日大三に競り勝った金足農、吉田は9回にトップギアにシフトチェンジ 大会初日以来、ホームランが記録されなかった大会第15日目。この日は三塁打も0で、2試合で放たれた37安打のうち二塁打も4本(各チーム1本ずつ)と長打の出ない緊迫の投手戦が繰り…

日大三に競り勝った金足農、吉田は9回にトップギアにシフトチェンジ

 大会初日以来、ホームランが記録されなかった大会第15日目。この日は三塁打も0で、2試合で放たれた37安打のうち二塁打も4本(各チーム1本ずつ)と長打の出ない緊迫の投手戦が繰り広げられました。準決勝のマウンドという大舞台に立った投手の力が遺憾無く発揮された2試合をデータで振り返ってみましょう。

◇金足農業 2-1 日大三

◯攻撃指標(カッコ内は準々決勝までの平均)
OPS 出塁率+長打率
wOBA 1打席あたりにどれだけチームの得点に貢献したかを表す指標
P/PA 1打席あたりの被投球数
O-swing% ボールゾーンのスイング率
Z-swing% ストライクゾーンのスイング率
Z-contact% ストライクゾーンのコンタクト率

【金足農】
打率 .333(.303)  
OPS .811(.854)
wOBA .369(. 394)
P/PA 4.04(3.77)
O-swing% 25.0%(26.5%)
Z-swing% 57.7%(64.4%)
Z-contact% 95.6%(87.6%)

【日大三】
打率 .250(.326)
OPS .548(.950)
wOBA .275(.441)
P/PA 3.62(3.84)
O-swing% 21.4%(18.2%)
Z-swing% 57.7%(60.5%)
Z-contact% 95.6%(91.2%)  

◯金足農・吉田輝星投手の各指標
WHIP 1イニングあたりで安打、四球でどれだけ走者を出したかの指標
Zone%(ストライクゾーンに球が投じられた割合)

打者37 投球数134 WHIP 1.11   
ストレート平均球速140.5キロ 最高148キロ
Zone% 58.2% 空振り奪取率 6.7% 見逃され率 24.6%

 10安打と9安打と安打数だけ見れば互角に見えますが、

出塁率 金足農.444 日大三.270
OPS  金足農.811 日大三.548

 と出塁率、OPSでは大きな差が表れています。四死球数「6対1」がその差として表れ、どんな形であれ出塁してチャンスを作れば得点に結びつけられること示しています。

 この日の吉田投手の空振り率は6.7%といつもに比べて少ない数値となっています。ノビのあるストレートやキレのあるスライダーでの奪三振を狙っているわけでないようです。Zone%が60%近くといつもより多いことからわかるように丁寧にストライクゾーンを狙っていたことが伺えます。

 また、この試合でもストレートの割合は2死から増えており、ランナーを背負った状態であと1人抑えればイニングが終わるという状況ではギアチェンジを行い、打者を打ち取るといったパターンで日大三高打線を抑えました。最終回では22球中13球(約59%)がストレート、しかもその日の最速148キロをマークし、トップギアにシフトチェンジしている様子が伺えます。ただ、この球を日大三・飯村選手に不運な投前内野安打とされると、少しギアをローに落とし、最後はまた丁寧にゾーンを狙うピッチングで後続を打ち取り、秋田県勢103年ぶりの決勝進出に大きく貢献しました。

大阪桐蔭打線はストライクゾーンのコンタクト率94.6%

◇大阪桐蔭 5-2 済美

◯攻撃指標(カッコ内は3回戦までの平均)

【大阪桐蔭】
打率 .333(.310)  
OPS .753(.936)
wOBA .368(.419)
P/PA 3.58(3.69)
O-swing% 18.3%(18.7%)
Z-swing% 56.9%(61.6%)
Z-contact% 94.6%(85.0%)

【済美】
打率 .212(.287)
OPS .520(.751)
wOBA .272(.356)
P/PA 4.19(3.76)
O-swing% 26.9%(28.7%)
Z-swing% 70.1%(65.0%)
Z-contact% 75.9%(90.9%)  

◯大阪桐蔭・柿木蓮投手の各指標
打者37 投球数155 WHIP 1.11   
ストレート平均球速140.3キロ 最高147キロ
Zone% 47.1% 空振り奪取率14.8% 見逃され率14.8%

 11安打の大阪桐蔭ですが、長打は二塁打1本のみといういつもの長打で畳み掛ける打線とは違う様相を呈していました。

 P/PAなどの各打撃指標を見ると、狙い球を絞って積極的にバットを振って確実に当てていく大阪桐蔭に対し、球数は投げさせてはいるものの、追い込まれてからのバッティングに結果が出ない済美という構図が見えてきます。大阪桐蔭のZ-contact%は94.6%とかなりの高確率で、バットコントロールできていることを表していますが、斉美のZ-contact%は75.9%。つまりストライクゾーンにきた球を振りにいっても4分の1は空振りをしている状態です。

 1回戦以来の完投で、チームを勝利に導いた柿木投手ですが、この試合では

ストレートにおける球速145キロ以上の割合 15.6%
ストレートでの空振り率 13.3%
スライダーでの空振り率 18.4%
フォークでの空振り率 14.3%

 と直球のノビ、変化球のキレともに申し分のない数値を残しています。
 
 ちなみに第1試合での金足農業・吉田投手の145キロ割合は10.5%、空振り率も10%以下といつもより低い数値となっています。これは全試合完投による疲労と見るべきか、決勝への温存と見るべきでしょうか。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
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