「連覇するだけの戦力は整った。しかし難しいことは、優勝することじゃなくて、もう一度、優勝するということにある」 連覇が期待されるバルセロナだが、指揮官であるエルネスト・バルベルデは、シーズン開幕前に、マネジメントの難しさについてこう語っ…

「連覇するだけの戦力は整った。しかし難しいことは、優勝することじゃなくて、もう一度、優勝するということにある」

 連覇が期待されるバルセロナだが、指揮官であるエルネスト・バルベルデは、シーズン開幕前に、マネジメントの難しさについてこう語っている。

 王者に対しては、相手も研究し尽くして挑んでくる。また、王者は勝ってきた形に固執するものだが、たとえばアンドレス・イニエスタが抜けた穴は大きく、現状維持では戦力ダウンは避けられない。リノベーションが欠かせないが、一方でベースの強さは明らかで、それを壊すのも得策ではない。

 カンプノウでの開幕戦は、連覇に向けた試金石になるはずだった。



開幕戦のアラベス戦で2ゴールをあげたリオネル・メッシ(バルセロナ)

 そのアラベス戦、バルベルデ監督は石橋を叩いて渡っている。「生真面目」と言われる人柄の指揮官ならでは、だろう。ブラジル代表MFアルトゥール、ブラジル人FWマルコム、チリ代表MFアルトゥーロ・ビダル、フランス代表DFクレマン・ラングレ、スペイン代表FWムニル・エル・ハッダディなど錚々たる選手を補強したにもかかわらず、先発メンバーに新戦力をひとりも入れなかった。

 布陣は変則的な4-3-3といえるだろうか。中盤はアンカーのセルヒオ・ブスケッツを中心に、右にセルジ・ロベルト、左にイヴァン・ラキティッチが入り、むしろクラシックなバルサのスタイルに回帰した。もっとも、前線はトップにルイス・スアレス、左にウスマン・デンベレが入ったが、リオネル・メッシは自由で、右FWというよりはトップ下に近い位置を取った。

 メッシの天才性を生かす、そういうコンセプトの布陣だ。

「メッシを見れば、バルサがうまくいっているか、瞭然とする」

 かつてジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)はそう説明していたが、この日は「メッシ劇場」となった。

 前半、メッシはラキティッチのサイドチェンジを呼び込み、決定機を作っている。それを皮切りに、ボールが集まった。いい角度、タイミングでボールが入ると、メッシの”魔法”でチャンスが広がる。デンベレへのラストパスは圧巻だったし、ブスケッツのインターセプトからシュートに持ち込む動きは鋭かった。そのコンビネーションに、バルサイズムのうねりを感じさせた。

 後半になって、そのリズムはさらに上がる。バルセロナは右サイドバックのネルソン・セメドが相手のコンビネーションに戸惑い、守備で裏を取られる形が多かった。そこで、右MFのセルジ・ロベルトを下げ、左MFにフィリペ・コウチーニョを投入、ラキティッチを右MFに移したことで、右からの攻撃が活性化した。

 これでメッシが手のつけられない存在になった。後半17分、メッシは人馬一体の如く、完全に手なずけたボールと一緒に切り込み、ゴール正面でファウルを誘い、FKを得る。そしてジャンプした壁の下を狙い、ネットを揺らした。

「(1点目に関して)正直、レオ(メッシ)があそこに打ち込むとは予想できなかった。選択肢がたくさんあるんだ。我々にとっては、これ以上ないスペクタクルな選手だよ」

 そう感嘆するブスケッツの言葉に、メッシの本質が見える。それだけ異次元な選手なのだ。

 では、イニエスタの抜けた穴はどうだったのか。

 イニエスタのポジションは、前半はラキティッチ、後半はコウチーニョ、そして交代で出場したアルトゥールが担っている。

 ラキティッチはロシアW杯準優勝で自信を得たのか、効果的にパスを散らし、試合を通じて高いレベルを誇った。一方でコウチーニョはボールを持ちすぎ、いたずらに流れを悪くしていた。しかし本来の左FWとしては、フィニッシャーとしての力量を見せ、2点目を叩き込んでいる。8番を受け継いだアルトゥールは15分程度の出場時間だったが、心地よいリズムを作った。現時点では、彼がイニエスタの後継者にふさわしい。

 ただ、グアルディオラが「プレースタイルは受け継ぐべきだが、過去の選手と同じでは通用しない」と語っているように、アルトゥールはイニエスタのプラスアルファを見せられるかが問われる。コピーでは意味がない。それはこの日、ベンチ外で、バルサBの試合に出場して活躍したMFリキ・プッチも同じだ。

 バルサのような絶対的王者は、立ち止まることができない。常にチームを革新させる宿命を背負う。試合終盤に出場したビダルは、「バルサに合わない」と言われるが、そうした選手を取り込むことでチームが進化する部分もある。

「ポグバ獲得? まだなにが起きるか分かりません」

 バルサのスポーツディレクター、ギジェルモ・アモールは、フランス代表MFとの交渉を否定していない。ポール・ポグバはバルサのカラーに合わないが、強化は清濁併せ呑むということか。マーケットが閉鎖する8月31日までは流動的だ。

 おそらく今シーズンも、メッシがバルサのバロメータになるだろう。終了直前、ルイス・スアレスのパスに抜け出し、仕留めたゴールも瞠目に値した。ショーの最後を自ら飾った。

「メッシを見られるというのは我々の幸運である」

 バルベルデはそう表現しているが、まずは開幕戦で王者としての地力を示したといえるだろう。