ノバク・ジョコビッチ(セルビア)はそのキャリアで本当に多くのことを成し遂げてきた。そして今年も、ここまでですでにかなりのことを成し遂げている。 彼はグランドスラムで「12」のシングルス・タイトルを獲得している。この数で彼の上をいくのは、…

 ノバク・ジョコビッチ(セルビア)はそのキャリアで本当に多くのことを成し遂げてきた。そして今年も、ここまでですでにかなりのことを成し遂げている。

 彼はグランドスラムで「12」のシングルス・タイトルを獲得している。この数で彼の上をいくのは、長いテニスの歴史を振り返ってもたった3人だけである。また、彼は4つのグランドスラムに連続で勝ったが、これを成し遂げたのはほかに2人だけしかいない。彼は2016年の勝敗記録「44勝3敗」とタイトル数「6」で首位を走っている。  ウィンブルドンが始まる今、ジョコビッチには追うべきさらなるものがある。それは男子選手が一度も成し遂げておらず、女子選手がたった一度だけ成し遂げたことのある『ゴールデンスラム』だ。1シーズンの間に、4つのグランドスラム大会すべてのシングルス・タイトルを獲得することに加え、五輪のシングルスで金メダルを獲得するという偉業である。1月に全豪(ハードコート)、6月初旬に全仏(レッドクレー)で優勝したジョコビッチは現在、年間グランスラム達成への道のりの中間地点にいる。  男子では、1938年にドン・バッジ(アメリカ)、1962、1969年にロッド・レーバー(オーストラリア)が、1シーズンの間に4つのグランドスラムで優勝する年間グランドスラムに成功した(いずれの年にも五輪はなく、また、いずれにせよ当時のテニスは五輪種目ではなかった)。  「彼には大きなプレッシャーがかかることだろうね」とレーバーはジョコビッチについてこう言ってから、次のように付け足している。

 「でも私の意見では、彼がやり遂げることは大いにあり得ると思うよ」。  今月、ジョコビッチは初の全仏タイトルを勝ち獲り、年間グランドスラムの道半ばまで到達した、1992年のジム・クーリエ(アメリカ)以来の選手となった。その勝利によってグランドスラムの試合における連勝数を「28」まで伸ばした彼は、レーバーと同じ偉業を果たす可能性を揉み消そうとはしなかった。

 「傲慢だと思わないでほしいんだけど…」と前置きしてからジョコビッチはこう続けた。「僕は人生において、すべては達成可能である、と心から思っている」。  彼がそう感じてはいけない理由はどこにもない。  29歳の彼はおそらく今、実力面で心技体のピークにある。テニス界最高のリターン、体をねじり、ウィナーになるかと思われる相手のショットに追いつく比類なき身体的能力、そうしながら一瞬のうちに守備から攻撃に転じる力量、そして向上したサービスを擁するここ最近の彼は、限りなく“無敵”に近い。

 そして、試合から試合、サーフェスからサーフェスと移る中で、ジョコビッチには波がほとんどない。彼の成績の安定性は実に驚くべきものだ。  「人々は、日に日に彼を尊敬するようになってきている」とジョン・マッケンロー(アメリカ)は言う。自身がグランドスラムで7度優勝した経歴を持つマッケンローは、「彼の桁外れの安定性、毎週毎週あげている驚くべき成功を目にしたなら、それも頷けるよ」。  ジョコビッチは、ここまで6度連続でグランドスラムの決勝に進出している。テニスのオープン化後にこれを超える記録を持つのは、ロジャー・フェデラー(スイス)だけだ。ジョコビッチはまた、ほかのより敬意に値する記録も追い上げつつある。フェデラーのグランドスラム優勝回数は「17」だ。それに次ぐのは、ラファエル・ナダル(スペイン)とピート・サンプラス(アメリカ)の「14」である。  「彼は間違いなく今、ベストの一角だ」とボリス・ベッカー(ドイツ)とともにジョコビッチのコーチを務めるマリオン・バイダは言った。

 「誰がもっとも偉大かはわからない。でもグランドスラムの結果で、彼はフェデラーとナダルに近づきつつある」。  ナダルは手首の故障で欠場を余儀なくされたため、ウィンブルドンでジョコビッチとナダルが対戦することはない。34歳になったフェデラーは、ついに年齢からくる衰えの兆しを見せ始めた。フェデラーが一度もATP大会で優勝することなくウィンブルドンを戦うのは、2000年以来のことである。  現時点で、世界1位のジョコビッチにとっての最大の難関は、世界2位のアンディ・マレー(イギリス)だろう。ジョコビッチは全豪、全仏の両決勝でマレーを倒して優勝している。マレーはグランドスラムの決勝に10度進出し、そのうち2度しか勝っていないが、その2度の勝利はジョコビッチから挙げたものだ。  マレーはまた、2012年のロンドン五輪(会場はオールイングランド・クラブ)で金メダルを獲り、全米オープンで優勝し、さらにその翌年にウィンブルドンで優勝したときのコーチ、イワン・レンドル(アメリカ)とふたたびいっしょに働き始めた。  それでもジョコビッチには、8月のリオ五輪で初の金メダルを獲得するチャンスも含め、真に歴史的なシーズンを目指すための能力と勢いがある。  1988年にシュテフィ・グラフ(ドイツ)は男女を通じ、史上唯一のゴールデンスラム(全豪、全仏、ウィンブルドン、ソウル五輪、全米)をやってのけたが、2015年には、年間グランドスラム達成まであと2試合まで迫った(全米準決勝まで至った)セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が、どれほどのプレッシャーと注目に対処しなければならなかったかを世界の皆が目撃した。  セレナは昨年のウィンブルドンを制してグランドスラム4大会連続優勝を果たし、オープン化以降の新記録であるグラフのグランドスラム優勝数「22」まであとひとつと迫ったが、以来グランドスラム大会で優勝することができていない。

 「何かが彼女を押しとどめているのよ」とグランドスラム優勝数「18」の偉人で、現在ESPNの解説者を務めるクリス・エバート(アメリカ)は言う。「その何かは気づかないところでナーバスになっているというような、気持ちの問題かもしれないわね」。(C)AP