【短期連載】松田丈志が解説!「パンパシ」・「アジア大会」(4) 

 アジア大会競泳4日目が終了。

 日本は4日目終了時点で14個の金メダルを獲得。

 前回の仁川アジア大会が金メダル12個だったから、競技2日を残して前回の金メダル数を上回ったことになる。日本競泳陣は確実に強くなっている。

 毎回アジア大会は中国との金メダル争いに注目が集まり、選手やコーチ陣もそこを一つの目安としている。中国も4日目終了時点で14個の金メダルを獲得しており、メダル数は現在並んでいる。実際私が選手の時も、中国との金メダル争いは代表チームの中で1つの指標だった。

 私は8年前の杭州アジア大会で、200mバタフライで金メダルを獲ることが出来たが、レースでは中国という明確なライバルがいて、負けられないという状況のなか、金メダルを獲るということは、選手には相当大きなプレッシャーで、それが達成できれば五輪に向けても大きな自信になる。

 4年にたった1度しかないオリンピック選考会と、オリンピック本番に調子を合わせ、ベストパフォーマンスを出すことが求められている今の競泳代表には、「プレッシャーのかかる中で勝ちを求められる」のもいいシミュレーションだ。

 今大会私が注目しているのは、リレー種目の日本の健闘だ。



混合の4×100mメドレーリレーで銀を獲得した入江陵介、小関也朱篤、池江璃花子、青木智美

 リレーは、以前から行われていた、男女の4×100m、4×200mフリーリレーと4×100mメドレーリレーに加え、2020年東京五輪から正式採用種目となった、混合4×100mメドレーリレーの7種目がある。

 混合4×100mメドレーリレーは通常のメドレーリレーと同じで、背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形の4種目を男女2名ずつで泳ぐ。男女がどの種目を泳ぐかはチームの戦術だ。

 日本代表の奥野景介コーチは大会前、「リレー7つ全部金メダル取りたい」と語ってくれた。実際今日までで5つのリレーを終えて、結果は金3つに銀2つだ。銀のレースはいずれも中国に敗れている。

 初日の女子4×100mリレーは24年振りに中国を破り、金メダルを獲った。このレースはまさに日本チームに勢いをつけてくれた。

 決勝のリレーオーダーでは背泳ぎ専門の酒井夏海を起用するというサプライズもあったが、奥野コーチに聞けば、酒井はジャパンオープン(6月)で100m自由形を55秒10で泳いでおり、メンバーの候補リストには上がっていたそうだ。

 当日の午前中に行われた予選では、フリーリレーのメンバーで選出されている、山本茉由佳と白井璃緒を起用し、タイム及び調子を確認。コーチミーティングで酒井の起用を決めたという。

 この起用が見事的中し、酒井は背泳ぎ専門ながら2泳で54秒81の好タイムで泳ぎ、日本チームの金メダルに貢献した。この金メダルはチームワークの賜物だ。

 3泳の青木智美は、先日のパンパシのメドレーリレーで53秒51という自身では最速のタイムで泳いでいる。それまではなかなか53秒台で泳げなかったが、パンパシでメダル獲得のプレッシャーのかかる中でアンカーを務め、53秒台に突入した。

 ただ一度53秒台が出たから毎回それが出るかというと、そう簡単ではない。連戦の疲れもあるし、ちょっとしたコンディション、レースのシチュエーションの違いでリレーはタイムが変わる。そんな青木は54秒21というタイムでまとめる。

 このレースではアンカーを務めた五十嵐が53秒9という自身初の53秒台での泳ぎを見せてくれた。このように4人全てがベストの状態で挑めるとは限らないのだから、リレーでは「自分が少しでも記録をあげる」という気持ちが必要だし、まさに4人で助け合って泳いでいる。

 男子のフリーリレーは2つとも金メダルを獲得した。



4×100mリレーで金メダルを獲得した塩浦慎理、松本克央、中村 克、溝畑樹蘭(左から)。

 これは松元克央の成長が大きな原動力となっている。

 4×100では2泳で47秒65。4×200ではアンカーで1分44秒 85のタイムを出し、中国のアンカー孫楊の追い上げを0秒28差で振り切った。松元は身長186cmと大柄で、泳ぎもダイナミックだが、まだ荒削りなところもあり、まだまだ伸びしろを感じる選手だ。100も200も高いレベルで泳げる松元の存在は日本のリレー種目に非常に心強い。

 更に4×100ではアンカー溝畑樹蘭も48秒10という素晴らしいタイムで泳いでくれた。溝畑は今年初代表でまだ大学2年生だ。また心強い新人が現れた。

 4×200では本来メンバーに入っていなかった萩野公介を起用した事も金メダルに繋がった。

 4×100では中村克や塩浦慎理。4×200では江原騎士や萩野などの実力者が今回ベストの泳ぎではなかったことを考えると、今後4人全員がベストの状況を作れれば、東京五輪でのメダル獲得も現実味を帯びてくるだろう。

 今回のリレー種目に関しては選手起用の采配も素晴らしかった。

 コーチングスタッフは過去のレースデータや選手の調子を考慮しながら、酒井や萩野の起用など、積極的な策をとった。これらの判断をチーム全体で納得感を持ってやっていくこともチーム運営としては非常に重要だ。

 リレーオーダーの決め方にはそのチームによって様々な考え方はあるだろうが、今の競泳日本代表のコーチングスタッフには大学水泳部の監督、コーチも含まれており、日本学生選手権などでの大学チームでのチーム采配の経験も大いに役立っていると思う。

 日本代表チームと大学チームでは当然競技レベルは違うが、今いるチームの選手のパフォーマンスを最大に引き出すために、ベストな布陣でオーダーを決めていく判断の仕方は同じだからだ。

 一方、中国に敗れた2レースはそれぞれ課題の見えるレースでもあった。女子の4×200フリーリレーでは、今後200m自由形の選手層を厚くして行く必要性を感じた。

 パンパシからの連戦。さらに3泳の大橋悠依は直前に400m個人メドレーを泳いでおり、流石に疲れが見え、タイムを3秒近く落としてしまった。勝った中国は200mを1分56秒〜57秒で泳ぐ選手がゴロゴロいて、予選から全選手入れ替えることもできるし、大橋のようにレースが重なった選手の負担を減らす為に選手を入れ替える選択もできるだろう。

 今後200m自由形を強化していく為には、今まさに日本が世界から遅れをとっている長距離種目の強化が必須だと感じた。今回勝った中国の4選手のうち前半の3人は400m、800m、1500mを泳ぐ長距離選手だった。

 世界ではケイティー・レデッキー選手が良い例だ。彼女は長距離選手だが、豊富なスタミナを武器に200m自由形でも世界トップクラスで活躍している。今後自由形長距離を強化していくことによって、リレーの選手層の厚みが出ていくことだろう。

 今大会の中長距離の代表である、小堀倭加はパワーをつけていけば200m自由形のレベルも上がってくると思う、200m種目もこなせる中長距離選手の登場に期待したい。

 混合メドレーは勝てると思っていた種目だったが、僅かに届かなかった。直前に100m平泳ぎで金メダルを獲得していた小関也朱篤が、リレーでは疲れが見え個人種目よりもタイムを落としてしまう。この新種目の登場で、出場する選手の負担は増える訳だから、よりタフにレースをこなせるようになっていく必要性も上がった。

 残されたリレーはあと2つ。男女のメドレーリレーだ。

 パンパシの4日間にアジア大会の6日間を足して、10日間の大会と捉えたトビウオジャパン。その戦いもあと2日。疲労はすでにピークを迎えているだろう。選手たちの踏ん張りに期待したい。