドに消えていった。

 その後も渡邉は大学日本代表に打ち込まれた。1回1/3を投げて、被安打5、四死球2、失点3。イニング途中に交代を告げられた。たとえ格上相手の非公式戦とはいえ、渡邉が受けたダメージを心配せずにはいられない結果だった。

 ところが、試合後の渡邉には絶望感はなく、むしろ希望が広がっていた。

「試合前に大学生のバッティングを見て、『やべぇな』と思いました。いいバッターの打球って、同じような打球が飛びますよね。打球が伸びるし、打ち損じが少ないんです」

 捕手の小泉航平(大阪桐蔭)とはお互いに反省点をすり合わせながら、最後は「レベルが違いすぎるよ」と笑うしかなかったという。

「浦学から高校の日本代表に来て、みんなうまいしレベルの違いを感じました。でも、今日戦った大学生はさらにその上をいくレベルで。そのさらに上にはプロがあるんですよね」

 そして渡邉は一拍おいて、こう続けた。

「だから面白いですよ。今日は打たれたけど、楽しかったです」

 誤解のないよう補足しておくと、渡邉は現時点での自分の力が足りないことは自覚している。実力不足を受け入れた上で「楽しい」と言っているのだ。それは渡邉が目先の結果に一喜一憂するのではなく、未来の自分が持つ可能性を信じているからだろう。

 渡邉は言う。

「高校に入って、プロからも注目してもらえるようになって、自分が上のレベルでやれると信じられるようになりました。今はまだ多少のことでフォームがズレてしまうし、カバーできるだけの筋力もありません。今すぐはできなくても、強くなれば上でもやれる。自分ではそう思っています」

 ある高校日本代表首脳陣は渡邉を「気持ちが弱いのが課題」と評したが、はたしてそうだろうか。ここまでの自信家もそうはいない。だが、打たれて自信を喪失されるよりも、よっぽどたくましさを感じる。

 高校野球は「トーナメント」という結果がわかりやすく出やすい構造のため、どうしても選手も指導者も観戦者も目先の結果にとらわれがちだ。しかし、「高校生なのにこんなに完成度の高いプレーができるのか!」という驚きだけでなく、「これからどこまで伸びていくのだろう」と未来に思いを馳せることも、高校野球の醍醐味のはずだ。

 渡邉勇太朗が見据える地平には、宝石を敷き詰めたような希望が満ちている。

 いずれそう遠くない未来に、無残に打ち込まれたことが笑い話になる日がきっとくる。渡邉の目を見て、そう思わずにはいられなかった。