8月18日に行なわれたカーディフvs.ニューカッスル・ユナイテッドのプレミアリーグ第2節。後半アディショナルタイムに、この試合一番の見せ場が訪れた。 ニューカッスル自陣からのフリーキック。セントラルMFのジョンジョ・シェルビーが長いボ…
8月18日に行なわれたカーディフvs.ニューカッスル・ユナイテッドのプレミアリーグ第2節。後半アディショナルタイムに、この試合一番の見せ場が訪れた。
ニューカッスル自陣からのフリーキック。セントラルMFのジョンジョ・シェルビーが長いボールを蹴ると、一度は相手選手にクリアされたものの、ボールは武藤嘉紀のもとへ。武藤は左サイドをドリブルで仕掛け、左足でクロスボールを上げた。
カーディフ戦でヒーローになる絶好のチャンスだったのだが......
すると、ペナルティエリア内で相手DFが手を伸ばし、ボールをブロックした。武藤は「ペナルティエリアの外だと思っていたので、最初はPKだと思わなかった」と半信半疑だったという。
しかしPKの判定が下ると、武藤は思わず右手でガッツポーズ。試合終了間際のPK献上に、カーディフのニール・ウォーノック監督は下を向いてしまった。
事前に第4審判が示していたアディショナルタイムは「6分」で、PK獲得のシーンは94分51秒で起きた。残り時間は1分9秒。しかも、ニューカッスルは66分に退場者を出しており、残りの約25分間は10人での戦いを強いられていた。ニューカッスルにとって、まさかの展開で勝ち点3が転がり込みそうになった。
武藤がPKを蹴ってもいいように思えたが、ボールを取ったのはブラジル出身のMFケネディ。しかし、ケネディの放ったPKはゴールの正面で、プレミアリーグでは珍しいアジア出身のフィリピン代表GKニール・エザリッジにブロックされてしまう。ニューカッスルのサポーターが一斉に頭を抱えたように、チームは千載一遇のチャンスを逃した。
そして、PK失敗の10秒後、試合終了のホイッスルが鳴り響く。0-0のスコアレスドローで終わった瞬間、武藤もガクッと崩れ落ちて、地面に寝転んだ。
「(記者:PKを自ら獲得したが……)それが勝ち点につながらなかった。自分で蹴れればベストだったけど……。(記者:PKを自分で蹴ってもよかったのでは?)最初は見定めなくてはならない。あそこでチームの和を乱すわけにはいかない。次からは蹴れたらいいなと思う。
チームのPKキッカー? だいたい決まっているらしい。今日はPK獲得がいきなりすぎて、考えていなかった。そうしたら、ケネディがボールを持っていて、『ここから自分が蹴るというのは難しい』と思ってしまった。たしかに、もったいなかった」
周りに気配りができ、チームメイトを思いやる気持ちがあるのは、試合終了後の武藤の行動にも表れていた。ピッチに崩れ落ちていた武藤だが、すぐに立ち上がってPKを失敗したケネディのもとに。22歳のブラジル人の頭をなでると、気落ちした様子ながらもチームメイトと試合後の抱擁を交わしていった。
この試合を振り返ってみると、ニューカッスル、そして武藤にとっても、カーディフ戦は極めて難しい展開だった。
武藤が投入されたのは、0-0で迎えた65分。試合前には地元紙『イブニング・クロニクル』が「昇格組カーディフは来季プレミア降格の最有力候補。この試合はマストウィンゲーム」と報じていたように、勝利がどうしてもほしい一戦だった。その大事な試合でFWの1番手として投入されたあたりに、ラファエル・ベニテス監督の武藤への期待が見てとれた。
しかし、武藤の投入から約1分後に、ニューカッスルは大きな打撃を受けてしまう。
武藤がポストプレーから味方につなげようとするも、パスが短くなってしまった。このボールを拾おうと、右サイドバックに入ったアイザック・ヘイデンが相手の後方部から激しくタックル。一発退場を命じられた。
その場面について武藤は、「あそこは絶対にボールを収めて、簡単につながらなければいけない。しかし、不運にもレッドカードにつながってしまった。ああいうところは、途中から入ってきた身としては、しっかり収めて時間を作ってあげないと」と反省しきりだった。
ニューカッスルは、この退場劇を機に4-4-1-1から3-5-1にシステムを変更する。投入時は4-4-1-1のトップ下に入った武藤も、3人で編成する中央MFの左サイドにまわった。
ただし、武藤が中盤で引いて守る場面は少なかった。「ボランチの左になってしまったが、ほかの選手から自分に『前へ行ってほしい』と。『前へ行け、前へ行け』と言われて、(中盤は)ボランチふたりに任せて前にいく形になった」と武藤が振り返るように、前線に残ってボールを受けるタスクを託された。ひとり少ない状況ながら、チームとして勝利を積極的に目指した格好だ。
それでもニューカッスルは劣勢にまわり、昇格組カーディフのフィジカルプレーとロングボール攻撃に苦しんだ。カーディフは球際で激しくボールに寄せ、後方部でボールを持てば190cm・96kgの巨漢FWケネト・ゾホレにロングボールを迷わず放り込む。典型的なイングランドのキック&ラッシュの戦術に、ニューカッスルは押し込まれていった。
そして武藤も、なかなか前を向いてボールを持てない。最前線に残るFWホセルにロングボールやスローインが入ると、武藤はしきりに相手DFラインの背後に抜ける動きを見せたが、それもチャンスにつながらない。90+4分には右サイドのタッチライン際から抜けようとするも、今度は190cmのDFスレイマン・バンバに体当たりされ、ラインを飛び出して広告ボードと接触した。
「びっくりした。あれだけFWに全部蹴ってくるチームを初めて見た。ブンデスリーガでもあそこまではないので。よりパワフルだった」と、シンプルながらパワフルなカーディフの戦術に武藤も驚いた様子だった。
それだけに、90+5分のPK獲得は貴重だった。
武藤が獲得したPKをケネディが決めていれば、ニューカッスルにとって今季初勝利。そして、日本代表FWも勝利の立役者として称賛されていたに違いない。試合後に武藤は、「評価にはつながると思う。これで勝っていたら、自分は点を獲っていないけど、ヒーローになれたと思うので」と唇を噛んだ。
次節は8月26日、ホームで行なわれる強豪チェルシーとの一戦だ。ここでチームを勝利に導くプレーを示せるか。「FWというのは得点で判断されるので、そこはもっと貪欲にいかなくてはいけない」 と武藤も力を込めていた。