アジア大会のフェンシングは、男子エペ団体金メダル獲得の勢いを、翌日の女子フルーレ団体も受け継いだ。 今回の団体戦の…

 アジア大会のフェンシングは、男子エペ団体金メダル獲得の勢いを、翌日の女子フルーレ団体も受け継いだ。

 今回の団体戦のシードは、先に行なわれた個人戦の成績で決まるシステム。東晟良(せら/日体大1年)が3位、宮脇花綸(慶大4年)が6位だった日本は第1シードに入り、初戦はベスト16から勝ち上がってきたレバノンとの対戦になった。



フェンシング女子フルーレ団体で優勝した(左から)東晟良、辻すみれ、菊池小巻、宮脇花綸

 結果は圧勝。日本は準決勝進出を果たして、銅メダル以上を確定させ、準決勝の相手は韓国に決まった。韓国は98年大会からアジア大会5連覇中で、日本は6月のアジア選手権決勝でも対戦しており、44-45で敗れている強敵だ。

 その韓国戦、日本は上々の滑り出しとなった。一番手の宮脇が個人戦で優勝したチョン・ヒスクを相手に4-0とリードし、次の東もホン・ソインに得点を許さず10-0に。さらに、3番手の辻すみれ(朝日大1年)は、北京五輪銀メダリストのナム・ヒョンヒを相手に15-1にして大量リードを奪った。

 その後は互いに点を取り合い、第8ラウンドの宮脇がナムに13点を奪われて8点差まで詰められたものの、39-31でしのぐ。最後は、東が個人戦で敗れたチョンに5点取られながらも、堅実な戦いを貫いて45-36。目標だった”打倒・韓国”を果たして、決勝進出を決めた。

 昨年1月から女子フルーレを指導するフランス人、フランク・ボアダンコーチが、就任して最初に選手たちに言った言葉がある。

「ファイティングスピリットがない! 君たちは、技術はあるが、勝ちたいという闘争心が少ないから、他の国の選手たちからはスイートだと思われている」

 選手たちはその言葉をしっかり胸に刻んでトレーニングを重ねてきた。

「まずはそこから改善していこうと、1年間取り組んできました。今は世界中のトップ選手も『日本は自分たちにとって危ない国になっているぞ』と感じていると思うので、そこが、この1年間ですごく変わったところだと思います。それに試合や練習で、たとえば接近戦になっても、みんな必死に突こうとしている。

 以前はだらだらと時間を過ごしてしまう試合が多かったんですが、そういうことがなくなって、どんどん仕掛けていくようになっている。それは今回代表になった4人だけではなく、日本の女子フルーレの全員を見てそう思います」(宮脇)

 宮脇は、最大のライバルを倒した試合をこう振り返る。

「本当に何年も何十年も……、私がチームに入ってからも勝ったことがなかったので、本当に大きな1勝だと思うし、最後まで勝ち切ることが大事なんだと思いました。ナム選手との戦いでは追い上げられてしまいましたが、他のふたりも焦らずに試合を運んでくれたし、コーチもしっかりアドバイスをくれて、『大丈夫だ』という気持ちで最後まで戦えました」

また東も「個人戦では負けていたチョン選手とは6-5だったので、団体戦でリベンジできてよかった。彼女はこれで引退するそうなので、勝ち逃げできました」と笑顔を見せる。

 決勝で金メダルを争う相手は中国。今年6月のアジア選手権準決勝では43-42で勝利しており、7月の世界選手権の準々決勝でも45-31で勝っている。ただし、「中国は貪欲に勝ちにくるチーム。しっかりビデオを撮って研究してくるので、前にやられたことのない選手にやられてしまったり、想定外のこともある」と宮脇が言うように、油断できない難敵だ。

 気持ちを引き締めて臨んだ1番手の宮脇は、3分間をフルに使う落ち着いた戦いで4-1とリードし、いい流れを作る。しかし、2番手の東は個人戦で圧勝していた相手に5連続得点を奪われて6-6と並ばれると、その後日本は流れを掴めず、宮脇も6点を奪われて10-13と逆転されてしまう。

 中国のしぶとさを見せつけられて勝ちきれないなか、チームを支えたのが、今回スタメンに抜擢された辻だった。

「『自分が勝ちにして回すぞ』とずっと思っていました。うまくいかなくても我慢をして無駄な失点を避け、ちょっとでも差を詰めて回そうと思っていた」

 その言葉どおり、辻は持ち味であるディフェンス力を存分に発揮して1回目は3-1、2回目には4-2と、いぶし銀の粘り強い勝負をした。そして、3回目の登場となった第7ラウンドでは、負けていた状態を28-27に勝ち越しにした。続く宮脇は、直前の失敗を挽回するように時間を使ってじっくり戦い、31-29にして最後の東に引き継いだ。

 最終ラウンドの残り6秒。34点目を取って日本がリード。これで勝負は決したと思われたが、中国はここでもしぶとさを発揮して、2秒後には同点に。結局そのまま時間切れとなり、1分間の1本勝負になったが、ここで勝ち切ったのは日本だった。

 一本勝負の残り23秒、東がポイントを奪って決着をつけた瞬間、宮脇はピストを駆け上がって東に抱きついていた。女子フルーレ団体がアジア大会初優勝を飾ったこの勝利について、宮脇はこう話す。

「山は韓国戦かなと思ったけど、やっぱり中国は勝ちに貪欲でした。途中でマイナスになったけど食らいついて、粘ってもぎ取った優勝だったと思います」

 東は「6月のアジア選手権の決勝も一本勝負だったけど、韓国に負けてしまっていたので、今回こそ勝ちたいなと思って。『突くぞ!』ということで頭の中はいっぱいでした」と振り返る。

 試合が終わった瞬間、ボアダンコーチからは「君たちは新しい歴史の1ページ目を作ったんだ」と言われたという。

「最初の一歩を踏み出せたと実感しました。五輪のメダル獲得は、これまでの日本女子フルーレでは誰もやったことがないから、そういう歴史を作っていけるチームになっていると感じました」と宮脇は明るい笑みを浮かべた。

 今回の団体戦は、大きな大会でのスタメンが一度もなかった辻が抜擢され、その力を存分に発揮した。代わりに、6月のアジア選手権個人で優勝した菊池小巻(専修大4年)が準々決勝の第9ラウンドに出ただけで、あとは控えに回った。それだけチーム内の競争が激しくなっている。

 18歳ふたりと21歳ふたりのチームで成し遂げた今回のアジア大会初優勝は、来年から始まる東京五輪出場権獲得レースへ向けて、大きな自信になるはずだ。

 東京五輪の開催国枠8はすでに決まっているが、重点強化種目となっている男女フルーレと男子エペ、女子サーブルは、団体戦の出場権を自力で勝ち取って出場種目をさらに増やすことが期待されている。

 五輪の団体戦出場権を取るためには、2019年春の時点での1年間のポイントの世界ランキングで4位以内に入るか、5位以下の場合はアジア最上位でなければならない。現在の団体の世界ランキングは、韓国が5位で日本は7位、中国は9位。目標は4位以内に入ることだ。仮に5位以下でも、韓国よりも上位にランクインすることが重要になる。アジア大会初優勝は、その目標実現への大きな一歩になったといえる。