アジア大会でバドミントンは団体戦で女子が優勝し、男子は3位の結果を残したが、団体戦後に始まった個人戦では思いのほか…
アジア大会でバドミントンは団体戦で女子が優勝し、男子は3位の結果を残したが、団体戦後に始まった個人戦では思いのほか苦しんだ。

悔しさはありながらも、表彰台では笑顔だった(左から)松友美佐紀と髙橋礼華
優勝を期待された世界選手権金メダリストの桃田賢斗(NTT東日本)は、16強で地元インドネシアの選手に2-0でストレート負け。世界選手権銀メダルの男子ダブルスの園田啓悟/嘉村健士(トナミ運輸)も16強であっけなく敗退してしまった。男子ダブルスは2組とも16強で敗退し、男女シングルスで銅メダルを獲得したのは、西本拳太(トナミ運輸)と山口茜(再春館製薬)のふたりだけだった。
そんななか、団体戦でも鉄壁な強さを誇った女子ダブルスは、タカマツペアこと髙橋礼華/松友美佐紀組(日本ユニシス)と福島由紀/廣田彩花組(岐阜トリッキーパンダース)の2組が準決勝に進出。決勝まで残ったのは髙橋/松友組で、2位に終わった4年前の韓国・仁川大会に続いて2度目の決勝進出だった。
しかし、この4年間で日本の女子ダブルスの力関係は大きく変わっている。2016年リオ五輪で髙橋/松友組が獲得した金メダルが刺激となり、レベルが一気に上がった。その結果、髙橋/松友組が国内の若手選手に敗れることも出てきていた。
今年5月には、世界ランキングも世界選手権2年連続2位の福島/廣田組に逆転され、現時点では、福島/廣田組が1位で髙橋/松友組が2位。その2組のほかに米元小春/田中志穂組(北都銀行)が5位、松本麻佑/永原和可那組(北都銀行)が9位と日本は、女子ダブルス王国になっている。
功労者であるタカマツペアだが、5月の国別対抗のユーバー杯の決勝トーナメントでは、第1ダブルスの座を福島/廣田組に譲り、第2ダブルスの位置に甘んじていた。
続く、日本勢4ペアが出場した7月末の世界選手権でも悔しさを味わっている。3回戦で若手の松本/永原組に2-0であっさり敗れたのだ。その松本/永原組がその勢いで優勝し、2位は福島/廣田組。米元/田中組も準決勝に進出して銅メダルを獲得し、表彰台を日本勢が総なめにした。そんななかで、ふたりだけがメダルなしだったのだ。
だからこそ、このアジア大会では結果を出したいという思いがあった。団体戦で優勝を決めたあとには「世界選手権でいろんなことに気づいた部分があった。自分たちが2年後に向けて成長していくのに必要なことは、何かというのも分かったので、それを一つひとつ積み重ねていければと思っています。そのためにもまずは、明日から始まる個人戦で自分たちのプレーをしっかり出して戦えたらと思います」と話していた。
そんなふたりが第2シードで2回戦から登場すると、初戦は18分で2戦目は31分、準決勝も47分という短い時間で相手を下し、強さを見せて勝ち上がってきた。そして決勝の相手は世界ランキング3位の陳清晨/賈一凡組(中国)だった。
「昨日の(準決勝で)福島/廣田ペアが中国ぺ(陳/賈)とやっている試合を見た時に、団体戦の時とは全く違うなと思って。それですごく構えて入ったけど、相手はいつもよりアグレッシブで、ぜんぜん引かずに来たので……。特に左利きの賈(ジア)選手がすごく前に来ていたので、調子がいいんだろうなと思っていました」(髙橋)
試合は互いに細かく点を取り合う展開になった。第1ゲームで序盤に先手を取ったのは髙橋/松友組だった。17-17で並ばれたあと、3連続ポイントでゲームポイントを握り、勝負を決めたかに見えた。だが、そこから5連続失点で、20-22で第1ゲームを落とした。
第2ゲームは出だしに0-4とされたが、すぐに追いついて再び競り合う展開になると、中盤には3点をリードした。だが、そこから再び5連続ポイントを奪われて、先にマッチポイントを握られた。20-20に追いつく粘りを見せながらも、最後は連続ポイントを奪われて20-22で敗れた。
2大会連続で中国勢に敗れ、銀メダルに終わる悔しい結果。しかし、意外にも試合後のふたりの表情は穏やかだった。そして冷静に試合を分析する。
「1ゲーム目に20-17とリードした場面で、勝ちきれなかったのは悔しさを感じるところですが、4年前と違って自分たちのプレーはすごく出せたと思う。今後につながる試合だったというか、今回は団体戦を含めていいプレーの方がすごく多かったので、いい大会になったと思います」(髙橋)
「1ゲーム目は最後に逆転されてしまいましたが、多分それは相手がどんどん前に出てきたのに対して、自分たちは引いてしまった部分があったからだと思います。でも自分たちもそういう勝負をたくさんして、どんどん強くなったと思うし、久しぶりにそういういい試合ができたなと思います。これからもこういう試合をどんどんしていきたいです」(松友)
また、高橋はこの試合を笑顔でこうも振り返った。
「本当にお互いにいいプレーを出せたので、自分で言うのもあれですけど、決勝戦にふさわしい試合ができたんじゃないかなと思います。第2ゲームの18-20になった場面も、今までの自分たちだったら、そのまま終わっていたところだと思し、相手にあれだけいいプレーをされるといつもだったら押されて負けてしまうことの方が多かった。でも今回は本当に、最後まであきらめずに打ち返せたので。そこは自分たちの進歩だと思います」
団体戦の後で松友は「世界のトップ選手とやるときは本当に楽しいんです。やられてしまった時でも『そんなショットを打てるんだ』とか『どこからそんなショットがくるの?』というようなすごい刺激も感じられるので。そういうのも楽しみながら、やられたらやり返すぞという気持ちにもなれるし、それで成長できると思います」と話していた。
強い相手と互いの技術や知力を出し合って戦えば、それだけ自分たちのスキルも向上することができる。それは対戦競技の持っている特徴であり、楽しさでもある。ふたりはこの決勝でそんな醍醐味を味わう試合ができた。
「今回は悪い試合が1試合もなかったので、大会を通してすごく成長できた気がする」(髙橋)
一度は頂点に立ったふたりだが、アジア大会で強いライバルと戦い、再び成長する喜びを思い出したことで、進化する楽しみを感じられたようだ。