「団体を超えた世界一決定戦」として注目されるワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)シーズン2の組み合わせが決まり、バンタム級の”真の王者”誕生に向けて期待が高まっている。今年5月に3階級制覇を達成し…

「団体を超えた世界一決定戦」として注目されるワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)シーズン2の組み合わせが決まり、バンタム級の”真の王者”誕生に向けて期待が高まっている。



今年5月に3階級制覇を達成した井上

 WBA正規王座を保持する井上尚弥(大橋)は、10月7日に横浜アリーナで行なわれる第1ラウンドで、元WBA 世界バンタム級スーパー王者ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)との対戦が決定。

 その他、WBAスーパー王者ライアン・バーネット(イギリス)、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)、WBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)、元世界4階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)らが参戦する賞金争奪トーナメントは、世界中のボクシングファンを歓喜させるだろう。

 あらかじめ断っておくと、WBSSはアメリカ国内で特別に大きな注目を集めているわけではない。もともと欧州主導の大会であるため、アメリカの有力選手がほとんど参加していないからだ。それゆえ、シーズン1(クルーザー級とスーパーミドル級で実施)も今回も、米国内の有力テレビ局は中継を見送った。今回はアメリカでも9月からサービスを開始するDAZN(ダ・ゾーン)での配信が決まったが、まだ”マニアック”な盛り上がりだ。

 一部の米メディアにシーズン2の予想を尋ねても、「バンタム級は井上以外には誰が出るんだっけ?」などと聞き返されたりもしてしまう。そんななかで、今回は軽量級に造詣(ぞうけい)が深いアジア系アメリカ人の記者、関係者たちにWBSSシーズン2のバンタム級に関して意見を求めた。

「優勝予想をするならば、井上の名前をもちろん真っ先に挙げる。この世代にひとりの才能が日本から生まれた。アメリカでは注目度が高いとはいえない軽量級の選手ながら、リスペクトされ始めている。疑いもなく彼が本命だ。第1ラウンドで対戦するパヤノは、前戦では無名のフィリピン人選手に苦戦しているから、井上だったら前半で倒すだろう」
(『リング』ライアン・サンガリア記者/フィリピン系アメリカ人)

「優勝候補筆頭には井上が推されてしかるべきだ。(今年5月に対戦した)ジェイミー・マクドネル(イギリス)は減量苦で疲弊した状態だったのかもしれない。たとえそうだとしても、粘り強さに定評があり、試合当日はウェルター級くらいの体格だったマクドネルに圧勝したことは見過ごされるべきではない。

 井上が喧伝(けんでん)されてきたとおりの実力者であれば、今大会でも圧倒的な強さで勝ち進んでしまうだろう。とくに井上の左ボディパンチは現代のボクシング界でも最高級の武器。他の選手たちにそれに対抗するスキルがあるとは考え難い」(『ハニバル・ボクシング』ショーン・ナム記者/韓国系アメリカ人)

「井上が本命だ。彼のパワーは凄まじく、近況がいいのも魅力だ。彼に関しては常に強豪と戦うのを拒まない姿勢も素晴らしい。最近のボクシング界ではめったに試合をしない選手のほうが妙に注目を集めたりもするが、井上はそんなファイターではなく、誰に対しても準備はできているはずだ」(試合のマネジメントを行なう「スプリット-Tマネージメント」のマネージャー:ジョー・キンバオ氏/フィリピン系アメリカ人)

 3人のパネリストはそれぞれ当然のように井上を優勝候補のトップに挙げた。サンガリア記者が述べているとおり、アメリカでの軽量級への関心は大きいとはいえないが、日本の”モンスター”がWBSSに出場することはやはり認識されている。

 端的に言って、バンタム級のトーナメントが盛り上がるかどうかは井上次第だ。ある大会関係者は、「井上に派手に勝ち進んでもらわなければ始まらないよ」と漏らしていた。『リング』誌のパウンド・フォー・パウンド(階級・体重を一定にしたら、誰が一番強いか)でも井上は現在6位だが、WBSSで勝ち進めば世界トップ5入りも有望。今大会はハイレベルなメンバーが揃っているが、さまざまな意味で井上が主役であることは明白だ。

 続いて、対抗馬やダークホースを尋ねると、3人は揃って同じ名前を挙げた。5月に18戦全勝(12KO)のまま世界タイトルを獲得した”プエルトリコの俊才”ロドリゲスだ。すでにWBA、IBFを統一した経験のあるバーネット、昨年11月の防衛戦で11秒KO勝ちを収めたテテに実績では劣るとしても、ロドリゲスにミステリアスな魅力があるのは事実である。

「バーネット、テテが2番手とみなされるが、プエルトリコで期待を集めるロドリゲスがワイルドカード的な存在として上がってきても驚かない」(ナム記者)

「対抗馬を挙げるとすればロドリゲスではないだろうか。パワーとスキルを兼ね備え、バランスの取れた優れたボクサーだ。井上との対戦がハイレベルな試合になることは確実。順調にいけば、その準決勝が最大の見どころになる」(キンバオ氏)

「テテは誰にとっても戦いづらいスタイルを持っている。2、3階級上じゃないかと思うほど長身のサウスポーで、パンチ力もある。ただ、井上はバンタム級に転向した後の初戦で同じく体格に恵まれたマクドネルを粉砕しているから、テテ戦でもやはり井上が有利だ。ダークホースを選ぶなら、まだ未知数の部分はあるが、ロドリゲスが面白いと思う」(サンガリア記者)

 25歳の井上、26歳のロドリゲスはともに今が旬の選手たちだ。スタイリッシュなロドリゲスは井上とも噛み合いそうで、キンバオ氏の言葉どおり、順当ならばこの2人が激突するセミファイナルが大一番になるかもしれない。

 現在、準決勝はアメリカで開催されるとも伝えられている。それが実現すれば、昨年9月にアメリカで1戦をこなしたとはいえ、ワールドレベルでは依然として”試されている”立場の井上が、本場のファンに真の意味でお披露目される舞台になるかもしれない。

 最後に、日本でも知名度の高い元4階級制覇王者ドネアにも触れておきたい。7、8年前に猛威を振るったバンタム級に久々に帰還するフィリピンの英雄は、まだ力を残しているのか。スーパーバンタム、フェザー級で戦った過去3戦では1勝2敗なだけに、35歳の”老雄”に大きな期待はできないように思えるが……。

「ドネアはスーパーバンタム級でも減量に苦しんでいたくらいだから、バンタム級で戦える体を作れるのかどうかはわからない。ただ、自身の身体については彼が一番よく知っているはずだ。

 もう7、8年前の話だが、バンタム級時代のドネアはウラジミール・シドレンコ(ウクライナ)、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)といった強豪に圧勝している。1回戦で対戦するバーネットは脅威を感じるほどパワーがある選手ではないだけに、チャンスはあるかもしれない」(サンガリア記者)

 あくまで「コンディションを整えてきた場合」という条件つきながら、ドネアのキャリアを追いかけてきたサンガリア記者は、第1シードのバーネット相手でも番狂わせのチャンスはあると見ているようだ。

 バーネットに勝ったとしても、準決勝でより評価の高いテテと対戦すれば絶対不利は確実。日本でも一部のファンが歓喜するであろう井上vs.ドネアの”新旧スター対決”の実現の可能性は低そうだ。ただ、たとえそうだとしても、長くファンを楽しませてきたヒーローの最後になるかもしれない挑戦を、楽しみに見守っていきたい。