第12戦・イギリスGPは、決勝レースが行なわれる日曜の朝から降り続いた雨で路面状態が悪化し、走行が危険との判断から午後4時に全3クラスの中止が決定した。雨の影響で路面状態が悪化して中止となったイギリスGP(写真はホルヘ・ロレンソのドゥ…

 第12戦・イギリスGPは、決勝レースが行なわれる日曜の朝から降り続いた雨で路面状態が悪化し、走行が危険との判断から午後4時に全3クラスの中止が決定した。



雨の影響で路面状態が悪化して中止となったイギリスGP(写真はホルヘ・ロレンソのドゥカティ)

 ……と、この情報だけを読めば、レース当日のシルバーストン・サーキット近郊はよっぽど激しい豪雨に見舞われたのか、と思ってしまう人も多いだろう。だが、上記の文章を注意深くお読みいただきたいのだが、決勝中止の直接の原因は「雨」ではなく、「路面状態の悪化」によるものである。

 詳しく説明すると、昨年のイギリスGP以降に施された再舗装でシルバーストン・サーキットの路面は排水性が悪化し、特にコース上の一部区間では数センチ程度の水たまりが発生して、安全な走行が懸念される状態になった。

 雨の日に高速道路を走行したことのある人なら、水たまりにタイヤを取られて滑るような状態になり、ヒヤリとした経験が一度くらいはあるだろう。その感覚を思い出せば、時速300kmで走行するMotoGPマシンがコース上の水たまりを通過した際に生じるハイドロ(アクア)プレーニング現象の危険性は、十分に想像できるのではないだろうか。

 気象予報どおりに午前10時前から降りはじめた雨は、それ自体はけっして身の危険を感じるほどの激しさではなかったものの、一定の雨量が続くことで排水性の悪いコース上の水たまりはいつまでも掃けることがなかった。

 MotoGPクラスの決勝レース開始は当初に予定されていた11時30分から順延され、天候を睨みながら路面清掃車なども投入して開催への懸命な模索が続いたが、結局、午後4時にMotoGP、Moto2、Moto3の全クラス決勝レース開催中止が決定した。

 最初に予定されていた11時30分のスタートに向けて選手たちが11時にサイティングラップを行なった際にも、「この路面状態ではレース実施はとても無理」という声が上がっていた。だが、会場でレーススタートを待っていたファンはそこから5時間半も冷たい雨のなかで延々と待たされ続けた挙げ句、無為に家路につくことになった。

 選手たちが話すとおり、安全性に大きな懸念が生じてしまった今回の事態のような場合、レース中止自体はやむを得ない措置である。競技者の安全を優先したこの決定に対しては、恨み辛みのような悪感情を抱く人はおそらくいないだろう。

 ただし、この程度の雨にもかかわらず、レース開催を中止せざるを得なくなった路面の排水性については、劣悪な舗装状態に至った背景と原因について、しっかりとした検証と究明がなされるべきだろう。

 レースを開催できず、一戦をまるまるフイにしたという意味では、選手とチームは今回の事態の被害者だ。同時に、けっして安くはない観戦料金を支払って会場で5時間半も待たされた挙げ句、ただ雨に濡れただけで帰宅しなければならなかった大勢のファンもまた、被害者であることは間違いない。

 今回のレース中止を受けてシルバーストン・サーキットは、即座に来場者やファンに対して謝罪を表明し、チケット販売事業者等との連携を早々に開始するとSNSなどを通じて発表した。観戦券の払い戻しや何らかの損失補填などが行なわれる場合、その補償対象や賠償債務の主体等について、ひと悶着くらいはあるかもしれない。

 だが、金銭という実利的な賠償問題に発展すれば、事態の究明と今後に向けた対応対策がうやむやにならず、迅速に具体化されやすいという効果も期待できるだろう。その意味で、ひとりひとりのファンの声はたとえ小さくても、それが糾合することで今後の安全なレース開催に大きな影響を及ぼすことができる、ともいえる。泣き寝入りだけは、誰にも好結果をもたらさない。

 今回の第12戦中止により、チャンピオンシップポイントは第11戦終了時の状態で次のレースを迎えることになった。第13戦サンマリノGPは、2週間後の9月9日に決勝レースが行なわれる。