坂本竜介がT.T彩たまの監督に就任――。その知らせを耳にして “あの坂本が卓球界の表舞台に帰ってくる”。そう胸を躍らせたファンは多いはずだ。坂本が率いるT.T彩たまは吉村真晴に岸川聖也、鄭栄植(チョン・ヨンシク・韓国)に黄鎮廷(ウォン・チュ…

坂本竜介がT.T彩たまの監督に就任――。

その知らせを耳にして “あの坂本が卓球界の表舞台に帰ってくる”。そう胸を躍らせたファンは多いはずだ。坂本が率いるT.T彩たまは吉村真晴に岸川聖也、鄭栄植(チョン・ヨンシク・韓国)に黄鎮廷(ウォン・チュンティン・香港)と豪華なメンバーを擁する。

監督就任について、4月に打診され、5月に就任。そこから選手を一人ずつ「ナンパしていった」と明かす。そしてTリーグ8球団で唯一、球団経営にも関与する“執行役員監督”というポジションについた。「ビジネスはスピード」と語るその顔は起業家のそのものだ。引退してからの年月はどのようなものだったのだろうか。「イップスがあったからね。あれに比べたら怖いものなんてないよ」。そう、坂本は、いまだ挑戦の途上なのだ。

――監督の話はいつ頃からあったんですか?

坂本:今年の4月くらいですね。その時点ではアポロニア(ポルトガル)だけは確定していましたが、他は誰も決まっていなかった。これはヤバいって思って、一人ずつ“ナンパ”ですよ。

――ナンパ?

坂本:そうそう。もともと顔見知りの選手もいたけどね。でも黄鎮廷(ウォン・チュンティン)は会ったこともなかった。僕がナショナルチームを引退した頃には彼はいなかった。お互い知らない中でどうやって繋がるかって思案していたら僕も彼もタマスの契約選手だったんで、すぐにタマスの人に繋いでもらって、すぐにジャパンオープン北九州まで行ってたんです。そこで「初めまして!」。1時間半くらい話して終わった頃にはハイタッチして、大会終わったら一緒にビールを飲んで。チョンヨンシクのときも、韓国オープンに行って会う。もちろん全部英語で細かいところまでコミュニケーションをとれるようにしています。

――卓球一筋だった坂本さんは、いつ“卓球以外のこと”を身につけたんですか?

坂本:自分の中では17歳でドイツに行ったのが大きいかな。世界でいろんな選手と知り合えました。その後、2006年の時に21歳で全日本3位、その直前の2005年世界選手権から水谷(隼)と岸川(聖也)が出てきたんです。その時に「僕は25歳になったらこいつらには勝てない」ってハッキリ見えちゃった。自分が負けて、この2人が台頭する“絵”が描けちゃった。その時点で卓球選手は諦めた方がいいんじゃないかって思いました。

さらに23歳のときにはイップスになってね。30歳までは続けられないぞって思い始めた。イップスほど怖いものないですよ。あれは最悪。当たり前にできていたことができなくなる。そういう意味では今、卓球場を運営したり、T.T彩たまの監督をやったりいろんなことに挑戦していますが、イップスに比べたら怖さはないですね。

――卓球選手に限らず、アスリートのセカンドキャリアは不透明です。

坂本:そうです。20代の時に“これからどうしよう”って思って上の世代を見た時に“自分の名前と技術だけ”で成功してる人がいなかったんです。メーカーやコーチ、ショップへ就職する道はあります。(松下)浩二さんもすごいけど、起業っていうより大きな組織に入ってリーダーシップを発揮している。そうじゃなくて僕は自分ゼロからやってみたい。そう思って20歳から起業する勉強を始めたんです。

だから卓球以外の人たちとご飯食べて、情報得て、勉強する。例えば僕がよくご一緒させてもらうのがバレーボールの柳本晶一元監督。仕事でお会いした他業種、他スポーツの方は僕の方から積極的にご飯にお誘いさせて頂きますね。やっぱり外から受ける刺激の方が多いですよ。人生は勉強、年齢の上下は関係なく、いろんな人から情報を得て、参考にして新しいものをつくっていく。僕の場合はノミニケーション。酒の場でいろんな仕事をスタートさせていくことが多いです。そうやって20代の頃から卓球以外のところで必死にもがいていくうちに、卓球場を開業したり、世界卓球のフロアディレクターを任されたりするようになって、ちょっとずつ手応えを感じていきました。

――新しいことをやるとアンチも発生します。

坂本:そりゃありますよ。卓球場立ち上げる時、解説の仕事を始める時もありました。僕の選手時代から見ていた人が、「奇抜な卓球やってて、ちゃらんぽらんなのに」って。「異端児だ」とかね、でも異端児なんてめっちゃいい言葉じゃないですか。でも今はもう言われなくなっちゃった。だってカタチにして結果を出しちゃえば黙らせられるから。勝手に言わせておけばいい。批判の言葉には「ありがとうございます!」って言えばいいんです。「お前生意気だな!」「ありがとうございます!」って笑。

――最強の返し言葉ですね笑。監督になって見えてきたものとは?

坂本:選手の時は勝つことに自体に喜びを感じていました。でも今はちょっと変わりましたね。運営側の方がダイレクトに沢山の方から反応が返ってくるんです。選手1人のときよりも、今のチームの方が達成感は半端ないですね。裏方がむいてるのかもしれません。少なくとも、僕にとっては今の方が面白いのは確かです。

撮影地:upty卓球ステーション

取材・文:武田鼎/Rallys編集部