6月27日にイギリス・ロンドンで開幕する「ウィンブルドン」。 第5シードで臨む錦織圭(日本/日清食品)には、2回戦を棄権した昨年のウィンブルドンとの、望ましくない共通点がある。前哨戦のハレで負傷。昨年はふくらはぎで、今回は脇腹だ。「1週…

 6月27日にイギリス・ロンドンで開幕する「ウィンブルドン」。

 第5シードで臨む錦織圭(日本/日清食品)には、2回戦を棄権した昨年のウィンブルドンとの、望ましくない共通点がある。前哨戦のハレで負傷。昨年はふくらはぎで、今回は脇腹だ。「1週半経ったし、たぶん大丈夫」と言うが、再発の不安は拭いきれないだろう。ただ、ハレで準決勝を途中棄権した昨年に比べると、2回戦の前に棄権した今回のケースは「少し余裕がある」と話す。たかが3日ほどの差とはいえ、ウィンブルドンの開幕まで中1週間しかないことを考えれば大きい。一日刻みのそういう緻密な準備で大きな舞台に臨むのだ。25日に行われた記者会見で「100%ではないけど、月曜日の1回戦までにはまだ1日ある」と錦織。日々回復している現状にもっとも期待しているのは彼自身だろう。

 錦織にとってウィンブルドンはグランドスラムで唯一ベスト8に進んだことがない大会だ。球足の速い芝はビッグサーバーに有利で、リターンからの攻撃が得意な錦織にとっては試合の中でリズムに乗っていくのが難しい。「もう少し芝で勝利が増えれば自信がつく」と信じているが、芝のシーズンは短いのでそれもなかなかままならない。

 そういう中、1回戦の相手がサム・グロス(オーストラリア)というのはなかなか厳しい。グロスは193cmの長身からのサービスが武器で、2012年に韓国のチャレンジャー大会でテニス史上最速の163マイル(約時速262km)のサービスを記録したこともある選手だ。しかし、世界ランキングは最高時でも昨年2月の24位で、過去1年間におけるファーストサービスでのポイント獲得率はトップ10に入るものの、セカンドサービスになると60位台で、もはや脅威ではない。セカンドサービスをどれだけ攻められるか。ビッグサーバーでもトップ20を維持しているようなレベルの選手に比べれば、付け入る隙は十分にある。

 グロスはそもそもストローカーではないので長いラリーになりそうにないというのも好都合だ。去年は1回戦でシモーネ・ボレッリ(イタリア)にフルセットの接戦を強いられ、ふくらはぎのケガが再発するかたちとなった錦織。グロスも嫌な相手ではあるが、なるべく短時間で試合を終えて負担を抑え、一戦一戦進みながら調整していくことができれば理想的だ。

 1回戦を突破したあと、勝ち上がっていけばマリン・チリッチ(クロアチア)と当たる4回戦までそれほど恐れる敵もいない。楽観的すぎる見方ではあるだろう。しかし今や日本でも多くの人が、錦織はグランドスラムでベスト8あたりに進むのが当然という感覚になっている。その当たり前のイメージをここでもキープできるか。今それがどれだけたいへんか、わかる人はちゃんとわかっている。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)